第15章 導者なき世界
――狂い始めた羅針盤と、“門を壊す者”
◆静かすぎる朝
港ティルに、朝が来た。
だが――
音が、足りなかった。
波の音はある。
人々の話し声も、確かに聞こえる。
それなのに、世界のどこかが
ごっそり欠けたような感覚が、消えない。
(……アリアが、いない)
隣を歩くはずの気配。
俺の選択に口を出して、時々拗ねて、
それでも必ず隣にいた存在。
それが、完全に――消えた。
俺は無意識に胸元を押さえる。
紋章は、まだある。
だが、温度がない。
「……レイ」
振り向くと、リゼルが立っていた。
いつもは軽口を叩く彼女も、今は静かだ。
「港は救われたわ。
でも……導者が消えた影響が、もう出始めてる」
「影響?」
彼女は遠くを指さす。
◆世界の歪み
港の外れ。
空気が、わずかに波打っている。
そこでは――
子どもが転んだ瞬間、
同じ場面が二度、三度と繰り返されていた。
「……巻き戻ってる?」
ノアが背後から現れ、低く答える。
「正確には、“補正が入らなくなった”」
「補正?」
「導者は、門と世界の“緩衝材”だ。
未来が極端にズレないよう、
無意識に微調整していた」
ノアは、眼鏡の奥で目を細める。
「アリアがいなくなった今、
世界は選定者――つまり君の選択を
そのまま、過剰に反映し始めている」
(俺の……選択が?)
胸の奥が、嫌な音を立てた。
◆変質する羅針盤
その時――
腰の羅針盤が、勝手に飛び出した。
カチ、カチ、カチ……
今まで聞いたことのない、不規則な音。
針は回らない。
代わりに――ひび割れたように震えている。
「な、なんだこれ……!」
ノアの顔色が変わった。
「……まずいな」
「何がだよ」
「羅針盤が、“導者不在状態”に適応し始めている」
リゼルが息を呑む。
「それって……」
「未来を探す道具から、
門そのものを“特定する”道具へ変わる」
俺は羅針盤を握りしめた。
(アリアを……探せる?)
だが、次の言葉でノアは冷水を浴びせる。
「同時に――
“門を破壊できる者”も、
君を認識し始める」
◆門を壊す者
空が、一瞬だけ暗転した。
次の瞬間、
港の灯台の上に――人影が立っていた。
黒い外套。
顔は見えない。
だが、確実にこちらを見ている。
「……あれは」
ノアが、はっきりと言った。
「“破門者”。
門を守る導者とは真逆の存在だ」
「門を……壊す?」
「正確には――
世界を“自由”にするために、門を否定する者」
人影が、ゆっくりと拍手する。
「素晴らしいね、選定者」
声が、直接頭に響く。
「導者を失い、それでも立ち続ける。
――実に、壊しがいがある」
羅針盤が、悲鳴のように震えた。
リゼルが短剣を構える。
「……敵ね」
ノアは一歩下がり、俺を見る。
「選定者。
次の選択は、今まで以上に重い」
人影が、腕を広げた。
「さぁ――選ぼう」
空に、歪んだ光文字が浮かぶ。
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【新たな選択:導者なき未来】
① 破門者に立ち向かう
② 今は退き、アリアの痕跡を探す
③ 世界の“補正役”を自ら引き受ける
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(……アリア)
胸の奥が、痛む。
守ると誓った。
今度は、俺が迎えに行くと決めた。
――そのために、何を選ぶ?
世界が、俺の返事を待っている。




