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世界樹前


沈黙。


張り詰めたまま——


誰も、結論を出せない。


その時。


オーガの一体が、駆け込む。


息は乱れていない。


ただ——急ぎ。


「……報告」


短く。


全員の視線が動く。


「入口側——通路、貫通しました」


一瞬。


意味が、通らない。


だが——


続く言葉が、それを壊す。


「地上側より最短距離にて——山脈、貫通完了」


空気が、止まる。


完全に。


リナイズが一歩出る。


淡々と。


「帰路についてですが——」


板を見ながら。


「当該トンネルを使用するか」


一拍。


「あるいは——」


「崩落リスクを考慮し、やや離れた上部より再掘削」


「こちら側が高くなるよう傾斜を取り——我が領土へ接続」


指で線をなぞる。


「逆側からも同時掘削すれば——」


「三日で貫通」


「補強に——さらに六日」


静かに。


「計九日で、恒久通路となります」


沈黙。


誰も——言葉が出ない。


エルフの長。


ダークエルフの長。


そして——ヴァレリア。


同時に気づく。


(……どこから来た)


このオーガたちは。


この数。


この装備。


この速度で。


リナイズは答えない。


ただ——


ヴォイドを見る。


ヴォイド。


ゆっくりと。


腕を上げる。


そして——


遠く。


天を裂くようにそびえる——山。


一万インフィードイル級の壁。


沈黙。


誰も、息をしない。


(……ありえない)


(あれを——)


(通した?)


理解が、遅れてくる。


そして——


恐怖に変わる。


ヴォイドは、何も誇らない。


何も説明しない。


ただ——


一言。


「……帰る」


静かに。


それだけ。


場が、止まる。


エルフが目を見開く。


ダークエルフが眉を歪める。


ヴァレリアが、言葉を失う。


(……帰る?)


この状況で。


このまま。


何もせずに。


ヴォイドは続ける。


「……通路、使う」


短く。


それだけ。


リナイズが頷く。


「承知いたしました」


完全に、作業の会話。


世界樹も。


対立も。


すべてを——横に置いたまま。


その時。


ようやく、誰かが気づく。


(……被害が、ない)


殺していない。


奪っていない。


壊していない。


ただ——


通った。


海を渡り。


森を抜け。


山を貫き。


そして——帰る。


それだけ。


だが——


それが、一番恐ろしい。


全員が呆然とする中。


ヴォイドが、止まる。


振り返る。


世界樹を見る。


エルフを見る。


ダークエルフを見る。


そして——


一言。


「……これで、いつでも来れる」


静かに。


それだけ。


だが——


その意味は。


あまりにも重い。


沈黙。


誰も、動けない。


理解してしまう。


これは——


戦いではない。


蹂躙ですらない。


ただの——


“道”の確保。


強者が通るための。


ルート。


エルフの長が、震える。


(……違う)


(これは——)


(助けではない)


期待していた。


共に戦う存在を。


だが違う。


ダークエルフの長も、歯を食いしばる。


(理解すると思った)


(同じ“奪われた側”だと)


だが違う。


ヴァレリア。


膝が揺れる。


(正しく解決できると——)


信じていた。


だが——


違う。


全員が。


同時に気づく。


(……敵だ)


共通の。


圧倒的な。


敵。


この場にいる誰よりも強く。


誰よりも速く。


誰よりも自由に。


すべてを踏み越える存在。


しかも——


ルートを作った。


山を貫き。


海を制し。


逃げ場は——ない。


海しかない。


だがその海も——


女船長から聞いた小型船だが

あり得ない速度。風を自由に操る精度。


あの力。


意味を持たない。


完全に。


囲われた。


「……我々は」


エルフの長が、かすれる声で言う。


「……案内しただけか」


ダークエルフの長が、低く返す。


「最悪のな」


沈黙。


そして——


ゆっくりと。


手が伸びる。


エルフの長。


ダークエルフの長。


ためらい。


だが——


掴む。


手を。


数千年。


交わることのなかったそれが。


今。


繋がる。


理由は一つ。


共通の敵。


その後ろで。


オーガたち。


ナイザーが肩を回す。


「じゃあ——そういうことらしい」


オーガ達が笑う。


「トンネル、仕上げるか」


リナイズが淡々と。


「貫通後の補強、継続します」


誰も止めない。


止められない。


オーガ兵たちは、その場で持ってきた肉を食う。


水を飲む。


休む。


そして——


立つ。


何事もなかったかのように。


引き上げる。


最後に。


ヴォイド。


振り返る。


一瞬だけ。


そして——


「……また来る」


それだけ。


去る。




風が吹く。


弱い。


世界樹の葉が、落ちる。


その下で。


長く続いた争いが。


終わったわけではない。


だが——


意味を失った。


それ以上の存在が、現れたから。


二つの種族は、理解した。


争っている場合ではないと。


遅すぎたかもしれない。


だが——


まだ、終わってはいない。


ただ一つ。


確かなことがある。


この世界に。


“触れてはいけないもの”が生まれた。


そしてそれは——


もう、道を持っている。

平和になってよかったね!

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