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翌朝。昨日ラブルに怒られたにも関わらず、今日もティディが起こしにきてくれた。
今日は初めて会った時に着ていたようなホットパンツ姿だ。
「お兄さん、朝ご飯だよー」
キュロットスカートが醸し出す、もしかしたらいろいろ見えてしまうかも……というチラリズムも良いのだが、ホットパンツから大胆に露出される健康的な太ももも良い。
そんな考えが見透かされてしまったのか、俺が目覚めたとわかったら、直ぐにティディは自室へ戻ってしまった。
キラキラと朝の日差しが眩しく輝く。
朝早くから港行きの馬車へ乗り、昼前には南西行きの船へ乗り込んだ。
潮の香りと海鳥たちの鳴き声と共に、俺たち一行を乗せた船――トパーズ号が陸地を離れ、広い海原へと進んで行く。
陽の光が反射し、輝く水面を眺めていると、船の近くを沢山の魚が泳いでいるのが見てとれる。
「お兄さん、凄いね。これ、海の上を走っているよ」
「まぁ、船だしね。といっても、俺もこんなのに乗るのは初めてだけど」
この船は『キャラベル』という帆船だそうで、小さいが小回りが利き、陸地近くを進む事が出来るとのこと。
ただ、この世界には魔法を動力にして進む高速船も存在するそうで、風を捉えて進むこの船は、高速船と比べてしまうと遅いそうだ。
それに魔力の航行補正がないため、この小さな船はとにかく揺れる。あてがわれた客室という名の大部屋へ退散するが、右へ左へと揺らされてしまう。
「せっかく移動中に魔法の練習しようと思っていたのに」
「この揺れじゃしかたないよー」
「んー、だからと言って何もしないのもなー。って、そうだ」
美玖ちゃんに貰った『空を飛べる靴』を使えば、揺れないのではなかろうか。
不思議な手触りの青い革で出来たブーツに履き替え、事前に教えて貰っていた発動の言葉『飛べ』と呟いた。
「お兄さん、新しい靴買ったんだー。でも、何で今? それに揺れるから座っていた方が良いんじゃない?」
「あれ? いや、えっと……どうしたんだろ」
空を飛ぶ靴と言っておきながら、全く浮く気配がない。もしかして美玖ちゃんが買わされたのは、やっぱり不良品だったのだろうか。
「んー、何でだ? とうっ! って、うわぁっ!」
軽く跳んでみたのだが、両の足が床から離れた瞬間、結構な速さで二人が俺から遠ざかって行く。
「勇樹君! 一体どこに行くの!?」
いや違う。どうやら、俺が二人から離れて行ってしまっているのだ。
周囲の壁がどんどん前方へ流れて行き、そして間もなく、
――ぐはっ!
背中を後ろの壁に強打して、ようやく俺は停まった。そして、そのままずるずると床へ倒れ込む。
「お兄さん、何してたの?」
「いや、空を飛べるっていうアイテムを貰ったから、使ってみたのだけれど、船の上で使うものではなかったね」
自分自身が船に乗り込んでいるため認識が甘かったのだが、今も俺たちは海の上を高速移動しているのだ。
空を飛ぶということは、その高速移動している船から離れるわけで。宙に浮いて慣性の法則から外れた俺は、船内に居るにも関わらず、船から置いてきぼりをくらってしまったのだった。
便利そうな魔法やマジックアイテムも、使用する時と場合が重要なようだ。
内容を微修正しました。




