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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第六章 西国ウェストリア王国
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第五十話 出発前に一発

 出発の日。


 西方国境都市への出発を前に、アイリスたちは太陽教の教会を訪れていた。


 旅の安全を祈るためである。


「それでは、参りましょう」


「はい!」


 アイリスの隣で、ヴィンセントも静かに祈りを捧げる。


 その手には、いつもの金色の鐘鎚。


「…………」


 司祭は、その姿をじっと見つめていた。


「司祭様?」


「……アイリス殿下」


「なんですの?」


「以前から気になっていたのですが……」


 司祭が震える指でヴィンセントを示す。


「やはり……鐘鎚もそうなのですが……」


「はい?」


「ヴィンセント様ご本人が……光っておられます」


「…………」


 アイリスがヴィンセントを見る。


 確かに。


 淡い金色の光が、ヴィンセントの身体を包んでいた。


「本当ですわね」


「そうですか?」


 ヴィンセント本人は、自分の腕を見て首を傾げる。


「以前より少し強くなっておりませんこと?」


「わたしには分かりません」


「…………」


 司祭の身体が震えている。


「司祭様?」


「だ、大丈夫でございます……」


「そうですの?」


「はい……」


 まったく大丈夫そうには見えなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 祈りを終え、一行は教会前の広場へ出た。


「それでは、そろそろ――」


 アイリスが馬車へ向かおうとして。


「…………」


 止まった。


「リゼット?」


「はい?」


 リゼットが振り返る。


 その両手には――酒瓶。


「その両手の瓶は何です?」


「…………」


「お酒ですわよね?」


「……はい」


「あなた」


 アイリスの目が細くなる。


「お部屋の中にも、大量に置いてありますわよね?」


「…………」


 リゼットが酒瓶を抱えたまま視線を逸らした。


「その……」


「なんですの?」


「ヴィンセント殿が皇都を離れると聞きまして……」


「…………」


 アイリスがヴィンセントを見る。


「ヴィンセント?」


「はい?」


「あなたが渡したのですか?」


「はい!」


「なぜですの!?」


「頼まれましたので」


「だからといって、なぜそんなに甘やかすのですか!」


「いやぁ……」


 ヴィンセントは少し照れたように頬を掻いた。


「リゼット殿はお綺麗なので、つい……」


「つい、ではありませんわ!」


「申し訳ありません」


「リゼットもです!」


「はい!」


「元気よく返事をするところではありません!」


「申し訳ありません!」


 アイリスはため息をつく。


「まったく……」


 そんな二人を呆れたように見ていると。


「そうだ、ヴィンセント殿!」


「はい?」


 リゼットが何かを思い出したように声を上げた。


「西方へ出発される前に、一度お願いしてもよろしいでしょうか!」


「いいですよ!」


「待ちなさい」


 アイリスが止める。


「今度は何をお願いしましたの?」


「一度、お願いしようかと!」


「何を?」


「鐘鎚を!」


「…………」


 アイリスがリゼットを見る。


 そしてヴィンセントを見る。


「あなたたち……」


 止めるより早く、ヴィンセントは鐘鎚を構えていた。


「では、いきますね」


「はい!」


「身体強化は?」


「なしでお願いします!」


「分かりました!」


「なぜそんなに楽しそうなんですの!?」


 アイリスの声が響く中。


 ヴィンセントが鐘鎚を振るった。


 ごぉぉぉん――。


「ぐふぅっ……!」


 鐘鎚がリゼットの腹部へ入る。


 だが。


 リゼットは勢いよく吹き飛ばなかった。


「…………」


 その身体が。


 ふわり。


 ゆっくりと宙へ浮き上がっていく。


 同時に。


 ヴィンセントの周囲に、淡い金色の光が広がった。


 きらきらと輝く光。


 そして――。


 どこからともなく、白い羽が舞い始める。


「…………」


 教会の入口に立っていた司祭が目を見開いた。


 金色に輝く鐘鎚を持つヴィンセント。


 その周囲を包む光。


 空から舞い落ちる白い羽。


 そして、光の中をゆっくりと天へ昇っていくリゼット。


 ごぉぉぉぉん――。


「…………!」


 背後。


 誰も触れていない教会の大鐘まで鳴り響いた。


 ごぉぉぉぉん――。


 二つの鐘の音が重なる。


 司祭の膝が震えた。


「お、おお……」


 やがてリゼットの身体が落ちてくる。


 どさっ。


「リゼット殿、大丈夫ですか?」


「はい!」


 リゼットは何事もなかったように起き上がった。


「ありがとうございます!」


「いえいえ」


「…………」


 司祭は震えていた。


 神々しい金色の光。


 白い羽。


 ひとりでに鳴り響く教会の鐘。


 その中心に立つ、金色の鐘鎚を携えた青年。


「せ……」


「?」


 ヴィンセントが振り返る。


 司祭は震える声で呟いた。


「聖騎士様……」


「…………はい?」


 そして。


 司祭の視線がリゼットへ向く。


 光と羽に包まれ、天へ昇った女騎士。


「聖女様……」


「私ですか?」


「…………」


 アイリスが頭を抱えた。


「違いますわ」


「アイリス殿下!?」


「少なくとも、今あなたがご覧になったものは、そんな神聖なものではありませんわ!」


「しかし、この光! 羽! そして鐘が!」


「わたくしにも何なのか分かりませんけれど!」


 司祭は再びヴィンセントとリゼットを見る。


 聖騎士と呼ばれた少年は、不思議そうに鐘鎚を眺め。


 聖女と呼ばれた女騎士は――


「あっ」


 地面に置いていた二本の酒瓶を拾い上げた。


「…………」


 司祭が固まる。


「ではヴィンセント殿! お気をつけて!」


「ありがとうございます!」


「…………」


 両手に酒瓶を抱えた聖女が、満面の笑顔で聖騎士を見送っていた。


 司祭は何も言えなかった。


 そうしてアイリスとヴィンセント、そしてアイリスの親衛隊は、西方国境都市へ向けて出発した。


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