4-11
皆様からいただいたご意見より、4-10までを修正いたしました。
4-11より連載を再開いたしますが、また何かありましたらご指摘願います。
「葡萄?」
逆さまの世界の中で、濃い紫色の果実が視界に映る。たわわに実るそれは、俺の良く知る葡萄そのものだ。
たくさんの果実が俺の鼻を甘い香りでくすぐる。こんな状況でなければ摘んで、食べてみたいところなのだが、その葡萄の蔓が俺に巻きついている。
「でぇっ!?」
だが身動きの取れない俺に向かって、野球のバットでも振るかのように、太い枝が迫って来る。
美玖ちゃんは俺を懲らしめろと言っていたが、こんなものが直撃すれば打撲では済まない。
――ブゥンッ
俺の頭目がけて迫って来た、ホームラン狙いの豪快なスイングを、腹筋を使って何とか避ける。
だが、相手は人間ではなく樹木だ。一度は何とか避けたのだが、続けざまに第二撃――別の太い枝が迫って来た。
流石にこのタイミングは避けられない!
一撃を覚悟し、身を硬くしていたのだが、突如俺の足が解放されて地面に落下する。
突然の事で顔から石畳へ着地してしまったのだが、あの一撃を受けるよりは百倍良い。
「勇樹君、早く逃げて! 召喚されたこの方は『ディオニュソス』。葡萄の木を自在に操る神様よ!」
俺に左手を向けたままの姿で固まり、叫ぶラブル。
おそらくラブルが魔法か何かで助けてくれたのだろう。俺の足元に千切れた蔦が転がっている。
そして仮面の男の威圧からか、そのままの姿から動けずにいるようだ。
「ラブル、ありがとう!」
大声で感謝の声を伝えると、こっちにぎこちない笑顔を向けてくれたような気がした。
そして俺は、すぐさまその場を逃げ出し、大きく距離を取る。
――パシィッ!
かなり距離を取ったはずなのだが、再び背後から鞭のような攻撃を受ける。
「なっ!?」
見ると、さっきの木とは別の木が背後に迫っている。この街は、そんなに沢山の葡萄の木があるのか!?
いや違う! 石畳の無い剥き出しの地面から、自然では有り得ない速度で木が生えてきた。
葡萄の木を操るという神様――ディオニュソスは、木の成長も自由自在に操れるようだ。
二本、三本と新たな木がそこかしこから次々と生えて来る。
まずい。このままだと囲まれる。
左右と後ろは既にダメ。前には進めるがディオニュソスが居る。はっきり言って、あの男と肉弾戦をするくらいなら、この木々に囲まれた中で逃げ続ける方がいくらかマシな気がする。
だが、三方向から来る攻撃をかわし続けられるのか!? やはりこちらから攻撃するしかないか。
って、待てよ。あの神様は美玖ちゃんがチートスキルで強制召喚したのだから、ここに居られるのは十分のハズ。俺が十分逃げ続けるだけで、あの男は居なくなる。
――ブゥンッ
と、気付いたものの、足元を狙った低い一撃が放たれる。
それを跳び越えて避けたのだが、着地点に緑の網――葡萄の蔓が幾重にも敷かれている。あんなものに捕まってしまったら、間違いなく脱出できず、袋叩きにされてしまう!
しかし重力に逆らう事も出来ず俺はその網に……って、逆らえる!
「飛べ!」
地面に着地する前、そこへ踏み台でもあるかのように、再び俺は上に跳ぶ。高く高く、もっと高く。
葡萄の木々が俺を追うように、急成長して大きくなるのだが、ラブルたちが米粒大くらいの大きさになるまで上がると、限界なのか木が追って来なくなった。
「よし、勝った!」
正直、下を見るとかなり怖いのだが、ここなら木の攻撃は届かない。だから叩き落とされたりする心配もない。
幸い、美玖ちゃんは二人目を召喚しないようだ。だから俺は、十分経過するまでここで様子を見ていれば良いのだ。
案の定、暫くすると葡萄の木がどんどん縮んでいく。おそらく、これだけ上空だと葡萄の木では届かないと判断したのだろう。
木々の大きさに注意を払いながら、美玖ちゃんやディオニュソスの様子が見える辺りまで降りてきた。
ついに葡萄の木は全て地中へ帰って行き、元の街の姿に戻る。
だが、諦めたのかな? と思っていると、突如空が暗くなり、石畳に黒い幾何学模様――大きな魔法陣が描かれた。




