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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第一章 ヴィンセント登場
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第二話 ヴィンセントという男


そして――


 護衛騎士選抜試験も終わり。


 正式にアイリスの護衛騎士となったヴィンセントは、その日のうちに皇宮へと招かれていた。


 皇宮の謁見の間。


 皇帝と皇后が並んで座る前で、アイリスは嬉しそうに一人の青年を紹介する。


「こちらが、私の護衛騎士のヴィンセントですわ!」


「ただいまご紹介に預かりました、ヴィンセントでございます」


 ヴィンセントは一歩前へ出ると、恭しく一礼した。


「アイリス殿下のお命は、私が必ずお守りいたします」


 その言葉を聞いた皇帝は、ヴィンセントを上から下まで眺める。


 そして。


「……なんだ?」


 眉をひそめた。


「まだひよっこの青二才ではないか」


「まぁ、陛下」


 皇后がたしなめる。


 しかし皇帝の視線はヴィンセントから離れない。


「本当にこいつが、あの副団長を倒したのか?」


「はい」


「……本当に?」


「はい」


 アイリスが即答する。


「わたくし、ちゃんと見ておりましたもの」


「いや……見えていなかったのではないか?」


「…………」


 アイリスが少し黙った。


「……それは、まぁ……そうですけれど」


 皇帝が頭を抱えそうになる。


「それで本当に守れるのか?」


 すると皇后が穏やかに微笑んだ。


「まぁ、皇帝陛下。アイリスが自分で選んだ方ですもの」


「しかしな……」


「大丈夫ですわ」


 皇后はヴィンセントを見る。


「あなたは、アイリスを守れるのですね?」


「はい」


 ヴィンセントは迷いなく答えた。


「命に代えましても」


 その声には一切の迷いがなかった。


 皇帝はしばらくヴィンセントを見つめる。


「……ふむ」


 やがて、小さく頷いた。


「なら、まぁ良い」


「ありがとうございます」


「下がれ」


「はっ」


 ヴィンセントは再び一礼する。


 そして踵を返した。


 その背中を見送りながら、皇帝がふと呟く。


「……ヴィンセント、か」


 しかし。


「……」


 皇帝は眉をひそめた。


「なんじゃ?」


「……いや」


 ヴィンセントが扉の向こうへ消えていく。


「なんだか、あいつ……」


「?」


「妙に表情が……」


 何か引っかかる。


 だが、うまく言葉にできない。


「……まぁ、気のせいであろう」


 皇帝はそう結論づけた。


 ――その頃。


 ヴィンセントは。


「…………」


 廊下を歩きながら、ものすごく嬉しそうな顔をしていた。


 皇女付き護衛騎士。


 しかも、あのアイリス殿下直属。


「……よし」


 小さく拳を握る。


 その表情は、先ほど皇帝が感じた「何か」の正体だったのかもしれない。


 * * *


 その後。


 アイリスの私室。


「ヴィンセント」


「はい、アイリス殿下」


 アイリスは椅子に座りながら、目の前の青年を見る。


「改めまして、これからよろしくお願いしますわ」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


 ヴィンセントは元気よく頭を下げた。


「それと……」


 懐から何かを取り出す。


「本日は、お近づきのしるしとして――」


「まぁ?」


「アイリス殿下が、まだ見たこともないであろうお菓子をお持ちいたしました!」


「…………」


 アイリスはじっとヴィンセントを見る。


「あなた……」


「はい!」


「本当に調子のいい方ですわね……」


「よく言われます!」


「褒めておりませんわ」


「失礼いたしました!」


 全く堪えていない。


 アイリスは小さくため息をついた。


「まぁ、いいですわ」


 そして、ヴィンセントが持ってきた箱を見る。


「それで?」


「どんなお菓子ですの?」


「こちら――」


 箱の蓋が開かれる。


 中には、白いクリームに赤い苺が乗った、美しい菓子が入っていた。


「いちごの、しょーとけーきとやらです」


「……やら?」


 アイリスが首を傾げる。


「あなたもご存じないのですの?」


「詳しくは……」


 ヴィンセントは少しだけ目を逸らした。


「一度、ご賞味いただければと」


「まぁ……」


 アイリスが興味深そうにケーキを見る。


 その横から、侍女がすっと前へ出た。


「では、毒味を」


「え?」


 侍女は慣れた手つきで一口。


「ぱく」


「…………」


「…………!」


 侍女の目が見開かれる。


 そして。


「ぱく」


「……?」


「もぐもぐ……」


 もう一口。


「ぱく」


 さらに一口。


「もぐもぐ……」


「…………」


 アイリスが無言で見つめる。


 侍女はついに皿の上を確認した。


 ――空っぽ。


「毒は……」


 侍女が真顔で告げる。


「ありませんでした……」


「あなた!!」


 アイリスが立ち上がる。


「全部食べてどうするのです!!」


「……申し訳ございません」


 侍女はケーキを食べきった満足そうな顔をしていた。


「毒味とは、一口だけでよろしいのですわよ!」


「はい……」


「しかも!」


 アイリスはヴィンセントを見る。


「あなたも止めなさいな!」


「はい!」


「はい、ではありませんわ!」


「申し訳ございません!」


 ヴィンセントは笑顔のまま頭を下げる。


 こうして。


 アイリスの護衛騎士となった最初の日から。


 皇女の私室には、なんとも賑やかな光景が広がることになった。


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