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美玖ちゃんの声と共に、見慣れた光の輪が現れる。
だが今回現れたのは俺の頭上ではなく、彼女の斜め後ろの地面だ。その輪が地面から離れ、重力に逆らうように昇っていく。
彼女の小さな身長を遥かに越え、二メートル近くまで昇ったところでようやく光が霧散する。
そして姿を現したのは、仮面を着けた細身で長身の男だった。
――ゾワッ
男の姿が現れた瞬間、身体中の気が逆立つような、その男が居るだけで逃げ出したくなるようなプレッシャーを受ける。
両の手に何も持たず、ただ仮面から鋭い眼光が覗くだけなのだが、俺の本能が激しい警鐘を鳴らしていた――逃げろと。
「何用か」
その男が一言、美玖ちゃんに尋ねる。俺はその一言だけで威圧されそうになるのだが、頭に血が上った状態だからなのか、それとも彼女が召喚主だからなのか、美玖ちゃんは一拍置いて言葉を返す。
「その男、春日勇樹を懲らしめて」
「承知」
ギロリと仮面の中の瞳が俺を睨む。
「勇樹君、逃げて! この方には勝ち目が無い!」
ラブルに言われるまでもなく、既に俺は逃走準備に移っている。
その男を視界から外さない程度に身体を横に向け、サイドステップから斜めに走り出す。
ただの追いかけっこなら、背を向けて真っ直ぐ走ればよい。だが相手が素手と言えども、この世界ではどんな攻撃をしてくるかわからない。
なので一先ず建物の影まで行き、様子を見ようと思うのだが、追いかけてくる様子は無さそうだ。
「あいつは一体何ものなんだ!?」
三十メートル程離れ、建物の影に隠れて様子を見ているのだが、人間とは思えない存在感を放っている。
オーラとでも言えばよいのだろうか、ただ仁王立ちしているだけの男から恐怖を感じてしまう。
――パシィッ!
「ぐはっ!」
突如、背後から何かで背中を叩かれ、倒れ込むように建物の影から通りへ、文字通り叩き出される。顔を上げ仮面の男に視線を向けるが、美玖の傍で立ったままだ。
一体誰が!?
しかし、先ほどまで俺が居た場所に人の気配は無い。ならば、やはりあの男の仕業か!?
こっちも反撃を――と思うのだが、今の俺が出来るのは「突風」を起こすだけ。しかも、周囲には美玖ちゃんやラブルたちまで居るので、確実に巻きこんでしまう。
肉弾戦は……止めておいた方が良いな。あの男の近くに行くと、放たれる威圧感で身体が固まってしまいそうだ。
幸いというべきか、美玖の指定した攻撃対象は俺一人になっているようで、ティディやラブルが攻撃される様子はない。ただラブルは何とか立っているものの、ティディは仮面の男に怯えてうずくまってしまっている。
――パシィッ!
「ぐっ!」
背後から俺を襲う二度目の攻撃。
振り返るがやはり誰も居ない。くそっ! 透明人間でも居るというのか!?
どうやって攻撃されているのか。それすらわからないまま仮面の男へ視線を戻すと、奴は逆さまにひっくり返って居る。
いや、違う! 仮面の男がひっくり返って居るわけではない。今、俺が逆さまに吊るし上げられているんだ!
見れば、いつの間にか緑のロープが右足首に巻きついていて、その細いロープ一本で俺は吊り上げられていた。
逆さまになったまま、足首、ロープと視線を移していくと、そこにあるのは一本の大きな木。そして実る沢山の紫色をした果実――葡萄。
その葡萄の木がまるで意志を持つかのように、伸びた蔓が俺の足首に巻きついていた。
内容を微修正いたしました。




