表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神ゲーしようと思ったらクソピーキー性能のチート詰め合わせの初期限定特典に当選したので悪役に徹することにする  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
Chapter1 終わりの始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/886

No.8  悪魔の交渉

ノートの本性、ユリンは擬態、運営は14


 一通りの作業を終え、本日はログアウトしようとしていたノートとユリン。

 あとはログアウトボタンを押すだけ、と言うところで、物凄く丁寧なメールが運営より送られてきている事に気付く。未読メール数を知らせる数字に『!』マークが付いている為、余程重要なメールということである。

 内容を読むと、諸事情につき話し合いをさせて欲しいとの事。読む限り極めて下手に出つつも拒否権は無いニュアンス。

 指示通りにメールの中にあった入室ボタンを押すと、椅子と白い長机のある会議室のような空間に強制転移させられたことに気づく。


 ノートとユリンはこれ一体なんなんだ?と顔を見合わせるとキョトンとする。


「本日はこちらの都合による突然のお呼び立てに応じていただき、ありがとうございます。私はALLFO・PL第三管理部室長の小林と申します。こちらの2人は右から順に、掲示板第四監督部室長の山岸と第一特殊トラブル対応部室長の池田です」


 その部屋にはノートとユリンに対し机を挟んで向かいに厳しい表情のスーツの男性が3人。ノートとユリンが転移してきたのを見ると即座に立ち上がり、深々と頭を下げる。

 ノートとユリンはアバターのままなので会議室にコスプレした人物が紛れ込んだような場違い感があるが、男性三人は至って真面目な表情だった。


「御時間は出来るだけ取らないようにしたいと思いますが、ひとまず席について頂けますでしょうか?」


 最初に挨拶した小林という人物に促され、はぁ、と気の抜ける返事をして席に着くノートとユリン。

 状況がまだ掴めておらず呑気なノートとユリン。厳しい表情の3人組とは実に対照的である。



 小林は改めて頭を下げて説明を始めるが、3分経過した辺りでユリンは取り繕う事もやめて既に飽き飽きした表情。不機嫌オーラありありの仏頂面。

 小林は空気が悪くなっていることを敏感に感じ取り、より丁寧に話をしようとするが、そこでノートが待ったをかける。


 ユリン──────本名、遊佐(ユサ) 凛斗(リント)は基本的に仏頂面であり、人自体が好きではない。

 世界で一番大好きな兄貴分の隣にいる時の、御主人様大好きな子犬の様な姿と、彼の平時の姿とは全く違う。

 平時の、無愛想でクール系な姿しか知らない人々からしたら、ノートといる時のユリンはキャラ崩壊しているというべきくらい違う。

 

 

 それは彼女、もとい彼の今までの人生経験に原因があるのだが、初対面の相手には大体この状態がデフォルト。更に小難しい話を一方的に畳み掛けられるのも大嫌いなので、むしろ小林の対応は悪手中の悪手。


 ─────という事情を全て把握しているノートは、ユリンが大爆発して話がこじれそうになる前に待ったをかけたのだ。


「あの、すみません。こちらの態度が悪いようで申し訳ないのですが、まず其方(そちら)側の要求を率直におっしゃって頂けますか?」


 態度の悪いユリンを肘で突きながら、小林に柔らかい口調で提案するノート。

 ノートがわかりやすく苦笑を見せた為か、小林もユリンについては何か察したようで交渉のターゲットをノートに絞る。


「では、大変恐縮ながらお言葉に甘えまして。私共の願いとしては、全プレイヤーの通知にノート様とユリン様のPLネームの掲載と、初期限定特典に関する簡易な情報開示を許可していただきたいのです。先ほど説明させていただきましたが、今現在の掲示板ではノート様とユリン様、NPCバルバリッチャの話題で混乱が生じています。いえ、掲示板以外でも数多くのPLがGMコールを行なっています。その騒動を終息させる為に、御助力を得られないでしょうか?」


 小林の言葉を受けて少し考え込む“ポーズをとる”ノート。だがノートが次の行動に移るより早く、今まで我関せずだったユリンがいきなり噛み付いた。


「お断りです!話は聞いていましたが、初期限定特典を持つからボク達は極端なロールプレイをしていますし、PKはこれからもする予定なのにそっちの都合だけで手札や実力をバラされるなんて身勝手すぎです。AIを売り出すためとかこちらは知ったこっちゃ無いし、修正はしないというのがALLFOの売りでしょう?これは完全にそっちのミスです。その対処をプレイヤーに求めるのはおかしいと思います。だからお断りです」


 ラノベ主人公並みの底抜けの鈍感人間でも気づけるぐらいにイライラとした雰囲気が強まるユリン。誰にも口を挟ませないほどの勢いで捲し立てる。

 小林達はどうやらユリンの保護者枠に近い立ち位置のノートに視線を向けるが、ノートは特に口をはさまず、感情を読ませないアルカイックスマイルのまま小林達を眺めるばかり。

 VR空間の会議室だというのに、小林達は自分の額に嫌な汗が滲んでいる気がした。


「その、仰る通りです。全ては此方側のミス……その終息にPL個人に直接協力を仰ぐのは恥知らずとも言えるのは重々承知です」


 再度頭を深々と下げる小林達。

 ユリンは不機嫌そうに睨みつけるばかりだが、ノートは上手く言質を取られないように逃げた小林を愉快そうに観察しつつ、評価を内心で上げる。


「成る程、修正が入れられないために私たちの初期限定特典には手が出せず、PK自体は禁じていないので諌められない。だが対策を取らなければそれはそれで貴方方の責任問題になる。その為に講じられた苦肉の策がこれなんですね?確かに───────────」


 ノートは小林を見つめたまま、結構強めにユリンの頭にデコピンをする。ユリンはイタッとうめいた後にシュンとしてそっぽを向く。

 しかしVR空間では痛みもないのでそれは演技であることはノートも見抜いている。むしろ小林達のガードを緩めるために敢えてユリンはリアクションしたのだ。

 そんなユリンに表面上は構うことなく、ノートは言葉を続ける。


「────────コイツがやけに喧嘩腰なのはありますが、私達には何の責任問題もなく、手の内などがバレないためにプライバシーモードにしてるんですから名前を公表されるのは正直困ります」


 実際には、使用しているプレイヤーネームが本名をもじった物というのが一番問題だ。PKなんて危険な行為をする以上、万が一身元特定に繋がらないようにする為には当然のリスク管理だ。

 だったらそもそもそのネームを使うな、という話だが、10年以上どんなゲームでもこのプレイヤーネームで遊んできた為に、ノート達もそれなりに今のプレイヤーネームに愛着があるのだ。


「ゲームの進行を大きく妨害するような行動もしてないですし、騒動を大きくしているのは、聞けば『最初から私たちを目当てに自分の意思で森に乗り込んで、それにより私達にPKされたPL』ということですよね?私たちがわざわざファーストシティの出入り口で出待ちして、自分たちより能力の低いプレイヤーを狩り続けてるわけでもない。そうですよね?」


 ノートが状況を整理しつつ机から身を乗り出し、嘘偽りを許さないように彼らをジッと見つめながら問いかける。

 実際は墓地周辺に接近したプレイヤーを計画的に襲撃しているのでグレーゾーンに近いのだが、そこはノート達も慣れたもの。プレイヤーの襲撃位置は可能な限り墓地の出入り口から離すように計算している。

 ここで墓地の入り口を封鎖する様に出入り口で狩りをしてしまうと、本人にその意図がなくても規約違反扱いにできなくもない。所謂、過剰な狩場の独占などに該当してしまう。


 つまり、グレーではあるが絶対に黒と断定できない為、ALLFO側には干渉する大義名分がない。

 一番見抜かれたくない部分を完璧に見切られている。

 後めたさが首に錆を発生させたのか、ノートの言葉に頷く小林の動きは非常にぎこちない。


「それに加えて、騒動が起きていても現状でゲームの進行に致命的な障害も出てないのは確かですよね?今のアクティブユーザー数に対して、実害が起きたのはたった80人。では彼等は、殺された被害を訴えたのですか?失ったアイテムを返してくれと訴えたのですか?────当然、違いますよね」


 噂話が広がる前に殺されたプレイヤー達に関しては、これはもう運が悪過ぎたとしか言えない。美味しいクエストを受けたつもりだったのに、わけも分からず殺されてアイテムも奪われてクエストも失敗となれば、不満も膨れ上がり騒いでしまうのはわかる。

 だが、現在問題になっている“噂話を聞いて動いたプレイヤー”は自業自得の側面がある。危険だと噂が広がっているのに自分から首を突っ込んだのだ、誰に頼まれたわけでもなく。

 火事の現場に踏み込んで引火した人間の訴えを、一体誰が取り合うと言うのか。

 そんな彼等が。アイテムを返して欲しい。話が違う。そんな事をGMコールで泣きつける訳がない。

 少なくとも、一般常識と人並みの羞恥心を持ち合わせていたらそんな愚かな訴えはしない。


「あくまで彼らは、今回の一件に際して、納得のいく説明をALLFOに求めているだけです。PKやそれによる損害自体を問題視した訳じゃない。私達とはもうほとんど別の案件ですよ」


 重要なのは、今回の一件が仕様上の出来事なのか、それともバグなど別の要因なのか。

 騒いでいる側の大半も、懇切丁寧に全て解説してもらえるとは思ってない。騒ぎを大きくして、運営側が必要最低限以上の情報を落とさないかと期待しているのだ。

 むしろこの大騒ぎも含めて、プレイヤー達はお祭りの様に楽しんでいる。本気で不平不満を叫んでる人間など皆無に近い。無責任な立場で参加できる野次馬行為は立派な娯楽だ。

 でなければ、自分とは縁遠い存在の人の私生活ばっかりすっぱぬく週刊誌が売れたりしない。

 

「それに、よしんば私達がプレイヤーネームの掲載や情報開示を許可したところで、貴方方はどう説明する気ですか?初期限定特典だから強いのは当たり前、と説明しますか?素人の考えではありますが、其方そちらの方が余程大きな騒動になりますよ。私達は実際に体験してその多大なメリットと、メリットに釣り合うデメリットを体感しました」

 

 デメリットと理解していても、実際にやってみると許容範囲を超えているデメリットだったなんて事はよくある話だ。逆もまた然り。こればっかりは体感しないと本当の意味では正しく実態を判断できない。


「しかし、これだけの能力差が出ると知れば必ず上辺だけを見て騒ぐ連中が出ます。下手をすれば妙な逆恨みで私達が過剰な報復行動の標的になる可能性も大いにある。そうですよね?」


 長くゲームをしてきたからこそ、ノートはオンラインゲームを遊ぶ人種をよく知っている。

 むしろオンラインゲームに慣れている連中は理屈を察してくれる分まだマシだ。ALLFOは初の第七世代の本格的なゲームとあって、本格的なMMORPG未経験者の割合が高い。その為、オンラインゲームの独特の考え方や理論に慣れてない連中が少なくない。となれば、ALLFOの環境は何が起きるかわからない。

 

「それとも、たった2人の損失くらいは天下のALLFOにとって構わないという認識でしょうか?」


 故にノートは嫌味を少し織り交ぜつつ、運営を牽制する。

 

「特に私たちの性質が極悪固定なので、PLは倒したところで性質がダウンしない相手です。面白半分にレアエネミーの如く狩られても可笑しくはないでしょう?」


 ノートが淡々と予測を突きつけると、3人組の顔色が更に悪くなる。


「人の倫理感ほど信じがたいものはありません、特にサービス開始直後で興奮状態にある今は。世論次第では、冷静になれば残酷極まりないことも人は平気で為すものです。古代ローマでは奴隷同士の殺し合いがインフラレベルの見せ物でした。フランスでは処刑が娯楽になった時代もありましたね。人は自分が一般的な立場に立っていると思うと思考のタガが緩みます」


 倫理というのは、根本には「遵守しておかないと自分も被害を被る」という前提がある。

 自分が嫌な事は他人にしてはいけない、という幼い時から散々聞かされる警句を小難しく語るのが倫理の本質だ。

 つまり、どうあっても自分が被害を被る側に回らない場合、人の倫理は容易に緩む。


「80人以上の無辜のプレイヤーを一方的に倒したレアエネミーを皆で倒す。今の加熱したムーブメントがその方向に進むリスクも十分にあるでしょうね。運営から言及がなければ真偽不明で止まっていた噂も、実際に存在すると断定されてしまえば、実態を直接目で見たがる人が増えてしまう。噂話のフェーズからより騒動が大きくなるでしょうね」


 ノートの最悪の未来予想図を聞いたユリンもハッとすると、勢いよく椅子から立ち上がる。


「そうじゃん!巫山戯んなよあんたら!絶対却下だよそんなの!言ってること滅茶苦茶じゃん!」


 激昂するユリンは敵意剥き出し。机が間になかったら今にも飛びかかりそうな勢い。

 だが、ノートは落ち着いた様子でスッと立ち上がり、ユリンの肩を柔らかく掴むと、その柔らかさとは裏腹に、やや強引にユリンを座らせる。


「ま、其方も結構イレギュラーな事態に慌てているのはわかってますし、早急な解決を急ぐあまりそこまで考えがまだ及んでなかったのではないかとは思います。こういう感覚はある程度MMOの形態で何度もトラブったことがないと身につかないですし、その対策方法を糾弾しようとは思いません。即物的ではありますが全体の利益を鑑みれば有効な手段ですからね」


 22世紀、AIの知性は完璧に人を模倣するまでに至った。

 何か困ったことが有れば家族や友人より、まず真っ先にAIに相談する光景は珍しくない。

 明日の献立から尻毛の処理の方法まで。家族にすら言えない事もAI相手なら話せる人は少なくない。

 全ての社会システムがAIありきで設計されている。

 

 どこもかしかもAIが絡み、思考の動きが丸裸にされ、分析される。

 まぐれや表面上の嘘偽りは弾かれる確率が高くなり、上流と下級の差は静かに、着実に、強固に広がる。


 人の愚かさは、残酷さは、一度直面して被害を被らないと実感し難い。

 天下のGoldenPaer肝入りのALLFOプロジェクト。その運営メンバーに選ばれる職員だ。当然思考傾向から学力までAIによるフル検査を突破したエリート中のエリート。

 優秀な両親の間に生まれ、幼い頃から裕福な家庭で育つ。万引きや中絶、未成年飲酒に未成年喫煙などとも縁遠く、大きな挫折らしい挫折も経験しない。

 私立の学校など、ある程度生徒の能力を厳選したコミュニティでも、確実に平均以上のカースト。学業も友人関係も充実した、凡ゆる面でスペックが高く、性格も一定以上の保証を受けた優秀な人材が運営チームには集まっている。


 故に、ドブ底のスラムの存在を知っていても、スラムの流儀を真の意味では理解できない。

 人格的に優れた者が想像の輪を広げても、愚かで醜い性格の者は優れた者が考えもしない様な発想や情報の受け取り方をして、予想の斜め下に全力でスライディングをしてくる。


 運営チームの様な金持ち喧嘩せずを地で行く優等生ばかりなら、最初の案でも一切問題はなかったかもしれない。

 あるいは、最初に過大な要求をして様子見を狙った可能性もノートは考慮していた。


 どのみち、今の案では熱した油が燃えている現場に水を浴びせるのと同じ。

 一見正しく見えるが、実行したら大爆発必至の危険な案という訳だ。

 

「(一体誰の発案なんだろうな。AIでフルコントロールが可能なはずなのに、こうして人間が出張っている。実際、イベント進行中断への補填はサポートAIが行っていた。つまりAIとは別に人間のみで判断して動いた案件?そうか。もともとAIで全管理できるなら人間の運営チームなんて要らないよな。となると、この運営チームは、AIとは完全独立して動く組織なのか。って事は………………粗は確実に出るな。現に対処方法がお粗末だ。AIが噛んでたらリスクを提言していたはず。AI社会の弊害だよなぁコレ。………………うん、悪用できそうだな。ロジックは組めた)」


 イメージと実態に違いがある場合、その間には一般には見えていない前提条件が存在する。

 不合理な動きを運営チームがするということは、その裏には不合理になる理由があるのだ。

 

 

「でも、でもさ、こんなの絶対「ちょっと静かにしてなさい、いいね?…………すみません、で話を続けますね」」


 不満気なユリンを即座に黙らせるノート。

 20代くらいでありながら妙な落ち着きを見せるノートにも、ノートの言うことには従順に従うユリンとノートの関係にも色々と疑問が湧き上がる。それを置いておいても、完全に主導権を握られてしまったことに3人組は少々焦りを隠せない。

 自分達が干渉した相手が、PKプレイヤーとは思えないほど腰を据えて議論をしているのだ。不平不満を叫ばれるのは予測していたが、冷静に分析と理論展開をされるのは予測しなかった。


「私達は名前を公表されたくない。其方側はどうにかしてポーズだけでも騒動を終息させたい。話は平行線ですね。おそらくこの後イベントでもあって、それに対して今の状況が運営にとって非常に都合が悪いことが焦りを加速させ、乱暴な解決案を提示してしまった原因なんだと思いますが────────────」


 ノートが急に知るはずのないイベントについて言及し思わずギョッとする3人。それを見て薄っすらとノートは笑う。


「図星みたいですね。まあサービス開始直後のゲームなんてだいたい似たような流れですから、これは予想の範疇です。大方この後あの森を中心にしたイベントがあるから、何かしら騒動への対処を行なったというポーズをとっておかねばならない──────そんなところでしょう?なのでこちらから逆に提案します。私達の現在地の強制変更と、いくつかの要求を受け入れて欲しいのです」


 ノートとて、自分たちの要求をただ押し付けるつもりはない。

 折角、運営側が下手を打ってノート達に貸しを作った状況にしてくれたのだ。過剰要求で過失をイーブンにされたくない。

 加えて、運営からの不興を大きく買うのは今後のことを考えれば得策とは言えない。実態は定かではないが、こうしてプレイヤーを個別で呼び出せる程度には権限を持った組織だ。敵に回すメリットがない。

 かと言って、このまま運営の要求を飲むのはお互い大火傷するし何も旨味がない。

 故に、ノートから妥協案を出す。

 

 3人組はまさかノート側から取引を持ち掛けられるとは思っておらず目が点になる。だが、ノートの話運びは至って冷静。ユリンと違ってコミュニケーションを取ろうとする意思が見える。

 とりあえず話がわかりそうな相手と判断し、ノートの話を聞いてみようと運営チームはアイコンタクトで合意。

 理解に誤解が無いよう、現在地の変更とはどういう意味ですか、と小林が代表して問うと、ノートは鷹揚に頷く。


「前提として、私達がここに来るまで考えていた方針を共有しましょう。私達は今後、しばらく……そうですね───ざっと1ヶ月程度は東の森を起点に行動する気でした」


 1ヶ月と言うのは、ノートの口から出まかせ。

 だが、オンラインゲームにとって1ヶ月と言う期間は明確に区切りがある。

 サービス開始してからある程度情報が出揃い始める時間。慣れが出てくる時期。故に新規イベントなどでテコ入れが入り、環境が変わりやすいタイミングだ。

 

「バルバリッチャ───────私達の動向を調べたなら当然ご存知だと思いますが、あの特殊なNPCが封じられていた場所が図らずも私たちにとってのセーフティーゾーンになっていましたからね。加えて、ある程度狩場は広げつつPKも続行する気でした」


 これは口から出まかせではない。

 初期限定特典など取らなくとも、ノートはいずれPKプレイヤーになっていた。その程度にはPK沼にドップリと浸かったクズだ。

 だが、それを言っても運営を揺さぶれないので、もっともらしい理由を説明する。


「まず性質が極悪なので街に入れない訳ですので、安全性が保証されてる『東の森』は代替だいたいできる場所がない限り離れがたい。また、私達の戦闘力やランクでは、『東の森』のモンスターを狩るよりPKした方が圧倒的に効率がいい。更に、街に入れない故に私達は必要な物資を商人から購入できない。故にPK時のプレイヤーからのドロップや商人を襲撃して得られるアイテム類が重要なんです。これらの理由により私たちはその場から離れることができないわけです」


 ここで一旦言葉をきり、ここまではいいですよね?と目線で確認するノート。

 3人組は何も反論できず、頷く他ない。


「裏を返せば、安全性と機密性が保証されたエリアと、アイテム類の購入・換金が可能になれば『東の森』に私たちが固執する理由はありません」


 十分に運営に釘は刺せた。そう判断したノートはアクセルを踏み込む。少し身を乗り出す。


「そこで提案です。特別措置として、私たちを推奨ランクの高い地域に強制転移させるんです。我儘を言うなら安全性と機密性のある空間とアイテム類の購入・換金可能なシステムを付けてほしいですけどね。要は私達が物理的に他のプレイヤーから離れればいいんです。いくら騒いでいても、そのあと何も音沙汰がなければ騒動は勝手に終息します。関心もあっという間に公式イベントに移るでしょう。ゲーマーなんてそんなもんですよ」


 世の中、大きな不祥事があるとどこもかしこもそればかり報道する。だが、新しい不祥事が発生すると今までのは夢だったのかのように新しい不祥事ばかり取り上げるようになり、元の不祥事が解決をしていなくても取り上げられなくなっていく。

 騒動とはいうのは燃料を追加しない限り、大抵はより新鮮な騒動に塗り潰されて風化していくのだ。

 

「わかりやすく具体的な要求に言い直すのであれば、3点。1つ、私達のランク帯にあった地方へ私達を移動させること。2つ、商品の購入売却可能な駐在商人NPCなどの派遣か代替可能なシステムの導入。3つ、今現在私達が所有しているミニホームを、本来のホームのように破壊不能オブジェクト化する」


 これで如何でしょう?と問いかけるノート。

 予想もしないような提案に3人は顔を見合わせて、なんとも言えない表情になる。


「大変申し訳ございません。我々の権限では、この場で提案の受諾をお約束することはできません。しかし、非常に有益なご提案であると認識しております。至急上層部へ共有し、可能な限り早急に検討・調整へ移らせていただきます」


 とりあえずいったんは話が纏まりそうなことにほっとして、深々と頭を下げる小林達。

 想定していた最悪の状況を回避できただけに3人の強張っていた体から力も抜けるというものだが、そこで黙って聞いていたユリンが独り言のようにボソッと呟く。


「出来るだけ早くしてください。でないとボクの手が勝手にこの騒動の真実を掲示板に書いて『あれだけ宣伝してたAIは信用するに能わず、社員もろくに制御できていない。ALLFOの中で意思統一が図れていない』と書き込んじゃうかもしれません。多分明日の夜またログインする頃には手が疼いてしょうがないでしょう」


 ピシッと部屋全体に亀裂が入るような、凍りつくような空気。

 その行動こそ3人にとって最悪の想定。

 緩んだはずの空気だけでなく全身が強張り、頭のてっぺんから血の気がサーっと引いていき、彼らの指先から感覚が消えていく。だというのに身体はドッと汗を噴き出しているように気がしてならない。

 VRの中だというのにそれはやたら生々しく、ジットリと溢れた冷や汗の感覚は彼らの体温をさらに奪うようだった。


 彼等とて裸一貫で交渉に挑んだ訳ではない。

 GoldenPearは22世紀現在、動画プラットフォームからSNSまで様々な分野で広いシェアを持っている怪物企業だ。GoldenPear社用のアカウントを一つ作れば色々な物にアクセス可能で、情報のやり取りやデータ解析などもスムーズとあって数多くの人間がGoldenPearの提供するサービスをなんらかの形で利用している。

 ノート達もプレイヤー登録の際に一々個人情報など全部記入していられないので、自分が10年以上前から所有しているGoldenPearのアカウントを利用してALLFOにログインをしている。


 つまり、そのアカウント情報さえ引っ張り出せば、ある程度身元を確認する事も容易い。

 PKを積極的に行うプレイヤーだ。警戒はしていた。自分達の権限で可能な範囲でどんな人間なのか調べた。


 そして、皆で頭を抱えた。

 問題は、2人の身分、特にユリンが普通ではない点にある。

 ただの一般人がALLFOの実態についてSNSで発言したところで、今のお祭り騒ぎの中では影響など皆無に等しい。


 だが、公の注目度が高い人物の発言はGoldenPear社と言えど完璧に封殺することは不可能。


 ユリンの口からトラブルについて公表されてしまうのは、運営チームとしては断固として阻止したい。


 当然、ユリンの事情に詳しいノートにとって、運営チームがユリンの動きを警戒している事は読み筋。

 ノートが張り詰めた空気を崩すように一つ溜息をつくと、3人の金縛りが解ける。そして3人は無意識に期待するような目をノートに向けてしまう。

 ノートはその視線に気づき少しわざとらしく肩を竦めると、先ほどよりも優しくコツンと拳骨をユリンの頭に落とす。それから3人に視線をやると──────────────


「ま、できるだけ早く回答していただけると嬉しいです。明日も遊ぶ予定なので」


 口調は穏やかだが、先程のユリンの言動を一切諌めていないことには変わりない。ノートの言外のメッセージを正しく受け取った3人の顔色は、青を通り越して土気色になってきていた。


「で、では……本件につきましては、できる限り早急に協議の上、ご回答申し上げます。そのため、本日はこれにて失礼させていただいてもよろしいでしょうか? ノート様とユリン様は、ALLFOと同様の手順でログアウトいただけますので……」


 小林がなんとか捻りだした言葉を聞き届けるやいなや、さっさとログアウトする2人。

 ノートとユリンが消えるのを見届けると、3人が思わず机に突っ伏してしまったのは途轍もなく気の毒な光景だった。




 


なんだかノート達からみるALLFOは殺伐としてますが、どちらかというと“普通にプレイしている”限りはマインクラフト系のノリのゲームです。ただしそこにちょっくらヤバいMODがいくつも、そしてひっそりと混入してる感じ。


本当は普通にかわいい召喚獣とかいっぱいいるんです。万人受けできるゲームに設計されてるのでガチ勢もエンジョイ勢もまったり派も楽しめる仕様になってます。

(※ただし初期限定特典勢を除く)




























【裏話】

ALLFOは、メインストーリーを無理に進めなければ幸せなままでいられる世界。

初期特典に込められた真意は[削除済]。

こいつは神ゲーの皮をかぶった[削除済]。プレイヤーによって入れる領域そのものが変化する。この世界そのものが[削除済]であり、PLの正体は[削除済]であり、この世界に於いて救いを求めるならば[削除済]



万人が楽しめる神ゲー?そんなものは存在しない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いや面白いと思う。けどこの会議の焦点だった他のユーザーに説明して納得させるという件への対策がごっそり抜けてるんだけど、いいのか?
[良い点] 最高。 めちゃくちゃ好き。遊ばせて頂いているという立場からかプレイヤーの思い出や歴史を全て無いものにする完全運営目線のお話で書かれていたり、なんだかんだゲームが好きだからと要求を全て飲む …
[良い点] さらなるアイテムゲットの道?! 裏話的には、これだけ強化してもなお足りないほどに、更に強大な敵?が待ち受けているのでしょう まだまだ序盤ですので楽しみにしながら読み進めます! [一言] 昨…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ