閑話:オーガの日常(ヴォイド)
朝。
村を歩く。
道は、ただ踏み固められただけのものではない。
複数のオーガが日々往来することで均され、
凹凸は削られ、
雨水が溜まらぬよう、
わずかな傾斜までつけられている。
端には石が並べられていた。
生活域との境界。
踏み越えれば分かる。
戻れば分かる。
形として、そこにある。
家々も変わっている。
かつての“巣”ではない。
削られた木材。
噛み合う接合。
組まれた骨組み。
石材は重ねられ、
力を分散し、
崩れない形を保っている。
ドワーフの技術。
入ったことで——
建造は変わった。
“その場しのぎ”ではない。
“長く使うもの”へ。
風を逃がす。
重さを逃がす。
壊れにくくする。
考えられている。
ヴォイドは、それらを見ていく。
一つずつ。
(大きくなった)
思う。
それだけ。
視線を感じる。
常に。
どこかから。
振り返る。
いない。
また歩く。
(後方、建物の陰。ユリが身を伏せる。視線が外れた瞬間、距離を詰める)
護衛はいない。
ナイザーとメントは外されている。
理由はない。
ただ——
不要だと感じた。
それだけ。
水場に出る。
桶が並ぶ。
水は分けられている。
生活用。
調理用。
洗浄用。
完全ではない。
だが——流れがある。
汲む。
運ぶ。
使う。
繰り返し。
止まらない。
その近く。
便所。
深く掘られた穴。
灰と炭。
臭いはある。
だが——弱い。
溜まったものは箱へ。
蓋をする。
運ぶ。
隠し洞窟へ。
これは処理ではない。
“資源化”。
時間をかけて変わる。
形を変える。
やがて——
使えるものになる。
“オーガの恵み”。
黒く、重く、
粘りを持つそれ。
鉱石を繋ぐ。
熱に耐える。
形を保つ。
村の中核。
ヴォイドは、以前ここに水を流そうとした。
却下された。
ニズムが説明した。
長く。
珍しく熱を持って。
構造。
流出。
効率。
全部は分からない。
だが——
必要だということは分かった。
(まあ、いいか)
歩く。
広場。
石で囲まれた食事場。
火床が並ぶ。
同時に使える。
集まる。
分ける。
食う。
隣。
大きな穴。
風呂場。
水を溜める。
熱を入れる。
浸かる。
ドワーフが作っている。
詠唱。
低く。
一定。
魔法。
言葉で組み、
力を流す。
“流す”こと。
それは——難しい。
体内の力。
押し出す。
外へ。
多くの種族には自然なこと。
水のように流れる。
だが——
オーガは違う。
流れない。
だから——
扱えない。
ヴォイドは試す。
口を動かす。
似せる。
内側を探る。
何かはある。
押す。
出ない。
もう一度。
出ない。
(無理か)
少しだけ。
残る。
教育施設。
子どもたち。
集まっている。
前に立つ。
ノゲシ。
「魔属石は、内部に“現象”を記録した石です」
手のひら。
石。
「外から力を与えることで、それを再現します」
一拍。
「ですが——我々には、その力が少ない」
ざわめき。
「本来は使えません」
間。
「それでも——動くことがあります」
握る。
押す。
一瞬。
横へ火。
消える。
呼吸が乱れる。
「……今のように」
「内側の力を押し出すことで、動く場合があります」
「ただし、不安定です」
「方向も分かりません」
「ですが——使えます」
子どもたちが試す。
ほとんど——反応なし。
だが一人。
石が震える。
わずかに。
本人は気づかない。
ただ息が荒い。
ヴォイドは見る。
(残念だ)
外へ。
荷が届く。
種子。
鉱石。
魔属石。
ヴォイドは二つ取る。
丘へ。
柵の中。
魔猪。
草を食う。
赤い石。
摘む。
押す。
内側。
出す。
火。
指先から噴き出す。
指が焼ける。
だが、すぐに再生。
(おどろいた)
次。
緑。
同じ。
押す。
一直線。
柵が切れる。
静かに。
ヴォイドは見る。
(方向、決まってるな)
削る。
面を変える。
発動。
方向が変わる。
また削る。
さらに変わる。
通常——
扱いづらい。
だが——
ヴォイドは変える。
理解ではない。
観察。
試す。
結果。
制御。
(おもしろい)
少しだけ。
そして——終わる。
興味が薄れる。
戻る途中。
ノゲシ。
子どもたち。
袋を持つ。
外へ。
笑っている。
弱かった個体。
前にいる。
(いいな)
戻る。
便所近く。
灰色の塊。
“オーガの恵み”。
以前、試した。
熱で溶ける。
粘る。
繋ぐ。
だから——
また使う。
鉄。
魔属石。
溶かす。
混ぜる。
冷える。
一体化。
振る。
削る。
力を込める。
発動。
棒越しに火。
これは普通は——起きない。
溶解した時点で魔属石は機能を失う。
だが——
“恵み”は繋ぐ。
壊さない。
結果。
金属越しに発動。
(なんか使えるな)
それだけ。
ヴォイドは価値を——知らない。
夕。
火が並ぶ。
肉。
卵。
香草。
バター。
香り。
柔らかい。
分配。
争いはない。
夜。
ヴォイドは座る。
いつもの場所。
村は回る。
自分が動かなくても。
それでいい。
それがいい。
深夜。
横になる。
目を閉じる。
「……平和だ…」
しばらく。
静寂。
一体。
雌オーガ。
静かに離れる。
家へ戻る。
それを——
ナイザーとメントが見る。
何も言わない。
確認。
視線を交わす。
共有される。
やがて——
夜の番が交代する。
静かに。
何も起きないまま。
夜は続く。
おなか減った。




