第19章 再会――失われた未来と、残った温度
◆門の向こう側
門を抜けた瞬間、
世界はひどく静かだった。
風の音も、波の気配もない。
あるのは、薄い光に満ちた白い空間と――
「……レイ?」
震える声。
俺の数歩先に、アリアが立っていた。
以前より少し痩せたように見えて、
それでも、その瞳の色は変わっていない。
「……本当に、来たんですね」
泣きそうな顔で、
でも笑おうとして、失敗した表情。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
「ああ。約束しただろ」
俺がそう言うと、
アリアは一瞬だけ目を見開き――
次の瞬間、
駆け寄ってきて、俺の胸に顔を埋めた。
「……遅いです……っ」
嗚咽が、布越しに伝わってくる。
◆失われた“何か”
しばらくして、アリアが顔を上げる。
「……レイ。あなた……」
その視線が、俺の腰元に落ちた。
「羅針盤が……」
俺はそこを見て、初めて気づいた。
――ない。
いつもそこにあったはずの羅針盤が、
跡形もなく消えている。
「……ああ。置いてきたらしい」
軽く言ったつもりだったが、
アリアの顔色が、さっと変わった。
「そ、そんな……!
それは……選定者の……!」
ノアが、静かに補足する。
「未来を“選ぶ力”。
彼は、それを代償にここへ来た」
アリアが、凍りついた。
「……私の、せいで……」
「違う」
即座に否定した。
「俺が決めた。
選択肢が減っただけだ」
リゼルが肩をすくめる。
「前向きすぎて逆に怖いな」
だが――
俺の中で、確かに感じていた。
何かが、ぽっかり抜け落ちている感覚。
未来を“見渡す”視界がない。
進めばどうなるか、わからない。
(……これが、代償か)
◆それでも、残ったもの
アリアは俯いたまま、
ぎゅっと拳を握りしめていた。
「……私、レイに……
重い未来ばかり、背負わせて……」
その肩が、小さく震える。
俺は、少し考えてから言った。
「未来は失ったけどさ」
顔を上げたアリアの瞳を見る。
「今は、ちゃんとここにいる」
アリアの目から、涙がこぼれ落ちた。
「……っ……
そんな言い方……ずるいです……」
泣きながら、笑う。
ノアが視線を逸らし、
リゼルは小さくため息をついた。
「……あーもう。
湿度が高い」
◆新しい不安
そのとき――
白い空間に、ひびが走った。
「……来る」
ノアが低く呟く。
空間の奥で、
黒い渦がゆっくりと回転し始めていた。
「虚界反応……。
しかも、かなり近い」
アリアが、はっとする。
「ここは……安全地帯じゃ……」
「もう違う」
俺は一歩前に出る。
羅針盤はない。
未来も見えない。
それでも。
「行こう。
ここに留まる理由はない」
アリアは一瞬、迷って――
それから、強く頷いた。
「……はい。
今度は、私が隣にいます」
白い世界が、崩れ始める。
選択肢のない道。
それでも、歩く意味は――
もう、はっきりしていた。




