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仲間の過去 その3

 何度か行った事のあるラムールに近い森でのゴブリン狩り。


 いつもは精々2~3匹しか狩れなかったが、その日は既に4匹を狩り終えそろそろ帰ろうかというところだった。


 少し離れた森の奥に一匹のゴブリン。


 既に森のかなり深くまで踏み込んでいて普段なら行かないような場所だったが、調子よく狩りができていた彼らの警戒心は薄れていた。


 最後にもう一匹。


 そんな軽い気持ちで踏み込んでいった先で数十匹というゴブリンに囲まれる。


 戦闘に自信がある彼らでも対処不可能な数だ。


『逃げろ!』


 それは誰の声だったのだろうか……冷静さを失っていた彼らはばらばらに、必死にひたすら走った。


 最初にラムールの門にたどり着いたのはレウ。


 遅れて怪我を負い額から血を流しながらも何とかロイが戻ってきた。


 しかし、なかなかメニは戻ってこない。


「メニを助けに戻ろう」


 ロイの提案にレウは首を振る。


「俺たちだけじゃあれをどうにかするのは無理だ」


 彼らはギルドに戻り助けを求めた。


 ハンターは自己責任。


 特に、依頼でもない害獣狩りをしていた彼らを助ける義理はない。


 必死で頼み込む彼らに対し、ここぞとばかりに嫌味や罵声をあびせる者もいた。


「報酬は言い値を払う。足りない分はこの先どんなにかかってでも必ず払う。だからメニを助けてくれ」


 頭を床にこすりつけ必死で懇願する二人にを見てギルドマスターは言う。


「今回の事は俺の新人教育が失敗したせいだ。みんなすまなかった。もしこの依頼、受けても良いと思う奴は俺と一緒に来てくれ」


 そう言って頭を下げるギルドマスターを見て、数パーティがその依頼を受けた。


 だが、時既に遅し――


 現場に戻った彼らが目にしたのは変わり果てたメニの姿だった。





 そこまで話すとレウは言葉を詰まらせ、近くにある薪を焚き火にくべる。


 そしてしばしの静寂――


 バチッという音を立て焚き火がはぜるとレウは再び口を開く。


「その後しばらく俺たちは何もせず、ただ無為に日々を過ごしたが……稼がなければ生きてはいけない。所持金が心もとなくなった頃、仕事を再開した。流石にもう害獣狩りはしなかったけどな」


 そう言ってレウは苦笑した。


 俺も釣られて苦笑する。


「そしていつの間にか俺たちはレベル3になり、目標だったブロンズプレートを手に入れた。まあ、結局王都には行かなかったけどな。メニがいなければ意味が無いというのもあったけど、それ以上にあいつが眠るラムールを離れる気にはなれなかったから」


「レウ……」


 どんな言葉を掛けるべきか、俺には思いつかない。


「時間が経てばつらい事だってある程度薄れてくる。何年も前の事だ。忘れる事は無いが――それでも今は前向きに生きていけている」


 みんな大なり小なりつらい事はある。


 それは俺にもあるし、多分ジグにもあるんだろう。


 そのせいで何もできなくなる事もあるけど、ずっとそのままではいられないし、そのままでいてはいけないんだと思う。


「お前も知っての通り魔術師や秘術師っていうのはパーティにいれば頼もしいが、俺たち戦士と違ってソロでは弱い」


「そうだね」


「だが、今日お前はジグを置いてゴブリンを深追いしただろ?」


「うん……」


「多分ロイが怒ったのは、深追いしたりメニを置いて逃げたあのときの俺たちと、お前が重なって見えたからだろう」


「ああ……」


 俺の行動がロイのトラウマを刺激してしまったのか。


「お前最近あせってたんじゃないか?」


「そんな事――」


 無いとは言えない。


 確かに停滞しているような毎日に、あせりのようなものを感じていた。


「初めてお前と会った日、ロイと模擬戦をしたお前を見て俺は危うさを感じた」


「危うさ? 弱かったから?」


「逆だ。あのときのお前は、多分俺やロイがハンターを始めた頃より強かった」


「そうなの?」


「ドラゴンスレイヤーになりたいと言うだけの事はあると思ったよ」


「はは、そうかな」


 いまだ二人の実力に追いついてはいないと思うけど、そう言われると悪い気はしない。


「お前の危うさは、その高い目標と経験に見合わない実力にある」


「それってどういう事?」


「目標を高く持てば自然と焦りが生まれる。なかなか近づけずに足踏みしている感覚になるからだ」


「……確かに」


「そして、経験に見合わない実力は油断につながる。その油断はお前だけでなく仲間も危険にさらす」


「……そうだね」


 今日の事は深く考えていたわけじゃないけど、心のどこかで思っていたかもしれない。さっと倒して戻ればいいと。


「マスターが俺たちにお前を預けたのは、そういう経験をした俺たちならお前を正しく導いていけると思ったからだろう」


「そうだったのか」


「まあ、結局今日のような事は起きてしまったが」


「ごめん」


「今回は俺たちが間に合ったからいいさ。だけど次もうまくいくとは限らない。そのとき犠牲になるのは俺なのかおまえ自身なのか、もしかしたらパーティ以外の誰かなのかもしれない。だが、お前次第でそんな事を起こさないようにはできる」


「うん」


「経験は一朝一夕で手に入るものじゃないが、明日は今日より少しは成長しているはずだ。後悔しないようにあせらず、一歩ずつ確実に強くなっていこうぜ。お前には……明日があるんだから」


「うん……そうだね」


 そこまで言うとレウは遠くを見るような目で焚き火の炎を見ていた。


 炎の遥か先にはラムールがある。


 もう明日が来ない友の事を考えているのだろうか。


「なんか、長話になっちまったな」


「はは、そうだね」


「俺は少し寝るから、あとは任せていいか?」


「ああ、わかった」


 そういうとレウは布を巻きつけ焚き火を背に横になった。


 俺が新しい薪をくべると焚き火が少しはぜる。


 明日があるんだから……か。


 あせらず一歩ずつ……焚き火の炎を眺めながら、心の中でその言葉を何度も繰り返した。

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