閑話:オーガの日常(一般)
朝。
空気は冷たい。
だが——寒くはない。
火がある。
囲いがある。
鉄で組まれた、風を通さない場所。
熱が逃げない。
昔はなかった。
ただの土と、風と、夜だった。
目を覚ます。
息が白くならない。
それだけで、違うとわかる。
隣を見る。
まだ寝ている個体がいる。
起こさない。
今日はそいつが“後”だ。
順番。
役割。
決まっている。
外に出る。
もう、動いている。
水汲み。
運ぶ。
ためる。
灰を持つやつ。
炭を運ぶやつ。
便所へ。
落とす。
混ぜる。
臭いはある。
だが——弱い。
昔は違った。
強かった。
鼻を刺した。
今は、抑えられている。
溜まったものは箱へ。
蓋をする。
運ぶ。
隠し洞窟。
奥。
暗い。
湿っている。
そこへ入れる。
「恵みになる」
そう教えられた。
最初は——わからなかった。
だが今は、知っている。
畑。
丘の上。
土を返す。
混ぜる。
水を入れる。
緑が増えた。
目に見えて。
確実に。
オーガは——野菜を食わない。
だが、使う。
魔猪。
柵の中。
太い。
重い。
だが——暴れない。
最初に見たとき、理解できなかった。
あれを“飼う”。
ありえなかった。
ヴォイド様がやった。
生け捕り。
運ぶ。
囲う。
草を入れる。
食う。
暴れない。
やがて——
子を産む。
増える。
増えたら——狩る。
分ける。
全員で。
それが、今だ。
昔は違った。
獲ったやつが持っていった。
残りを——奪った。
腐った肉も食った。
腹を壊した。
倒れた。
消えた。
珍しくなかった。
今は違う。
塩がある。
干す。
残る。
持つ。
冬でも食える。
死なない。
子ども。
前は——勝手に育った。
強ければ残る。
弱ければ消える。
それだけ。
今は違う。
雌が世話をする。
抱く。
食わせる。
守る。
笑う。
子どもが——笑う。
前にはなかった。
少し大きくなったやつは——
見る。
訓練。
武人。
智将。
あれを見て、真似する。
動きを追う。
呼吸を合わせる。
手伝う。
水を運ぶ。
道具を持つ。
混ざる。
“群れ”ではない。
“形”の中に入る。
俺も、そうだった。
魔鶏。
捕まえた。
すぐ潰すはずだった。
やめた。
囲った。
餌をやる。
増えた。
食う。
だが——減らない。
また増える。
おかしい。
だが——いい。
布。
雌が織る。
最初は邪魔だった。
引っかかる。
うっとうしいと思った。
今は違う。
軽い。
動きやすい。
寒くない。
脱がない。
戻れない。
戻る理由がない。
昼。
交代。
動くやつ。
休むやつ。
今日は休みだ。
だが——止まらない。
体は動かす。
軽く走る。
軽く振る。
鈍らせない。
夕方。
火。
肉。
焼く。
匂いが立つ。
いい。
食う。
満ちる。
無理に詰めない。
残す。
回す。
それも、決まっている。
しばらくして——
静かになる。
火が落ちる。
声が減る。
明日の準備が終わる。
明日は——訓練だ。
朝、早い。
集まる。
遅れない。
強いやつを見る。
真似する。
追う。
詰める。
——思う。
雌オーガと、狩りに行く。
森。
滝。
飛び込む。
冷たい。
深い。
だが——躊躇しない。
度胸を見せる。
強さを見せる。
そういうやつが——選ばれる。
拳を握る。
ヴォイド様。
あの場所。
あの背。
動かない。
揺れない。
遠い。
だが——
行く。
近づく。
並ぶ。
そのために。
「……やるか」
小さく言う。
横になる。
寝床は柔らかい。
昔のように、冷たくない。
すぐに眠る。
深い。
夢は見ない。
明日がある。
強くなるための——明日が。
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