王都のハンターギルド その3
「新英雄?」
「リベランドの英雄大公とドラゴンスレイヤーの再臨の聖騎士。二人の英雄の事だ」
英雄といって誰もが真っ先に思い浮かべるのは伝説の五英雄。
そのほとんどがドラゴンとの戦いで名を馳せた人物で、一人でドラゴンと渡り合ったとされている。
新英雄というのだから、恐らくはそれにちなんだ呼び名。
という事は――
「その二人はドラゴンと渡り合う実力があるとでも言うのか?」
「あくまでも噂だが、二人ともドラゴンを倒した事があるらしい」
「噂では、だろ?」
「確かに英雄大公の方は噂でしか知らないし、リベランドなんて魔導帝国をはさんで向こう側の国の事だ。話に尾ひれがついてるかもしれないな」
「だよなぁ」
大公って言うくらいだし、ドラゴンを倒した軍を指揮してたとかそんなのだろ。
「だが、再臨の聖騎士は違う」
「と言うと?」
「現役のドラゴンスレイヤーに聞いたのさ。噂は本当なのかと」
「答えは?」
「間違いないという事だった。そもそも再臨の聖騎士という二つ名自体、彼とドラゴンの戦いを見た者たちが聖王の再臨という意味で呼び始めた事が始まりらしい」
すべての国が聖王教を国教とする聖王連合において、英雄と聞いて最初に思い浮かべるのが聖王のもう一つの呼び名、白銀の聖騎士だ。
もう一人、聖王の遣いと呼ばれる聖銀の勇者もいるけど、彼がドラゴンと戦ったという伝承は残ってない。
それに秘術を使う戦士というのなら、やはり勇者の再臨ではなく高度な秘術を使ったとされる聖王の再臨と言われるのが自然だろう。
しかし再臨の聖騎士か。
ちょっと信じがたいけど本当にそんな人物がいるのなら、ドラゴンスレイヤーのリタイア率は大幅に下がりそうだ。
「つまり、その再臨の聖騎士がドラゴンスレイヤーに加わったから、リタイア率が減って人手不足が解消され、採用条件が厳しくなったというわけか」
「おおむね間違いじゃないが少し違う」
「と言うと?」
「俺が試験を受けたとき、模擬戦を見た限り俺と同等以下の奴と、俺と同等以上の奴がいたんだが……受かったのは俺と同等以下の奴だった」
ベルナールも受かってないんだから、三人の内、一番弱い奴が受かったというわけか。
「コネがあったとかじゃないのか?」
「その可能性はゼロとは言えないけど、俺は才能の伸び代と言うか上限みたいなものを見た結果なんじゃないかと考えてる」
「その根拠は?」
「面接のとき、再臨の聖騎士に『あなたの秘術はどれくらいのレベルですか?』と聞かれたからかな」
え? 騎士風の格好だからてっきり戦士だと思ってたけど……。
「もしかして、あんたって秘術師なのか?」
「いや、戦士だよ。確かに秘術も使えるけど、水を出したり火をつけたりといういわゆる生活魔法と呼ばれる程度までだから、特に公言はしていない」
「つまり、知ってるはずのない能力を再臨の聖騎士は見抜いてきたと」
「ああ。そして俺が生活魔法くらいしか使えないと言ったら、『あなたが更なる高みを目指すのであれば、フォースよりも秘術を鍛えるべきだ』と言われた」
「うーむ」
疑えば切が無い。
受かった人にはコネがあり、ベルナールの秘術については公言していないとはいえ秘密にしているわけではないみたいだから、あらかじめ調べていたとすれば説明がつく。
しかし、もし再臨の聖騎士に才能の上限みたいなものが見る能力があるとしたら、三人の中では一番弱いが伸び代は他の二人よりある人を採用するというのも納得できるし、ベルナールのフォースには伸び代があまり無いが、秘術に関しては伸び代が十分にあるというアドバイスもできるという事になる。
「まあ、あくまでも私見だ。採用や不採用の理由は公開されていないからな」
「あんたはそれで納得できたのか?」
「俺の場合は秘術が戦闘に使えるレベルになったらまた来てくれと言われたから、納得というか仕方ないかなと思ったね」
「秘術を鍛えて再チャレンジって事?」
ベルナールは苦笑しながら首を振る。
「俺はどうしてもドラゴンスレイヤーになりたいってわけじゃないし、流石に今から秘術を鍛える気にはなぁ」
しかしベルナールの予想が正しいとしたら、レベル5になってもその先まで行けるような才能がないとドラゴンスレイヤーにはなれないという事になる。
レベル6になってから受ければ多分受かるんだろうけど……それも確実とは言えない。
「俺はどうすればドラゴンスレイヤーになれるんだろう……」
俺のつぶやきにベルナールは笑った。
「君は大した自信家だな。俺がレベル3の頃はレベル5なんて夢のまた夢だったけど、君は既にその先を見ているのか」
その言葉に我に返る。
俺は今レベル3で、レベル5になれる才能があるかもわからない。
それでも行けるところまで行こうと今まで日々努力だけはしてきた。
ドラゴンスレイヤーの採用条件が自分ではどうにもならない才能の上限だったとしても、これまで通りそれを続けて行くだけだ。
「いや、そこに行ける自信があるってわけじゃないさ。ただ、目指すところがちょっとぼやけた事に少し戸惑った」
「そうか……なら聞かない方がよかったかもしれないな」
俺は首を振る。
「いや、聞いてよかったよ。無駄になるかもしれないからといってそこに向かう努力をやめる気はないけど、もしその直前まで行って夢破れる事になっても、聞いていればそこまでのショックはないだろうしね」
「まあ、そうならない事を祈るよ」
ベルナールはニッと笑ってからジョッキの中身を飲み干し――
「どうも」
つられたわけじゃないけど、俺もニッと笑ってジョッキの中身を飲み干す。
そして二人同時に空になったジョッキをテーブルに置くと、すぐ後ろから声が聞こえてきた。
「お姉さんジョッキ三つね」
「はーい」
振り向くと、そこに居たのはフランツ。
そして彼は俺とベルナールの間の席に腰掛ける。
「話は聞けたか?」
「ああ。今終わったところだ」
「悪いなベルナール」
「いいさ。ちょうどいい酒の肴になった」
「じゃあ次の肴に俺が大活躍した魔物退治の話しをしてやろう」
「またその話か」
あきれ気味に言うベルナールをよそに、フランツは話し始める。
そしてそのあと俺たちは誇張を交えつつ、今までこなした依頼であった笑える話や戦った害獣の話なんかをして大いに盛り上がり――夜が明け始めるまで飲み明かした。
楽しいひとときの代償として俺のオフは二日酔いとの戦いとなったが、翌日の仕事が始まるまでには復活し、仕事に支障をきたす事は無かったからセーフだろう。
特に問題なく依頼が終わり、ラムールに戻ってから数日。
日課のジョギングを終え朝食を取るためにギルドの食堂に行くと、珍しく俺より先にジグが来ていた。
俺は食事の載った盆を取り、代金を払うとジグの座っているテーブルに向かう。
「おはよう。珍しく早いな」
「おはよう。何か目が覚めちゃってね」
俺とジグが黙々と朝食を取っていると、ロイとレウもやってきた。
「よう」
「よっ」
「ああ、おはよう」
「おはよー」
挨拶を交わし、二人も席に着く。
「全員いる事だし、新しい依頼が掲示板に張り出される前に、次の依頼について話し合っておくか」
「ああ」
「そうだね」
ロイの提案に全員頷く。
「さて、どんなのがいい?」
「僕はこの前やった隊商の護衛みたいなのがいいな」
「お前それ楽だからだろ」
この前は行きも帰りも何も起きず、ただ旅をしただけだったからな。
「確かにこの前は楽だったけど、盗賊団とかが襲って来たらかなり大変だぞ」
レウの言う通りだ。
この辺は治安が良い方だからあまり聞かないが、盗賊団や野盗がまったくいないというわけじゃない。
もちろん勝てないとは思わないけど、害獣とかと違って頭を使ってくるし、悪人とはいえ人を殺すのにはやはり少し抵抗がある。
そんな感じで、あれでもない、これでもないと話がまとまらないうちに依頼が張り出される時間になった。
今日はパスかコボルトやゴブリンあたりを退治するような簡単な依頼かな。
そんな事を考えていると、みんなが注目する掲示板の前に一人の人物が現れる。
それはいつも掲示板に依頼書を貼り付ける受付のお姉さんではなくマスターだった。
「お前ら、よく聞け」
マスターの通る声が響き、ギルドが静寂に包まれる。
「都市防衛法に基づき、都市から協力要請が出た」
都市防衛法に基づく協力要請。
それは都市が危機的状況になったときに出されるもので、主にモンスターの襲撃や災害、他国からの侵略などで出されると規定されているが――
静寂を打ち破り、誰かが口を開いた。
「マスター、それってまさか……」
「ああ、ドラゴンだ」




