第四十三話 野球場に華を
野球を騎士団の訓練に取り入れてから、しばらく。
この日もアイリスは、騎士団の訓練を兼ねた試合を観戦していた。
「…………」
グラウンドでは、屈強な男たちが走り、叫び、ボールを追いかけている。
「何か……むさ苦しいですわね」
アイリスがぽつりと言った。
「まあ、元から騎士団は男性が多いですから」
エルナが苦笑する。
「それはそうなのですが……」
アイリスは板を眺める。
そして――
「あ!」
「どうしました?」
「これですわ!」
アイリスが指差した。
「チアリーディングとやらがありますわ!」
「チアリーディング?」
「ええ!」
アイリスは親衛隊を振り返る。
「親衛隊の皆さん、ご準備を!」
「えっ?」
突然呼ばれた親衛隊たちが目を丸くする。
「チアリーディング……ですか?」
「そうですわ!」
さっそく内容を確認してみる。
隊列。
ダンス。
ジャンプ。
腕を使った動き。
さらには人を持ち上げたり、支えたりする動作まである。
「…………」
親衛隊の一人が黙り込む。
「これは……かなりタフですわね」
「ええ」
別の隊員も頷く。
「思った以上に身体を使います」
「とても良い訓練になりますね」
アイリスが満足そうに頷く。
「でしょう?」
そして――
「さあ、やってみましょう!」
「はい!」
親衛隊がグラウンド脇へ並ぶ。
音楽に合わせて動き始める。
跳ぶ。
回る。
隊列を変える。
そして、見事に人を高く持ち上げる。
「…………」
騎士団の選手たちが、思わずそちらを見る。
「おお……!」
「すげぇ……!」
「負けてられんぞ!」
明らかに騎士たちの動きが変わった。
「もっと走れ!」
「次は絶対取るぞ!」
「声出せ!」
訓練場の空気が一気に活気づく。
アイリスは満足そうに頷いた。
「まあ!」
野球そのものだけではない。
応援する側にも身体を使った鍛錬がある。
そして何より――
「めちゃくちゃ華が出ましたわ!」
「そうですね」
エルナもグラウンドを見渡す。
「騎士団の皆さんも、やる気が出ているようです」
「ええ!」
アイリスは嬉しそうに笑った。
「一石二鳥ですわね!」
こうして皇国の野球には――
チアリーディングまで導入されることになった。




