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異世界転生でチートしてます……妻が。  作者: パセリ
第四章 夫婦喧嘩は突然に
31/48

4-1

「う、うん。よくわからないんだけど、一方的に喋りかけて来る兄妹の商人さんには会ったよ」

「そうそう、その商人が異様に美玖ちゃんに怯えていたのだけれど、一体何をしたの?」

 黄金都市マイシーニに到着した後、やっぱり建物が黄金で出来ているわけないよなと、わかってはいたけれど僅かにあった期待が裏切られ、少し残念だと思っていた矢先。

 結構人の多い通りから、俺は一瞬にしてどこかのカフェに召喚されていた。

 今は美玖から進められるがまま席へ着き、コーヒーのような、いやコーヒーだと信じたい黒くて苦い液体を飲んでいる。

 そして、一息ついた所で早速ソロンとクロエの二人組について心当たりが無いか、聞いてみたわけだ。

「えっと、何度も商品を勧めてくるから、一つ買う事にしたの」

「あー、確かにしつこかったね」

「でも、ちょうど探しているものに似ていたから、それでも良いかなって。で、ホテルに帰ってから確認したら不良品だったの」

 あの二人なら故意にやりそうだ。気付かれる頃には遠い場所に居るから、もう二度と会う事もない――なんて思っていたのだろう。

「確認って、どうやったの?」

「えっとね。本業は商人なんだけど『お金さえ貰えれば魔王退治の旅にでもついて行く』っていうのがキャッチコピーで、本当に魔王を倒したってゆー凄い人が居るんだ」

 凄いな。魔王がどれくらい強いのかは知らないけれど、商人辞めて戦士として生きていけば良いのに。

「って、まさかその人を呼んで確認してもらったの?」

「うん。マジックアイテムはよくわからないし、素人の私が触って変な事になっちゃっても嫌だから、いつも来てもらって使い方を教わるんだー」

 来てもらってというか、無理矢理呼んでってのが正しそうだが。

 まぁ何にせよ、その魔王を倒す程の凄い人を、出張買取査定してもらうくらいのノリで使えるという事か。

「それでね。不良品だって事で、交換してもらうと思ったのだけど、連絡先とかわからないから、私のスキルで召喚したの」

「えっと、その凄い人が一緒に居る時に?」

「うん。私は詳しい話がわからないし、商人同士で話してもらった方がスムーズかなって」

 魔王を倒した商人から、不良品を売りつけた商人へのスムーズな話……いや、想像するのは止めておこう。

「それで、ちゃんとした正規品が入荷出来るまで、七回くらい? 八回かな? 繰り返したんだー。あれは大変だったよー」

 いや、本当に大変だったのは商人たちだろう。自分の都合など無視で何度も無理矢理召喚されては、たまったものではない。

 それにソロンとクロエからすれば、毎回その凄い人が『スムーズな話』をしてくるわけで。これはトラウマにもなるだろう。

「あ、そうそう。ちょっと待っててね」

 そう言って、美玖が杖を軽く振りかざすと、何度か見た事のある光の輪が現れる。

 光の輪が消えると、そこには眼鏡を掛けた二十代くらいの可愛らしい女性が、両手で大きな箱を抱えて立っていた。

 肩より少し長い黒髪を二つに束ねており、白いレースが付いた黒いワンピースを身に纏っている。そう、まるでメイドのような――って、メイドそのものじゃないか。

「えっと、こちらの方は?」

「さっき雇った和佳のどかさん。私たちみたく、転生して来ちゃったんだけど、冒険とかじゃなくて普通に働いて暮らしたいって言ってたから」

「人を雇うのかよ。凄いな!」

 改めて見ると、おっとりとした雰囲気で、確かに戦ったり冒険したりといった感じではない。

 おまけに力も無さそうで、ラッピングされた大きな箱を落とさないように、頑張って抱えている。

「で、これは?」

 長く持たせるのも可愛そうなので、彼女から箱を受け取り、テーブルの上へ。

「それは、私からのプレゼントよ。開けてみてー!」

 することがなくなって、ぽーっと立ち尽くしている和佳さんの視線を感じつつ、箱を開けると中に靴が入っていた。

「ジャジャーン! 前に勇ちゃんが欲しいって言っていた空を飛べる靴だよー!」

「空を飛べる靴!? 俺、そんなの欲しいって言ったっけ?」

 空を飛びたい願望なんて無いのだが、美玖ちゃんがデタラメを言っている様子も無い。何か、空を飛ぶような事を連想させる発言をしたのだろうか。

 と、一つ思い当たる事があった。

「わかった! あれか。俺がこの世界で何をしたいのか? って質問の時か」

「そうそう。バビューンって飛んで行きたいって言ったよね」

 あの時は飛んで行きたいのではなく、何かを飛ばしたい――だったのだが、ややこしくなるので伏せておく方が良さそうだ。

「でも、きっとこれも高いんだろ? 受け取れないよ」

 断った瞬間、また美玖ちゃんが泣きそうになる。

「あの、旦那様」

「誰が旦那様だ。誰が」

「あれ? 奥様――美玖様と御結婚されているのですよね?」

 和佳さんが不思議そうな顔で俺と美玖ちゃんを交互に見ている。

「まぁそれはいいや。えっと、どうしたの?」

「あ、はい。その箱の中身こそ買ったものですが、ラッピングは奥様が自らの手で一生懸命されたプレゼントなのです。どうか、受け取っていただけませんか?」

 くっ! 事情を知っているのか知らないのか、和佳さんがキラキラと懇願するような眼で俺に訴えかけてくる。ここで断ったら、何だか俺が悪人みたいじゃないか。

「えっと、美玖ちゃん。ありがとう」

「ううん、どういたしまして。大事に使ってね」

 さっきまでの泣きそうな顔はどこに行ったのか。パァっとたんぽぽみたいに明るい満面の笑みを浮かべている。

 仕方が無い、受け取っておこう。

 それにしても空を飛べる靴なんて凄いじゃないか。ただ、きっとこれも高価な品物なのだろうから、変な商談には気をつけないと。

「あ、そう言えば『七枚の金貨』の話って何か知ってる?」

「どんな話?」

「いや、詳しくは知らないんだけど、何でも美玖ちゃんに関する話だって」

 幼い顔で眉間にしわを寄せながら、悩む事十数秒。

「あ、わかった。それは私が勇ちゃんにかけた懸賞金よ」

「懸賞金!?」

「そう、懸賞金。まだ勇ちゃんを召喚出来るようになる前の話ね。今は勇ちゃんと会えたから、もうその懸賞金は正式に取りやめたのだけれど、ギルドの通達が遅れているのかしら」

 しかし、俺を探すだけで金貨七枚とは。ティディ曰く、この世界の普通の人の年収が金貨四枚程だというのだから、凄い額だ。

 金銭に余裕があるからなのか、それとも何としても俺に会いたかったのか。

 前にも伝えたが、この容姿で献身的、そして名声も財力もある。俺なんかよりも、もっと良い人が見つかると思うんだけどな……。

会話文を微修正しました。

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