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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第二章 アイリス初公務
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第十話 道がひどいですわ


南方都市へ向かう道中。


 皇女一行は、街道沿いの休憩地点で馬車を止めていた。


 二週間に及ぶ長旅。


 皇女専用の馬車とはいえ、長時間の移動は身体に堪える。


「皆様、少し休憩いたしましょう」


 アイリスが馬車から降りると、親衛隊の者たちもそれぞれ休憩に入った。


 すると、ヴィンセントが手際よく菓子や飲み物を並べ始める。


「皆さん、こちらをどうぞ」


 テーブルに並べられたのは、色とりどりの菓子。


 さらにはケーキまである。


「まあ……」


「これは……」


「ヴィンセント殿、ありがとうございます」


「お疲れでしょうから」


 ヴィンセントは当然のように答え、親衛隊の一人ひとりへ菓子と飲み物を配っていく。


 アイリスはその様子を眺めていた。


 そして、ふと首を傾げる。


「……あなた」


「はい?」


「ジャングルストア、隠す気ありますの?」


「…………」


 ヴィンセントの手が止まった。


「その……」


 少しだけ視線を逸らす。


「皆さん、お綺麗で……」


「?」


「身体が勝手に……」


「…………」


 アイリスはヴィンセントをじっと見つめた。


「あなたって……」


 なんとも言えない顔になる。


「まあ、いいですわ」


「ありがとうございます」


 ヴィンセントは何事もなかったように再び菓子を配り始めた。


 しかし、アイリスにはもう一つ疑問があった。


「そういえば、あなた。地元ではジャングルストアを使っていませんでしたの?」


「使ってはいました」


「では、なぜ今はいろいろ出てくるのです?」


「食べ物や飲み物以外で、特に欲しいものが……」


 ヴィンセントは少し考える。


「まあ、よく出てくるものはありましたが……」


「……?」


「……あっ」


 ヴィンセントの表情が僅かに固まった。


 アイリスはすぐに反応する。


「なんですの?」


「い、いえ」


「何が欲しかったんですの?」


「それは……」


 珍しくヴィンセントが言葉を濁した。


「…………」


「…………」


「ええと」


 ヴィンセントは突然、別の商品を取り出した。


「あっ、今度はこちらなんてどうですか?」


「?」


「どこでも料理ができる、携帯こんろです!」


「まあ!」


 親衛隊の一人が目を輝かせる。


「ヴィンセント殿、料理もできますの?」


「はい」


「旅先でも料理を?」


「できます」


「まあまあ……!」


 たちまち親衛隊の者たちが携帯こんろを囲み始めた。


 ヴィンセントは内心で胸を撫で下ろす。


(……良かった。会話が流れた……)


 何が「よく出てくるもの」だったのか。


 結局、その話はそれ以上追及されなかった。



 やがて休憩を終え、一行は再び南へ向かった。


 ヴィンセントは相変わらずアイリスのすぐそばにいる。


 飲み物が減れば補充し、食事の時間になれば準備をし、


少しでも疲れた様子を見せればすぐに気づく。


 護衛を務めながら、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。


 そんな旅の途中。


「…………」


 馬車が大きく揺れた。


「きゃっ」


 アイリスの身体が僅かに浮く。


「殿下!」


 ヴィンセントがすぐに支える。


「大丈夫ですわ」


 アイリスは答えたものの、眉を寄せて窓の外を見る。


 街道の状態が、想像以上に悪かった。


 大きな轍。


 剥き出しの石。


 土が削れた場所。


 馬車が進むたびに、車輪が大きく揺れる。


 皇都周辺の街道も、決して現代的な意味で舗装されているわけではない。


 砂利や砕石で比較的整えられてはいるものの、馬車が揺れること自体は珍しくない。


 まして地方へ出れば、さらに状態は悪くなる。


 アイリスはしばらく外を眺めていた。


 そして、また大きく馬車が揺れた。


「……ヴィンセント?」


「はい」


「道路を改良するのに、何かいいものはありませんの?」


「道路、ですか?」


「ええ」


 アイリスは窓の外を指す。


「この道では、馬車に乗っている方も、馬も大変ですわ」


「なるほど」


 ヴィンセントがジャングルストアを開く。


 しばらく画面を眺め――


「あ」


「ありましたの?」


「はい。こちらです」


 ヴィンセントが取り出したものを見て、アイリスは首を傾げる。


「これは?」


「アスファルトの資料です」


「アスファルト……?」


「道路を舗装するための材料です」


「まあ」


 アイリスが興味深そうに見る。


「これを使えば、道が平らになりますの?」


「適切に施工すれば、今よりずっと走りやすくできます」


「まあまあ……」


 アイリスの目が輝く。


 ヴィンセントはさらに商品を探す。


「それと……」


「まだありますの?」


「建物などに使えるコンクリートの資料もあります」


「まあ!」


 道路にはアスファルト。


 建物にはコンクリート。


 アイリスは二つを見比べた。


「……皇国には、まだまだ知らないものがたくさんありますのね」


 そう呟いた。


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