第13章 虚界獣、浮上
――三つの意志と、壊れかけの未来
◆決断
轟音とともに、港の沖合で黒い渦が盛り上がる。
海面が“めくれ上がる”ように歪み、その奥から影が現れた。
――ズ……ズズゥゥ……
巨大。
それだけで、理解できた。
「……虚界獣……」
リゼルの声が、低く震える。
「この街を“錨”にして、完全顕現しようとしている……!」
アリアが歯を食いしばる。
「そんな……!
あれが出たら……ティルは……!」
(迷ってる暇はない)
俺は、二人の手を強く握った。
「決めた」
アリアとリゼル、同時にこちらを見る。
「――三人で行く。
アリアを守る。街も救う。
どっちかを切り捨てる未来なんて、選ばない」
一瞬、静寂。
次の瞬間――
アリアの目に驚きと、安堵が混じった。
「レイ……!」
リゼルは、わずかに目を伏せてから、静かに微笑む。
「……選定者らしい答えね」
ノアが肩をすくめる。
「やれやれ。
最悪の選択で、最高の難易度だ」
◆虚界獣、上陸
港が悲鳴を上げる。
――ドォンッ!!
虚界獣の前脚が、防波堤を踏み砕いた。
時間が“遅れ”、瓦礫が宙に止まり、次の瞬間まとめて崩れ落ちる。
住民たちが逃げ惑う。
「時間が……止まった!?」
「違う……“引き延ばされてる”……!」
アリアが叫ぶ。
「レイ!
虚界獣は“未来の選択肢”を喰らって成長します!
迷っている人ほど……危ない……!」
(つまり、決断が遅いと食われるってことか)
俺は羅針盤を取り出した。
針は、ぐるぐると狂ったように回転している。
「リゼル!」
「わかってる」
リゼルが一歩前へ出る。
彼女の足元から、紫がかった光が滲み出した。
「虚界適応――
〈ネザー・フェーズ〉」
彼女の影が、地面から“ずれる”。
半分、虚界に沈んだような状態だ。
「私が“道”を作る。
あなたは――進んで」
アリアが不安げに言う。
「でも……あなた一人で……!」
リゼルは振り返らずに答えた。
「慣れているの。
“こちら側”は」
◆三者同調(不完全)
虚界獣が咆哮する。
――グァァァァァァァ!!
空間が割れ、未来の断片が刃のように飛ぶ。
「来る!」
俺は叫んだ。
「アリア! リゼル!
同調できるか!?」
アリアが一瞬ためらい、それでも頷く。
「……完全じゃなくても……
三者同調なら……!」
リゼルが静かに息を吸う。
「成功率は……三割以下よ」
「十分だ!」
三人の手が重なる。
――カチ……カチ……カチ……
時計音が、狂ったリズムで重なった。
アリアの白光。
リゼルの紫影。
俺の羅針盤の金色。
三色の光が、互いを拒みながらも絡み合う。
「導者権限――!」
「虚界権限――!」
「選定者権限――!」
――〈不完全同調:分岐突破〉
視界が砕ける。
未来が、無数の線になって広がった。
(……見える)
虚界獣に至る“一本の道”。
ほとんどが死。
だが――一本だけ、生き残る線がある。
「――そこだ!!」
◆反撃
俺はその線へ、全力で踏み込んだ。
「アリア!」
「はい!」
「リゼル!」
「行きなさい!」
羅針盤の針が、その未来を指し示す。
「――未来収束!」
拳が、虚界獣の“核”へ届く。
だが――
ズブッ……
「……っ!?」
手応えが、ない。
リゼルの声が響いた。
「レイ!
虚界獣は“今”には存在していない!
核は――“少し先の未来”よ!」
(未来を殴れってか……!)
歯を食いしばり、踏み込む。
「だったら――!」
羅針盤が、眩しく光った。
「――未来まで、届かせる!!」
◆次なる異変
その瞬間――
虚界獣の背後、渦のさらに奥で。
“別の何か”が、目を開いた。
ノアが、息を呑む。
「……冗談だろ……
第三の門が……
こんな場所で、反応してる……?」
空に、見慣れた光文字が浮かび始めた。
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【第三の未来選択:崩壊の連鎖】
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世界が、きしむ。
――未来は、まだ決まっていない。




