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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第三章 第一皇女エルナ&護衛騎士リゼット
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番外編③ー皇帝の心情ー

 皇帝は、目の前の光景をただ黙って見つめていた。


 先ほどまで、自分は真面目な話をしていたはずだ。


 ヴィンセントは危険すぎる。


 あまりにも強い。


 もし何かあったとしても、誰も止められないのではないか。


 だからこそ、アイリスに尋ねた。


 ――信用しているのか、と。


 アイリスは迷いなく答えた。


 もちろん信用している。


 それは分かった。


 エルナも、リゼットも同じようなものらしい。


 ならば問題は、そこではない。


 もし本人が命令を聞かなかったら、どうするのだ?


 皇帝が知りたかったのは、そこだった。


 ところが。


「リゼット?」


「は、はい?」


「ヴィンセントに、あの命令をあなたがしなさい」


 エルナがそう言った。


 何の説明もない。


 リゼットも戸惑っている。


 だが――


「ヴィンセント、もう構えて待っていますわよ」


 皇帝は眉をひそめた。


 なんだ?


 何をするつもりだ?


 そして。


「ヴィ、ヴィンセント殿!」


「はい!」


「そこに椅子になりなさい!」


「はい!」


 ――なった。


 ヴィンセントが。


 何の躊躇もなく。


 椅子になった。


「…………」


 皇帝は黙っている。


 隣を見る。


 ノリスも固まっていた。


 リゼットが恐る恐る腰を下ろす。


「座り心地はどうですか?」


「は、はい……大丈夫です」


「よかったです!」


 ヴィンセントは嬉しそうだった。


 皇帝は、ゆっくりと目を閉じた。


 ……違う。


 そうではない。


 自分が聞きたかったのは、こんなことではない。


 椅子になれるかどうかを聞いたのではない。


 ヴィンセントが命令を聞かなかった場合。


 その時、誰が止めるのか。


 それを聞きたかったのだ。


 なのに。


 今、自分が見せられたのは――


 ヴィンセントが椅子になったところだけである。


 命令には従った。


 確かに従った。


 それは分かった。


 だが。


 なぜ従った?


 なぜリゼットの命令に?


 なぜこんな命令を嬉々として?


 そもそも、もし断ったらどうする?


 誰が止める?


 ……分からない。


 何一つ分からない。


 皇帝はゆっくり目を開ける。


 目の前では、エルナが満足そうにしている。


 アイリスは、


「ちゃんと聞きましたでしょう?」


 と言いたげな顔をしている。


 リゼットは、ヴィンセントの上に座ったまま困惑している。


 そして当の本人は――


 嬉しそうだ。


「…………」


 皇帝は思った。


 危険人物であることは、何一つ変わっていない。


 むしろ。


 今の一件で新たな謎が増えただけではないか。


 信用できる。


 命令も聞く。


 だが、なぜ聞くのかは分からない。


 聞かなかった場合の対処法も分からない。


 そして何より――


「…………」


 皇帝はノリスを見る。


 ノリスも皇帝を見る。


 二人とも、同じ顔をしていた。


 皇帝は小さく呟いた。


「……危険な上に、不審ではないか」


 ノリスも静かに頷いた。


「……はい」


 何の説明にもなっていなかった。


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