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焦り

夕刻。


子どもたちが戻ってくる。


少し遅い。


ほんのわずかの遅れ。


だがそれだけで——周囲の空気は変わった。


「……ノゲシは?」


雌の1人が訊ねる。


子どもたちは顔を見合わせる。


一瞬の間。


そして——


目を合わせない


「…あとから来るって言ってた」


その言葉が出た瞬間、空気が凍る。


それは“事実”として成立していない。


その場にいた者たちはすぐに理解する。


ノゲシは——


「あとから行く」と言う性格ではない。


必ず、全員と一緒に動く。


遅れるなら、理由を説明する。


それを“省略する”ことはない。


つまり——


その証言は、明確に不自然だった。


「……どこで別れた」


声が低くなる。


「最後に見た場所は」


問いが重なる。


丘。魔猪の柵。夕方。


そろそろ帰るって言ってた。

 

断片が並ぶ。


そして——


繋がる。


“いない”。


その事実だけが、急速に確定する。


 

時間はかからなかった。


情報は即座に上層へ流れる。


三智将。幹部。警備系統。


そして——ヴォイドのもとへ。


 

夜。


村全体が動き出す。


松明が一斉に灯る。


丘。森。洞窟。水場。外縁。


全域が“線”ではなく“面”として洗われる。


名前を呼ぶ声。


地面を踏む音。


枝が折れる音。


だがそこに混乱はない。


異常なまでに整っている。


 

中央。


地図の上に広げられた布。


捜索範囲が炭で塗られていく。


重複はない。


空白もない。


ただ——圧縮されていく。


 

ニズム。


三本角。


手は止まらない。


「そこは既に確認済み、次へ」

「範囲を重ねるな、分割しろ」

「速度を落とすな、精度を上げろ」


声は鋭い。


だが焦りではない。


焦りを“構造で抑え込んでいる”。


周囲はそれを理解する。


(抑えている)


(それでも崩れていない)


 

報告が上がる。


「子どもが一人——」


ニズムの動きが止まる。


「違和感を感じたと」


ニズムが走り出す。


すぐに移動。


家屋内。


子どもは怯えている。


親に抱えられている。


そこへ——


ニズムが入る。


一歩で距離を詰める。


床がわずかに鳴る。


肩を掴む。


「いいか」


声は低い。


落ち着いている。


だが圧がある。


「見たものを全部言え」


「些細なことでもいい」


「違和感でもいい」


子どもは震える。


言葉が途切れる。


そして——


「……なにも」


一瞬。


「なにもいなかった」


ニズムの手に力が入る。


だが、さらに続く。


「でも」


声が小さい。


「ちょっとだけ……変な感じがして」


「振り向いたけど」


首を振る。


「ほんとに、なにもいなかった」


沈黙。


ニズムの目が細くなる。


頭の回転がはやい。


理解は早い。


(存在隠匿)


(気配遮断)


(もしくは記憶外干渉)


手を離す。


「……十分だ」


短く。


 

振り返る。


夜は続く。


捜索は止まらない。


だが、時間とともに範囲は埋まっていく。


黒。


完全。


結果は一つに収束する。


——いない。


ではなく。


——痕跡がない。


 

中央。


ヴォイド。


座したまま動かない。


ただ指が、膝を叩いている。


トン。


トン。


わずかに速い。


 

ニズムが戻る。


報告。


「内部痕跡なし」

「外部侵入の可能性高」

「高度隠匿手法使用の可能性有」


一拍。


「計画的連れ去り」


ヴォイドは止まらない。


指は動いたまま。


やがて——


止まる。


「……ああ」


それだけ。


確定。


 

三智将が集まる。


夜通しの協議。


仮説の列挙。


排除。


再構築。


残る結論は一つ。


・内部ではない

・偶発でもない

・高度隠匿による計画的犯行


つまり——


“狙われた”


 

夜明け。


方針が定まる。


ドワーフ国へ協力要請。

王国への照会。

周辺勢力の洗い直し。


資源・人員・金。


すべてが動く。


講和条約の枠組みも、再評価対象となる。


静かに。


だが確実に。


戦後体制そのものが“捜索体制”へ転換する。


 

その頃。


ノゲシはすでに遠い。


麻袋の中。


揺れる。


馬上。


複数の手で交代運搬されながら、痕跡は順次消されていく。


ルートは王国領を抜ける。


ボーダイ領方面。


誰にも気づかれないまま。


準備された経路。


準備された終点へ。

子ども達の嘘は作者の実体験から

研究発表で都会に行った時、引率の先生が途中でいなくなって他の先生に

聞かれたときにとっさに…

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