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「そうそう、お兄さんの魔法が百発百中で成功するようになった理由もわかったよー」
「ほんと!? どうして?」
一瞬暗い考えに入り込みかけたのだが、ティディの一言で引き戻される。
「お兄さんがお昼の召喚から帰ってきてから着ている、その深緑色のローブのおかげなんだって」
「ん? どういうこと?」
「うーん、詳しい事は忘れちゃったから、この人に聞いてみてー」
ティディの言葉を聞くやいなや、前に座る商売人らしき二人が俺に近づいてきた。
「やー、旦那。お目覚めになられましたか。倒れはった時は、ワテはどうなる事かと思いまして、心配したんでっせ」
「せやでー。ウチらびっくりしたんやから。えらい魔法連発してると思たら、急にバタンやし」
「そ、それはどうも」
近づいてきた二人は、おそらく夫婦なのだろう。男女でテンポよく独特の言葉で話しかけてくる。
「あ、旦那にはお渡ししてませんでしたな。ワシらこういう者なんですわ」
「ウチのもどうぞ」
あっけにとられているうちに、夫婦そろって名刺のようなカードを差し出してきた。
『マジックアイテム買取専門店LUCK 店長代理ソロン』
『マジックアイテム買取専門店LUCK 店長代理クロエ』
どうやら夫がソロンで、奥さんがクロエと言うようだ。
「えっと、御夫婦でお店をされているのですか?」
「夫婦!? ワテがこいつとでっか!? いやいや、こんなん嫁になんてダメですわ。顔とスタイルはそこそこでっけど、喋り過ぎですわ。やっぱり女はお淑やかでないとあきまへん」
「ちょっと、何でそんなん言うん! ウチかておにぃなんてお断りやわ。やっぱり将来結婚するなら、この人みたいにカッコ良い人やないとイヤやわ」
そう言いながら奥さん――クロエさんが俺の隣に腰掛け、俺の左腕に豊満な胸を押し当ててくる。
「ん!? 今『おにぃ』って言いました?」
「えぇ。ウチら兄妹で父のお店の手伝いをしているんですわ」
どうやら二人は夫婦ではなく兄妹とのことだった。ちなみに二人のミミはティディのミミのように茶色く丸いが、先端が少し尖っている。聞くところによると、タヌミミ――狸耳とのことだった。
「それで、本題やねんけど……そのローブ。旦那が倒れてもーたのは、そのローブのせいなんですわ」
「そうそう。そのローブは『魔人のローブ』って言って、着ると魔法が使えない者でも魔法が使えてしまうようになってしまうねん」
「だから、旦那。そのローブは早く脱いだ方がよろしおまっせ」
「え? 魔法が使えなくなるローブなんですよね? だったら、良いアイテムじゃないですか。脱ぐ必要なんてないですよ」
兄妹で左右から交互に話しかけてくるので、どちらを向けいて話せば良いのか困る。
「そうじゃないねん。それを着ていると、いくら魔法の練習をしてもローブの効果であって、本人は全然成長出来ないままになってまうねん」
「せやせや。旦那がホンマに魔法を修得したいと思ってるんやったら、今すぐにでも脱ぐべきでっせ」
「ふむ。なるほど」
この二人の言う事が本当だったなら、確かに脱いだ方が良さそうだ。
「で、まだ皆さんの旅は続くと思うんやけど、使わない服なんて邪魔になるやろ? やから、ウチらがそれを買い取ろうと思うねん」
「そそ。要らないものは捨てるか売る。冒険の鉄則でっせ。で、たまたまそこに居合わせたのが、ワテらマジックアイテム買い取り専門店ですわ。高く買い取らせていただきまっせ」
「そうそう。邪魔なものを処分出来て、お金まで貰えるなんて一石二鳥やん。ウチら買い取りのプロやから、ちゃんと適性価格で商売させてもらうで」
そう言って、ソロンさんが笑顔を崩さぬまま取り出したのは、どこかで見覚えのある細長いもの――ソロバンだ。
「旦那。その代物、ワテらなら銀貨五百枚で買い取りまっせ。どないでっか!?」
息も尽かさぬ連携で、いつの間にやら商談に突入してしまっていた。
 




