第二十七話 出発前の祈り
西方視察への出発を控え、エルナ、アイリス、リゼット、ヴィンセントたちは太陽教の神殿を訪れていた。
出発前の祈りを捧げるためである。
神殿の静かな礼拝堂。
祈りを終えた一行が立ち上がった、その時だった。
エルナがヴィンセントを見た。
「ヴィンセント」
「はい?」
「あなた……若干、身体が光ってません?」
「え?」
ヴィンセントが自分の身体を見る。
確かに、身体の周囲に淡い金色の光がまとわりついている。
ごく薄い光だ。
注意して見なければ気づかない程度ではある。
アイリスもヴィンセントをじっと見る。
「……本当ですわね」
そして、ふと何かに気づいたように目を細める。
「前回は光ってませんでしたわよね?」
「はい」
ヴィンセントは素直に頷く。
アイリスはヴィンセントの手にあるものへ視線を落とした。
「……その鐘鎚ですかね……?」
金色の鐘型の槌。
太陽教の神殿にある鐘と、どこか似た意匠。
しかしヴィンセント本人には心当たりがない。
「さあ?」
「でしょうね……」
アイリスもそれ以上は追及しなかった。
その様子を、少し離れたところから見ていた司祭は、ただ黙ってヴィンセントを見つめていた。
――鐘。
あの鐘鎚。
どこかで見たことがある。
いや。
見たことがあるどころではない。
あの意匠は――
司祭の脳裏に、以前の光景が蘇る。
◇
ヴィンセントが新しい鐘鎚を受け取った、あの日。
訓練場。
ヴィンセントは完成したばかりの鐘鎚を手にしていた。
「では、少し振ってみます」
ぶん。
ごぉぉん。
重厚な鐘の音が訓練場に響き渡った。
「おお……」
ヴィンセントが感心して、もう一度振る。
ごぉぉん。
その音を聞いた者たちが振り返る。
しかし、その場にいた者たちは知らなかった。
――その頃。
太陽教総本山。
「……?」
神殿の奥にある大鐘が、誰も触れていないにもかかわらず、かすかに震えていた。
ごぉん……。
「なぜ……鐘の音が?」
司祭たちは顔を見合わせた。
誰も鐘を鳴らしていない。
なのに、確かに聞こえた。
鐘の音が。
◇
司祭は目の前のヴィンセントを見る。
そして、その手にある鐘鎚を見る。
神殿の鐘とよく似た意匠。
そして――
淡く光っている。
「…………」
司祭の視線が、鐘鎚からヴィンセントへ移る。
ヴィンセントの身体も、淡く金色に光っている。
「…………まさか」
「司祭様?」
ヴィンセントが首を傾げる。
司祭は答えない。
ただ鐘鎚を見つめる。
そして、もう一度ヴィンセントを見る。
「…………」
何か、とてつもなく重要なものを目の前にしている。
そんな気がした。
しかし――
「……ヴィンセント」
「はい?」
「その鐘鎚は、どこで?」
「鍛冶師に作ってもらいました」
「……そうですか」
「はい」
それだけだった。
司祭は深く考え込む。
だが、本人は何も知らない。
鐘が鳴った理由も。
光っている理由も。
なぜ神殿の鐘と同じ意匠なのかも。
そして何より――
なぜ自分が今、光っているのかも。
「さあ?」
ヴィンセントはもう一度、自分の身体を見た。
淡い金色の光が、静かに揺れていた。




