4-2
「お兄さん、おかえりー」
「ただいま」
このやり取りも何度目になるのだろうか。
黄金都市と言いながら、普通の石畳が敷かれている通りへ戻ってきた。人が大勢いるので、何人かは突如現れた俺を見て驚くものの、さして興味も無さそうに歩いて行く。
「なんだか、屈強な男性が多い所だね」
「このマイシーニは、鉱山から金が沢山採れるってラブルが言ってたよー。きっと、みんな金を掘りに来ているのー」
「なるほど。それで、黄金都市か。それで、そのラブルは?」
「この先にある『ゴールドラッシュ』って名前の宿屋に居るのー。宿泊手続きを済ませておくから、お兄さんが戻ってきたら連れてきてってー」
ティディの案内で宿屋を目指し、二人並んで歩いて行く。
既に日が傾いており、街がオレンジ色に染まっているのだが、まだまだ人通りは多い。いや、鉱山で働く男が多いというのだから、むしろ日が落ちてからが商売の始まりだろう。よく見ると、そこら中に屋台や酒場が軒を連ねている。
その中の一つに焼いたリンゴを売る屋台を見つけ、こっそりとティディが買ってきた。なんでも食事前の買い食いはラブルが怒るそうで、口止め料として俺も少し食べて良いらしい。
というより共犯にするために、むしろ食べて欲しいと。
「じゃあ、遠慮なく。いただきまーす」
リンゴの芯をくりぬき、串に刺して焼いただけの簡単なもの。だが焼くことで甘味が増し、柔らかくなったそれは外で食べるという効果も相まってか非常に美味しい。
そういえば俺も誰かにねだられて、よく焼きリンゴを作った気がする。もちろん、こんな串に刺したわけではなく、一口大に切ってフライパンで焼いていたのだが。
……っと、俺は誰に焼きリンゴをねだられていたのだろう。自称妻の美玖ちゃんだろうか?
しかし、もしも美玖ちゃんの言っている事が本当で、実は美玖ちゃんと俺が元々は夫婦だったとしたらどうしよう。
今は美玖ちゃんの証言だけしかないのだが、何か決定的な記憶や品が出てきた時、俺はラブルやティディたちと別れ、美玖ちゃんと行動を共にすべきなのだろうか。
そもそも本当に夫婦だったとしたら、今こうしてティディと二人で居る事すら、美玖ちゃんが知ったらショックを受ける事なのではないだろうか。
だが俺に記憶は無く、確証も無い。二人には助けて貰った恩義もあるし……ぼーっと考え事をしながら、二口目をかじろうとしたその時だ。意識が目の前のリンゴに全く向けられていなかったのが悪かった。
事もあろうに俺は、ティディが大きな口を開け、今まさに食べようとしている箇所を、食べにいってしまった。
――ガチッ
軽く触れ合う互いの歯。もの凄く痛いわけではないが、ティディは焼きリンゴに。俺は考え事に夢中となっていたため、双方予想外の衝撃に驚き、ティディに至っては手にしていたリンゴを落としてしまった。
「あ、あ、あ……」
「ご、ごめん。リンゴ落ちちゃったね。違うの買ってくるよ」
ティディが涙目で、落ちたリンゴと俺とを交互に見る。どうやらティディはリンゴが大好きだったようで、かなり悪い事をしてしまった。
「ち、ちが……」
「えっ!? 血が出たの!? ちょっと見せてみて」
小さな口を見ようと、少し紅みがかったティディの幼い顔に触れた瞬間、
「違うのー! お兄さんに、ボクの初めてを奪われたのー!」
よくわからない事を叫びながら、ティディが走り去っていく。
まずい! ここで置いていかれたら、確実に迷子だ!
「待って、ティディ! 待ってってば!」
「いやー、来ないでー!」
速い。とにかく速い。人通りの多い道なのに、小柄な身体ですいすいと避けながら、異様な速さで走っていく。
「いや、だから俺を置いて行くなー!」
俺の心からの叫びが虚しく響き渡る。そして小さな少女は人混みに紛れてしまい、完全に俺は見失ってしまった。
内容を少し修正しました。




