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閑話:真実

ヴォイド視点


始まりは——単純だった。


エルフ。


見たことがない。


長い耳。

細い体。


あの時、運ばれてきた使者を見て——思った。


(もっと見たいな)


ダークエルフというのもいるらしい。


(それも見てみたい)


世界樹。


(それも一度見てみたい)


話は難しかった。


巨大な木。

枯れるだの。

歴史だの。

戦いだの。

均衡だの。


正直、よくわからない。


だが——


“場所”には興味があった。


(山で囲まれてるなら——越えればいいだけだろ)


以前、王国の裏でやった。


山を抜いた。


トンネル。


あれと同じことをすればいい。


あとで誰かに頼んでおこう。


それに——


(海も見てみたい)


見たことがない。


なら。


行く理由は、十分だった。


——


港。


潮の匂い。


ざらつく風。


ヴォイドは立つ。


横にナイザー。

メント。


そして——エルフの使者。


周囲の漁師たちは、距離を取っている。


視線だけが刺さる。


ヴォイドは、袋を差し出す。


「……船」


短く。


漁師が中を見る。


固まる。


「……おい」


声が低くなる。


「なんだこれ」


「……金」


「見りゃわかるわ!!」


思わず怒鳴る。


金貨。


山のよう。


「百枚はあるぞ、これ……」


一歩下がる。


警戒。


「……何させる気だ」


誰もが同じことを思う。


この額は——異常。


ヴォイドは首を傾げる。


「……漕ぐ」


沈黙。


漁師は即座に首を振る。


「無理だ」


即答。


「こんな金で受けたら、命がいくつあっても足りねえ」


一拍。


袋を押し返す。


「……船だけやる」


指を立てる。


「金貨、二枚……いや三枚でいい」


「それ以上は受け取れねえ」


視線が揺れる。


恐怖と——理解。


“断れない相手”だと知っている。


だが——全部は受けない。


線を引く。


ヴォイドは少し考え——


金貨を三枚だけ取り出す。


差し出す。


「……いいのか」


「いい」


即答。


「むしろ助かる」


小さく呟く。


「これ以上は怖ぇ」


——


船。


小さい。


傷だらけ。


エルフの使者が顔を青くする。


「……これでは」


震える声。


「海を回るのに何十日も……準備も足りません」


ヴォイドは頷く。


「……大丈夫」


それだけ。


ナイザーとメントが乗る。


ヴォイドも乗る。


エルフの使者が慌てて飛び乗る。


「待っ——」


ナイザーが短く言う。


「縁、掴まれ」


メントが続ける。


「姿勢低くしろ」


その意味を考える間もなく——


エルフは従う。


その瞬間。


ヴォイドが、後方へ向く。


座る。


手を、海へ向ける。


指を構える。


一瞬の静寂。


次の瞬間——


爆風。


轟音。


船が——跳ねる。


浮く。


いや——飛ぶ。


波を叩くのではない。


波の上を“滑る”。


風を裂く。


海面が線になる。


エルフの視界が潰れる。


「——っ!!」


声が出ない。


ただ、掴む。


必死に。


時間の感覚が壊れる。


気づけば——


太陽の位置が変わっている。


半日も経っていない。


だが。


距離は——消えていた。


「……前」


メントが目を細める。


「船だな」


ナイザーが頷く。


「でけぇ」


エルフがかすれる声で言う。


「……ダークエルフの領海です」


「捕まっている人間……拿捕です」


「避けるべきです」


ヴォイドは見る。


大きい船。


上に、人。


吊られている。


(……あれも見てみたい)


「……行く」


それだけ。


減速もせず——


近づく。


跳ぶ。


船に、乗る。


——


ダークエルフ。


黒い肌。


整った顔。


(すごいな)


率直な感想。


その中。


一人の女。


空気が違う。


(船長だ)


見る。


そして——


見つける。


拘束された女騎士。


見覚えがある。


(……あの時の)


ノゲシの場。


裁きの時。


(別にどうでもいいけど)


少し考える。


(知ってる顔が死ぬのは、なんか嫌だな)


その程度。


だが——


その直後。


船長が口を開く。


案内すると。


(いいのか)


少し考える。


(ちょうどいいか)


魔属石を使いすぎて、少し疲れている。


「……頼む」


それだけ。


エルフの使者の存在も伝える。


船長の顔が歪む。


だが——拒まない。


——


二日。


船は進む。


途中、ヴォイドは休む。


海を見る。


波を見る。


それだけで、満足する。


——


地上。


ダークエルフの拠点。


木の上の構造。


(これも面白いな)


さらに奥。


老いた個体。


長。


(あれが長老か)


少しだけ観察する。


(次は——)


エルフ。


世界樹。


見たいものが、まだある。


案内される。


エルフも来る。


ダークエルフも来る。


みんなで行く。


——


森。


静か。


空気が違う。


そして——


見える。


巨大な木。


半分、枯れている。


(でかいな)


それだけで、満足する。


周囲。


綺麗なエルフ。


(ああ、確かに違うな)


観察。


終わり。


その時。


オーガの気配。


(……来てるな)


トンネル。


頼んだもの。


完成している。


(じゃあいいか)


なんかエルフとダークエルフと女騎士がしゃべってる。


(関係ないか)


「……帰る」


それだけ。


「……また来る」


本音。


(なんか美味しい物あるかな)


見たいものは、まだある。


——


その時。


報告。


雪。


崩れる可能性。


ヴォイドは山を見る。


(……邪魔だな)


刀を抜く。


振る。


爆風。


切る。


ずらす。


終わり。


あとは——


落ちてくるもの。


ナイザーとメントが処理する。


(……問題ないな)


確認。


終わり。


——


帰路。


歩く。


トンネル。


安定している。


一部は残るらしい。


もう一本、掘ると。


(便利になるな)


また来れる。


それでいい。


——


村へ。


戻る途中。


ヴォイドは考える。


(いろいろ見れたな)


海。


船。


ダークエルフ。


エルフ。


世界樹。


満足。


(次は何を見るか)


それだけを考えている。


——


その裏で。


何が変わったかなど。


一切、知らない。

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