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山を穿つ

山の前。


壁のように立つ岩肌。


高い。


硬い。


連なる層。


削られることを前提としていない地形。


人間なら——迂回する。


道を探す。


時間を使う。


だが——


止まらない。


前に出るのはクロル。


その後ろに三十体。


選別された個体。


掘削。


運搬。


支保。


そのためだけに組まれた小隊。


無駄がない。


クロルが、岩に手を当てる。


目を閉じる。


わずかに呼吸を整える。


内部を測る。


層の硬さ。


割れ目。


応力の流れ。


「……ここだ」


短い。


だが——確定。


口元が、わずかに歪む。


「始める」


六体が前へ出る。


ツルハシが振り上がる。


同時。


振り下ろす。


ゴッ——


音が重なる。


岩が“割れる”。


砕くではない。


割る。


塊で外れる。


次。


間を置かない。


ゴッ、ゴッ、ゴッ。


一定。


同じ場所。


同じ角度。


迷いがない。


四体が動く。


砕けた岩を持ち上げる。


投げる。


後方へ。


外へ。


流れは止まらない。


さらに奥。


十体。


壁を支える。


押さえる。


組む。


木を打ち込む。


石を噛ませる。


空間を固定する。


崩さない。


ただの穴ではない。


“通路”にする。


クロルが低く言う。


「楔、入れろ」


一体が前に出る。


鉄の楔。


打ち込む。


キン——


乾いた音。


岩が鳴る。


ヒビが走る。


クロルが頷く。


「……いい」


すぐに叩く。


ゴッ——


割れる。


効率が上がる。


精度が上がる。


後方。


肉が回る。


焼く。


運ぶ。


食う。


咀嚼。


飲み込む。


終わり。


次。


止めない。


食って、掘る。


それだけでいい。


一日目。


穴は奥へ伸びる。


光は消える。


だが問題はない。


視界は不要。


手と感覚で足りる。


空気は流れる。


穴の形。


通気。


すでに計算に入っている。


誰も気にしない。


ただ進む。


止まらない。


二日目。


圧が増す。


層が変わる。


硬い。


だが——遅れない。


削る。


運ぶ。


支える。


交代が入る。


前が下がる。


後ろが入る。


疲労は蓄積する。


だが——処理される。


概念として。


止まる理由にはならない。


クロルは一度も振り返らない。


前だけを見る。


掘る。


三日目。


音が変わる。


ゴッ——


軽い。


クロルの手が止まる。


一瞬。


耳を澄ます。


もう一撃。


ゴッ——


抜ける。


空気が変わる。


冷たい風が、流れ込む。


外。


繋がった。


「……通った」


短い。


だが——終点。


すぐに動く。


止まらない。


削る。


広げる。


人が通る幅。


武具が通る幅。


崩れないよう整える。


支えを増やす。


角を削る。


床を均す。


全員が動く。


役割の切り替え。


指示は不要。


すでに分かっている。


外。


王国側。


森の影。


小さく——口が開く。


目立たない。


低い位置。


影に隠れる。


クロルが出る。


音はない。


周囲を見る。


森。


気配。


風。


「……見えてないな」


確認。


問題なし。


「塞げ」


即座に動く。


枝を組む。


土をかける。


岩を寄せる。


完全には閉じない。


潰さない。


“使える状態”で隠す。


外から見れば——地面。


違和感はない。


内部からは開ける。


それでいい。


「配置」


低く。


短く。


三十体が動く。


トンネル内へ散る。


入口。


通路中程。


出口。


間隔を取る。


死角を消す。


重ならない。


詰まらない。


暗い。


だが——見えている。


呼吸が揃う。


音はない。


三十の目が前を向く。


待つ。


動かない。


必要な時まで。


――村。


火。


揺れる。


鉄の上。


肉が焼ける。


ジュウ……


油が跳ねる。


香りが広がる。


ヴォイドがフライパンを持つ。


手は動かない。


ただ見ている。


焼ける変化を。


色。


音。


匂い。


ナイザー。


メント。


その横に立つ。


何も言わない。


同じように見ている。


メタが近くにいる。


武具を見ている。


合金の槍。


薄黒く、鈍く光る防具。


指で軽く叩く。


コン、と低い音。


響きを確かめる。


歪みはない。


問題ない。


一体が走り込む。


速い。


だが静か。


息は乱れていない。


「山、通った」


短い報告。


それで足りる。


メタが顔を上げる。


一拍。


「……そうか」


受け取る。


理解する。


視線がわずかに細くなる。


「クロルに伝えろ」


「終わったら聞かせろ」


何を。


言わない。


だが分かる。


「どこまで通るか」


それが全て。


部下は頷く。


即座に引く。


止まらない。



ヴォイドは振り返らない。


赤身と脂身の層をつっつく。

 

油を炭に落とす。

 

肉をひっくり返す。


ジュウ——


音が変わる。


香りが強くなる。


「……いいな」


それだけ。


外では——戦の準備が進む。


数。


配置。


意思。


だが——ここでは違う。


ただの火。


ただの肉。


ただの時間。


山の向こう。


三十の目が、その時を待っている。


静かに。


確実に。


逃がさないために。

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