第16章 破門者との初戦
――選定者、単独戦闘/導者の“残響”
◆言葉より先に、世界が動いた
選択肢の光が、まだ空に浮かんでいる――
その最中だった。
灯台の上の破門者が、指を鳴らす。
パチン。
それだけで、
港の地面に走っていた魔導灯の光が一斉に逆流した。
「っ……!」
光は灯台へ吸い上げられ、
黒い外套の男の周囲で歪な円を描く。
「待て、まだ選んで――!」
ノアの声は途中で途切れた。
空間が、ねじ切られた。
◆破門者、降臨
破門者は、落ちた。
いや――
**“降りてきた”**と言った方が近い。
重力を無視するように、
ふわりと港の中央へ着地する。
音は、ない。
「自己紹介は省こうか」
低く、冷たい声。
「どうせ君は――
僕を“敵”として選ぶ未来しか、見ていない」
「……何者だ」
俺は羅針盤を構える。
針は、完全に狂っていた。
北も南も示さない。
それでも――
破門者“だけ”を、指している。
「僕は《破門者・カイナ》」
名乗った瞬間、
周囲の空気が一段、重くなった。
「導者に縛られた世界を壊す者。
選定者が“選ばされる”運命そのものを、否定する存在だ」
リゼルが歯噛みする。
「理屈はいい。
――敵なら、斬る」
「いいね」
カイナは、楽しそうに笑った。
「でも今日は、殺し合いじゃない」
彼は、俺をまっすぐ指さす。
「“試し”だ。
導者を失った選定者が、
どれほど歪むか――ね」
◆単独戦闘
次の瞬間。
視界が、分断された。
港が消える。
ノアも、リゼルも、いない。
(空間切断……!?)
俺とカイナだけが、
灰色の“何もない場所”に立っていた。
「隔離結界だ」
カイナが淡々と言う。
「安心しなよ。
君が死ぬ前には、解除する」
「……優しいな」
「未来が壊れる瞬間は、
ちゃんと観測したいからね」
来る。
直感が、叫んだ。
◆破門者の力
カイナが一歩踏み出す。
それだけで――
俺の足元の地面が、消えた。
「っ!」
跳ぶ。
空中で体勢を立て直す。
だが、次は背後。
空間が折り畳まれ、
見えない刃が迫る。
ギィン――!
羅針盤が、勝手に光った。
最短距離。
最小動作。
身体が“選ばされる”ように動き、
ギリギリで回避する。
「ほう……」
カイナが目を細めた。
「導者なしでも、その反応。
やはり君は特異だ」
(くそ……!
アリアがいたら……)
その瞬間――
◆導者の残響
胸の奥が、温かくなった。
「……?」
耳元で、
聞き慣れた声がした。
『レイ……』
幻聴じゃない。
羅針盤のひび割れた針が、
一瞬だけ――元の形に戻る。
『私は、ここにいます』
視界の端に、
淡い光の羽根が舞った。
(アリア……!?)
カイナが、明らかに動揺した。
「今のは……
“導者の残響”か!」
◆反撃
今だ。
俺は地を蹴り、突っ込む。
羅針盤が示すのは――
未来が一番“通る”一点。
「――うおおっ!!」
拳を振るう。
カイナは避けた。
だが――
彼の外套の端が、消えた。
「……当たった?」
俺自身が、一番驚いた。
カイナは静かに自分の腕を見る。
「削られた、か」
そして――笑った。
「はは……これは……」
楽しそうに。
「君、導者を“失った”んじゃない。
――“抱えた”んだ」
胸の奥が、強く脈打つ。
『レイ……
私は、完全には消えていません』
アリアの声は、弱い。
けれど、確かだ。
『門と、あなたの選択の間に……
まだ、繋がっています』
カイナは一歩、下がった。
「今日はここまでにしよう」
指を鳴らす。
空間が、元に戻り始める。
「選定者。
次に会う時は――」
彼は、はっきりと言った。
「君が何を選ぶ存在になったか
確かめさせてもらう」
◆残されたもの
港の光景が戻る。
ノアとリゼルが駆け寄ってくる。
「レイ! 無事!?」
「ああ……なんとかな」
だが――
胸の奥に、まだ“温もり”が残っている。
「アリア……」
羅針盤は、完全には壊れていなかった。
ひびの奥で、
微かな光が脈打っている。
ノアが静かに言った。
「……確信したよ」
「何をだ」
「導者は消えていない。
ただ――“門の向こう側”にいる」
リゼルが拳を握る。
「迎えに行くしか、ないわね」
俺は、羅針盤を握りしめた。
(待ってろ、アリア)
今度は、
俺が選ぶ。




