第42章 最初の選定者
白き終焉の大地。
風すら吹かない静寂の中で、レイは目の前に立つ男を見据えていた。
最初の選定者――ゼロ。
その存在感は、これまで戦ってきたどの敵とも違う。
力を誇示するわけでもない。
それなのに、近づくだけで世界が震えているような圧迫感があった。
レイの視界には、三つの選択肢が浮かび続けている。
────────────── 【運命の選択】
① 正面からゼロと戦う
② 話し合いを試みる
③ アリアを信じ、ゼロの正体を見抜く ──────────────
(戦うだけが答えじゃない……)
ここまで旅を続けてきて、レイは学んでいた。
選択は、目の前の問題だけではなく、その先の未来を変える。
レイは迷わず、光の文字に触れた。
③ アリアを信じ、ゼロの正体を見抜く
羅針盤が青白く輝く。
《選択を確認》
《真実を開示します》
世界から音が消えた。
レイの瞳にだけ、新たな景色が映し出される。
◇ ◇ ◇
そこには、一人の青年がいた。
まだ若く、笑顔を浮かべている。
その隣には、一人の導者。
金色の長い髪を持つ少女だった。
二人は今のレイとアリアによく似ていた。
「……あれが」
アリアが小さく呟く。
「初代導者……ルミナ」
映像は続く。
青年――ゼロは世界を救うため、仲間たちと旅を続けていた。
だが最後の門で。
虚界王との戦いに勝つため、世界は一つの選択を迫る。
『世界を救うか』
『導者を救うか』
ゼロは導者を選んだ。
その結果、虚界王を封じ切れず、自らを最後の門に封印して数千年もの間、門番となった。
◇ ◇ ◇
光景が消える。
レイはゆっくりとゼロを見る。
「……そういうことか」
ゼロは苦く笑った。
「見えたようだな。」
「あなたは世界を裏切ったんじゃない。」
「……」
「一番大切な人を選んだだけなんだ。」
アリアも静かに前へ出た。
「だから、あなたは今もここで、誰にも同じ後悔をさせないために待っていた……違いますか?」
長い沈黙。
やがてゼロは目を閉じた。
「……その通りだ。」
漆黒の剣を静かに下ろす。
「私は試していた。」
「最後の選定者が、力だけを信じる者なのか。」
「それとも、人を信じられる者なのかを。」
レイは一歩前へ歩く。
「俺は、もう一人じゃここまで来られなかった。」
隣を見る。
アリアがいる。
ノアがいる。
セレスがいる。
旅の中で出会った仲間たちがいる。
「だから、誰かを切り捨てる未来なんて選ばない。」
ゼロは静かに笑った。
その笑顔は、どこか救われたようだった。
「……君なら。」
その瞬間。
終焉の門が轟音を立てて震え始める。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な扉に刻まれていた紋章が、一つずつ光り始めた。
しかし同時に。
空が裂ける。
黒い稲妻が世界を駆け抜け、巨大な裂け目から禍々しい腕が現れた。
『ゼロォォォォ!!』
虚界王アザ=グラドの咆哮。
終焉の地そのものが揺れ始める。
ゼロはすぐにレイの前へ立った。
「来たか……!」
その表情に迷いはなかった。
「レイ!」
ゼロは羅針盤を取り出し、レイへ投げ渡す。
二つ目の羅針盤。
それは歴代選定者が受け継いできた、最初の羅針盤だった。
「受け取れ!」
レイは空中でそれを掴む。
二つの羅針盤が共鳴し、眩い光を放つ。
《歴代選定者の記録を解放》
《最終権限、承認》
レイの脳裏に、歴代の選定者たちの想いが流れ込む。
それは希望。
絶望。
そして、未来を託す願い。
ゼロは静かに剣を構えた。
「ここから先は、私も共に戦おう。」
その言葉に、レイは力強く頷いた。
最後の戦い。
それは、現代最後の選定者と、最初の選定者が肩を並べる、世界最大の決戦の始まりだった。




