王都のハンターギルド その2
ベルナールはあごに右手をあて、少し考える仕草をする。
「ああ、君がフランツの言っていたドラゴンスレイヤーを目指してるハンターか」
「多分そうだ」
いずれはと思っている奴は他にもいるだろうけど、俺のように公言する奴はあまりいない。
俺自身、結果的に公言する事になったけど、元々はそんなつもりなかったし。
「ドラゴンスレイヤーの試験か……君は試験についてどれくらい知っている?」
「えっと、ハンターレベル5以上が必須というくらい」
「まあ一般に知られているのはそれくらいだな」
ベルナールはうんうんと頷く。
「なぜだと思う?」
「受験者や関係者に口止めしてるから?」
だとしたら彼も話せないって事になる。
だが、ベルナールはフッと笑うと言った。
「いや、違う。試験内容はいたってシンプルで、形だけの模擬戦と面接だけだ」
「形だけ?」
「そりゃそうさ。ハンターレベル5という資格が必要な時点で実力は折り紙つきだし、面接で落ちるような奴がわざわざ受験するはずないだろ?」
「確かに」
わざわざ受験しに行くんだ。
面接で協調性の無さをアピールする馬鹿や衰えが見え始めた引退間際の人なんかが行くはずもない。
「ハンターレベル5の奴が受けに行けば普通は受かるんだから、試験の内容なんて話題にも噂にもならないってわけさ」
「なるほど」
「今までは……な」
今までは?
「それって――」
「お待たせしました」
俺の質問をさえぎる形でウェイトレスがジョッキを二つ持ってきた。
そして俺が請求された料金を支払うと、一礼したあと空いた食器を持って戻って行く。
「とりあえず飲むか」
「そうだな」
ベルナールの提案に俺は頷く。
「いただきます」
「ああ」
俺たちは軽くジョッキをぶつけてから酒を喉に流し込む。
「ふー」
一息ついたところで俺は再び質問をする。
「で『今までは』とは?」
「今までドラゴンスレイヤーは、ある程度の実力さえあれば基本的に来る者は拒まずという方針を取ってきた。これは離職率やリタイア率が高く常に人手不足だったからだ」
「なるほど」
確かにドラゴンスレイヤーで一期4年を無事に勤め上げられるのは半数程度と聞く。
その上ほとんどの人は一期で辞めてしまうらしいので、常に人が足りない状態だというのも頷ける。
レベル5以上のハンターは少ないし、その中でドラゴンスレイヤーになろうという人の数を考えると、来る者は拒まずという方針なのは納得だ。
「だが、今は来る者は拒まずという方針は取っていない」
「ふむ」
レベル5のベルナールが試験を受けたにもかかわらず今もハンターを続けているという事は、そういう事なんだろう。
「なぜだと思う?」
応募が増えたとか?
いや、応募資格を満たす奴がそう簡単に増えるはずないか。
となると――
「リタイア率が減ったから?」
いや、これもそう簡単には――
「そうだ」
「え?」
「リタイア率が減ったんだよ」
「なんで?」
「再臨の聖騎士という二つ名で呼ばれる秘術戦士が、ドラゴンスレイヤーに加わったからさ」
秘術を使える戦士は確かに珍しい。
だが、一人加わったくらいでリタイア率が下がるのか?
もしそんな事ができるとしたら――
「そのなんとかの聖騎士って奴は、英雄クラスの実力でもあるって言うのか?」
「そうだ」
「え?」
「聞いた事ないか? 最近大陸北部で広まりつつある新しい英雄、新英雄の噂を」