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「はぁはぁ……た、ただいま」
「勇樹君、お疲れ様。ところで、どうしてティディとはぐれたの?」
それはこっちが聞きたいくらいなのだが。
突如ティディに置き去りにされた後、周囲の人々から「痴話喧嘩」だとか、「女の子にはもっと真摯な態度で」とか、「爆発しろ」だとか、一方的に白い目で見られながらも何とか宿屋に辿りついた。
「と、ところでティディは?」
「今はお風呂に入っているわよ。いつもは夕食の後に入るのに、どうしたのかしら」
リンゴを落とした事を謝りたいのだが、お風呂ならば仕方が無い。流石に入って行くわけにもいかないし。
それより、俺がティディの何かを奪ったらしいのだが、何をしてしまったのだろうか。今後のためにもちゃんと話を聞いて、場合によっては謝らないと。
「あ、そうだ。ティディがお風呂に入っている間に、夕食を作ってしまおうと思うのだけど、勇樹君手伝ってくれる?」
「もちろん」
――トントントン
ラブルによって、リズミカルに紅色の根菜が一口大へと刻まれていく。
「はい、次はこれ」
「うん、ありがとー」
ジャガイモのようでサトイモのような、丸い芋の皮を剥いてラブルに手渡すと、これもすぐに一口大へと姿を変え、鍋の中へ。
「あ、勇樹君。お皿準備してくれるかな」
「はーい」
何でもないような只の夕食の準備なのだが、やはりこれも新鮮に感じてしまう。ちょっと楽しい。
「勇樹君、ちょっと味見してくれるかな」
「おっけー」
今晩の夕食は、ポトフのようにいろいろな野菜を煮込んだスープだ。
ラブルから差し出された小皿の中身を口に含むと、いろいろな素材の味が混在しているのだが、互いに喧嘩する事無く引き立て合っているような気がする。
「美味しいよ。塩加減も絶妙だし」
「そう? ありがとう」
そう言って、ラブルも小皿を一口。
「あっ……」
「どうしたの?」
何か入れ忘れたものでもあったのだろうか。小皿を口にした瞬間、ラブルが小さく声をあげる。
ラブルの顔を覗きこむと、少し頬が赤くなっている。アルコールでも入っていたのだろうか。
「か、間接……」
「えっ?」
「な、何でもないのっ! ちょ、ちょっと私もお風呂で汗を流してくるから、勇樹君はお鍋を見ていて」
「う、うん」
料理の最中にお風呂……まぁ、後は煮込むだけだから構わないけれど、なかなかに唐突だ。
「覗いちゃダメよ」
「それは、覗けってフリと思って良い?」
「違うわよっ」
お約束とも言えるやり取りで和みつつ、少しだけ、ほんの少しだけだけど、初めて会った時に見たラブルの白い胸を思い出す。
「やはり、少しくらいは覗いておくべきかな」
「そうだよね。ラブルはボクと違って胸大きいしね」
「そうそう……って、ティディ!?」
いつから居たのか、キッチンの入口から身体を半分だけ見せて、ジト目で俺を見ている。
いつものフトモモ出しまくりの短いパンツやスカートではなく、温かそうな長袖のパジャマ姿のティディ。髪も完全に乾いておらず、パジャマ効果もあって幼さがさらに増している。
「で、お兄さんはラブルとボクの、どっちが見たいの?」
――ぶはっ!
ティディのいきなりの発言に思わず噴いてしまう。
「それは、どっちも……って、いやいや。いきなり何の話なんだよ」
「べっつにぃー」
何故か拗ねた様子なのだが、幸いキッチンから出て行く気配は無い。
「ところで、さっき外でティディが言っていたのって何? 確か『ボクの初めてを……』」
「きゃー!」
まだ話も途中なのに、突如ティディが俺に向かってくる。
「ちょっ! 火を使っているし、危ないって」
「ダメー! ダメなのー!」
俺の言葉に聞く耳を持ってくれないティディが飛び込んできたせいで、大きくよろけてしまう。
――このままだと、馬車での二の舞になる――
「ちょっと落ちついて」
飛び込んできたティディを受け止め、声をかけてみたのだが、パニックになっているのか顔を真っ赤にして手をバタバタさせている。
すぐ傍には、火にかけられた鍋もある。どうすればティディを落ちつかせられるのか……これで、どうだっ!?
「で、二人は何をしているの?」
俺が強引にティディをお姫様抱っこしたところで、ラブルの冷たい視線と言葉が俺たちを凍りつかせ、冷静にさせたのだった。
会話文を微修正しました。
 




