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一目惚れは三年前 5


 カイゼン達の軍勢がテオルクの同盟軍、本軍と無事合流した翌日。

 カイゼンはテオルクの下に向かい、本陣へと赴いていた。


 本陣は山深い場所に築かれていて、標高も高く斜面は土砂崩れでもあったのだろう。

 岩肌が露出しており、自然に出来た砦のような見た目をしている。

 本陣も広範囲に広げておらず、要所要所に軍を散りばめており、また同時にその軍が自然の特性を活かし斜面に柵のような物を量産している。


「──ハンドレ卿」

「……! ヴィハーラ卿、援軍かたじけない。感謝する」

「いえ、陛下の命ですので。──それよりも……」


 カイゼンを出迎えたテオルクは周囲を厳しい顔付きで見回すカイゼンを見て、何とも言い難い難しい表情を浮かべる。


「ハンドレ卿……。相手は手強いのですか……?」


 周囲を見回していたカイゼンは、正面に向き直り真っ直ぐテオルクを見詰める。

 そして硬い声音でそう問うた。


 カイゼンに問われたテオルクは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、肯定の意味が込められている頷きを一つ返した。


「……恥ずかしい事だが、我が軍は散り散りに布陣している敵方の部隊を全て把握し切れていない。そのためにこちらの戦力も分散されていて、な……」

「思ったように戦果があげられていないのですね」


 カイゼンの言葉にテオルクは神妙な顔で頷く。


(なるほど……いくら少数とは言えども敵に囲まれてしまえば多少なりともこちら側に被害は生ずる。……長期戦が狙いか?)


 長期戦にもつれ込めば甚大な被害は出ないが少なくとも多少なりとも損害は被る。

 テオルクの軍を足止めして敵になんの利があるのだろうか、とカイゼンは考えるが相手方の考えはまだ分からない。


「ならば、うちの師団が相手方の動きを探りましょう。うちの騎士達は頑丈なのでちょっとやそっとじゃあ揺るぎませんからね」

「だが、そんな事をお願いしてもいいものか……。ヴィハーラ卿達が援軍に来てくれたと言うのに真っ先に突入するのは……」

「それが我々の役目ですから」


 テオルクと話し合いを終えたカイゼンは指示を出しに行く、と告げてその場を立ち去る。


 カイゼンを見送ったテオルクは自身でこの戦況を打開出来ず、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 そうしてそんなテオルクの下に、今回援軍として到着したカイゼンの軍、ヴィハーラ公爵家の軍医がやって来た。


 ――テオルクがフランツ医師に対する助言を受けた、あの軍医がやって来たのだった。


 軍医を招き、暫く話をしたテオルクの顔色は段々と悪くなりそして自分の侍従に何かを指示する。

 ヴィハーラ公爵家の軍医はテオルクに一礼してからテオルクの下を去った。



 そうしてそれから丸一日時間が過ぎた。

 カイゼンはテオルクと連携しながら自分の師団に指示を出しながら、ちらりとテオルクを見やった。


「──?」


 どうも、テオルクの顔色が悪いような気がする。


(体調でも悪いのか……それとも何かあったのか……?)


 カイゼンはそうだ、と考える。

 自分自身は王都を出立し、この軍に合流して間もないがテオルクは出征してからもう半年以上は経過している。


(長期間戦場に居ると精神面も疲弊するし、肉体的にも疲れは溜まる。体調を崩す騎士も多いからな……。だがハンドレ卿は陛下からの勅命で軍を率いている。前線から退く訳にはいかない。……ならばやはり早期決着か)


 奇襲を仕掛けて敵方を少しでも揺さぶるか、とカイゼンが考えていると何か思案していたテオルクがふとカイゼンに視線を向けて口を開いた。


「……ヴィハーラ卿、一つ聞きたい事があるのだが、いいだろうか?」

「ええ、もちろんです。何かこの戦について打開策が?」

「ああ、いや、すまない。この戦とは一切関係無い事だ……。ヴィハーラ公爵家の軍医殿だが……」

「軍医ですか? ──ああ、彼と何か話しました? あの人は昔からあちこちの軍にお邪魔するのが癖でして……。もしかしてご迷惑をお掛けしましたか?」


 カイゼンが慌てて自分の家の者の失態を謝罪しようとしたのだが、今度はテオルクが慌てて首を横に振る。


「いや、違う、迷惑など……! ただ、軍医殿はこの仕事に就いて長いのか?」

「ご迷惑をお掛けしていないのでしたら良かったです……。確かに、彼は軍医となって長いですね。私が幼い頃には既に軍医として働いていて……。以前は普通に貴族家お抱えの医者として働いていたみたいですが……」

「なるほど……そうか……。医者として数多くの貴族と関わりがあったのであれば頷ける……。軍医として軍に従軍していれば、騎士から様々な話を聞く機会もあるだろうしな……」

「──何かを聞いたのですか?」


 カイゼンの言葉に、テオルクは何とも言えない表情を浮かべ、困ったように笑う。


「いや、今回の戦には関係の無い、我が家の医者に関する噂のようなものを、な……」

「ハンドレ伯爵家お抱え医の噂を……?」

「ああ……。いやいやすまない、今回の戦には関係の無い事だな、気にしないでくれ」


 すまなそうに話を変えるテオルクに、カイゼンは不思議そうにしつつ、他家の家の事をこれ以上聞くのも失礼にあたるなと考えてそれ以上深く話を聞く事はしなかった。


◇◆◇


 それ以降テオルクは戦の指示を出しつつ、「何かを調べている」様子で。

 そして日に日にテオルクの顔色が悪く、辟易とし、憔悴していく様にカイゼンは心配になった。


 戦場でのテオルクは今までのように勇ましく、部隊に指示を出して騎士達の士気は高い。

 だが、戦から離れると途端に意気消沈していく。



 テオルクが出征して一年以上。

 カイゼンが援軍として合流してから半年以上の時間が経過した。


 変わらない戦況に。

 のらりくらりと戦いを長引かせる敵国に苛立ちが募り始めたある日。


「……開戦してから一年以上が経ちます。数回行った奇襲は失敗に終わっていますが、戦況を動かしましょうハンドレ卿」


 目的の読めない相手への不気味さに、そしてただただ戦争を長引かせようとしているような敵国への苛立ちにカイゼンが軍議の場でそう言い放つ。


「戦争をしているだけで、長引かせれば長引かせる程食料も、資金も消費して行きます。これ以上長期化してしまうと国民への負担も増してしまいます」

「カイゼン卿の言う通りだな……。このままでは悪戯に国民が納めてくれた税を無駄に食い潰す事になる……」

「同盟国の援助に助けられている部分はあれど、何処かで動かないと長期化の末、泥沼化しかねませんからね……」

「──分かった。ならば、カイゼン卿の部隊を中心に仕掛けよう。……他よりも大きな犠牲を生むかもしれないが、大丈夫か?」


 テオルクの言葉にカイゼンは当然だと言うように強く頷いた。



 長らく戦場を共にし、カイゼンとテオルクは合流した半年程前よりも打ち解け、気軽に会話をするような仲になっていた。

 そして、カイゼンは気軽に話を出来るようになったから、と今回の件を口にした。


 合流してから暫くは、わざわざ援軍にやって来たカイゼンの軍に出来るだけ被害を出したくないとテオルクも考えていたのだろう。

 だが、そのような考えでは戦況は膠着する事は当然の結果でもある。


 個々の力、突破力に定評のあるカイゼンの部隊を筆頭に今回は敵方の本陣深くに奇襲を仕掛ける方向に話が纏まった。


 だが、相手方もそれを待っていたのかもしれない。

 絶大な力を持つカイゼンの部隊がテオルクの側から離れる時を首を長くして待ち、カイゼンがテオルクの側を離れ、直ぐに戻って来れない距離までカイゼンの部隊を引き離した瞬間。

 逆に敵国はテオルクの本陣を急襲する計画を立てていたようだ。



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