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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第四章 エルナ&アイリス西方視察
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第三十三話 西方視察・西方都市到着

 数日後。


 一行は、目的地である西方の都市へ到着した。


 国境に近いこの都市には、普段の街とは違う緊張感が漂っていた。


 街道を行き交う人々。


 周囲を警戒する兵士。


 そして、どこか落ち着かない空気。


 そんな中でも、皇女たちは予定通り視察を始める。


「まずは道路ですわ!」


 アイリスが張り切って言った。


「そして料理改革ですわ!」


 エルナも頷く。


「はい。こちらの都市でも、道路の整備と料理の普及を進めましょう」


 補佐官が資料を確認する。


「ですが……道路の整備は危なくないですか?」


 西方は緊張状態にある。


 国境付近で何が起きるか分からない。


 そんな状況で大規模な道路を作れば、軍事的にも利用されかねない。


「ヴィンセントがおりますもの」


 アイリスは当然のように答えた。


「…………」


 補佐官はヴィンセントを見る。


 ヴィンセントは何でもない顔で立っている。


「まあ、都市内とその周辺だけに留めておきましょうか」


 エルナが現実的なところへ落とす。


「西方ウェストリアとの緊張が収まった時に、すぐ取り掛かれるように準備だけ進めておきましょう」


「それがよろしいですわね」


 こうして、都市内の道路整備計画と料理改革が進められていった。


 ◇


 視察は着々と進んでいく。


 都市の施設を確認し。


 兵士たちの配置を確認し。


 住民の暮らしを聞き。


 国境付近の状況を確認する。


 ウェストリアの動き。


 国境都市特有の緊張感。


 街を歩く人々の表情。


 エルナとアイリスは、それを実際に肌で感じていた。


 ただの書類では分からない。


 ここは確かに、緊張状態にある。


 その一方で――


「ヴィンセント殿!」


「はい?」


「こちらの化粧品なのですが……」


「私も、その……」


「これも素敵ですわね!」


 エルナ付きの親衛隊の美への欲求は、止まることを知らなかった。


 視察の合間にも、ヴィンセントの持つ化粧品へ興味津々である。


 そんな日々が続く中。


「ヴィンセント殿!」


 リゼットが声を上げた。


「はい?」


「道中、少し鈍ってしまいましたので!」


 リゼットが拳を握る。


「手合わせをお願いできますか!」


「もちろん! 大丈夫ですよ!」


「ありがとうございます!」


 すると――


「ヴィンセント」


 アイリスが口を挟んだ。


「身体強化は無しですよ?」


「かしこまりました! アイリス殿下」


「……それが少し残念ですが」


 リゼットが小さく呟く。


「致し方ありません」


 訓練場。


 リゼットとヴィンセントが向かい合っていた。


「では、両者。準備はよろしいですか?」


 親衛隊隊長が声を掛ける。


「はい!」


「はい!」


 ――ごーん。


「……」


「……」


 一同が鐘鎚を見る。


 なぜ鳴ったのか。


 誰にも分からない。


「では――始め!」


 リゼットが構える。


 ヴィンセントが踏み込んだ。


「っ!」


 身体強化はしていない。


 それでも速い。


 リゼットが身構える。


 しかし、わずかに遅れた。


「そこです!」


 ヴィンセントの鐘鎚が下から振り上げられる。


 ごぉん!


「ぐふぅっ!」


 鐘鎚が、リゼットの腹部を正確に捉えた。


 身体がくの字に折れる。


「――っ!」


 そのまま。


 リゼットの身体が、ゆっくりと浮き上がっていく。


 まるで時間が引き伸ばされたかのように。


 くの字になった身体。


 振り上げられた鐘鎚。


 そして――


 淡い金色の光が、二人を包んだ。


 ふわり。


 どこからともなく羽が舞う。


「…………」


「…………」


 アイリスとエルナが呆然と見上げる。


 リゼットは苦悶の表情を浮かべたまま、ゆっくりと宙へ持ち上げられていく。


 ごぉん……。


 鐘鎚が鳴る。


 ごぉん……。


 羽が舞う。


 光が揺れる。


 あまりにも神々しい。


「……なんですの、あれ」


 アイリスが呟いた。


「さあ……」


 エルナも答えられない。


 そしてアイリスは、しばらく考えた後。


「……と言いますか」


「はい?」


「一瞬で吹き飛ぶ方が、見た目的にはまだマシですわね」


「……確かに」


 エルナも頷いた。


「ゆっくり殴り上げられる方が、しんどそうですわ」


 宙に浮いたリゼットは、ようやく落下を始めた。


「…………」


 神々しい光景とは裏腹に。


「痛い……」


 本人は普通に痛がっていた。


 ◇


 その頃。


 太陽教総本山。


「……?」


 神殿内で、一人の司祭が顔を上げた。


 ごぉぉぉん……。


「…………」


 鐘の音。


「今……鳴りましたか?」


「はい?」


 別の司祭が振り返る。


 ごぉぉぉん……。


 今度は、はっきりと響いた。


「鐘楼です!」


「誰か鐘を鳴らしているのか!?」


「確認を!」


 司祭たちが慌てて鐘楼へ向かう。


 だが――


「誰もいません!」


「では、なぜ鳴っている!?」


 鐘楼には誰もいない。


 なのに。


 ごぉぉぉん……。


 巨大な鐘が、ひとりでに鳴り響く。


「……」


「…………」


「…………何が起きているのです?」


 司祭たちには分からない。


 ただ一つ。


 西方のどこかで。


 あの鐘鎚が振られた、その瞬間。


 総本山の鐘もまた、鳴り響いていた。


 そして――


 誰も、その理由を知らなかった。


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