No.28 クリーチャー型の真価
やばいミスった。先にNo.29投稿しちゃった。
「さて、MPも溜まったので次やるぞ〜(巨大半人半蠍の各部位1セット、希少種の脳味噌系3個……人型、動物型、人型でいいな。それと巨大人面羽根芋虫の羽根、巨大人面蛾の猛毒鱗粉袋、ピアーシルバーヘラクレス(希少種)の銀貫角、憤激大雀蜂(希少種)、暴碧天牛虫(希少種)の強毟顎、権剛象虫(希少種)の剛甲皮、ジェノサイドリオック(希少種)の靭臓、ヴォーパルマンティス(希少種)の刈鎌、豪跳飛蝗(希少種)の太炸脚…………コスト高えな…………で、魂がPLの魂300、希少種系の魂100、昆虫系の魂200、半人型の魂10、巨大半人半蠍の魂が15、蟲狂寄生蟲の魂が1つ、アンデッド系1つ…………生贄はユニーク化チケットとゴヴニュ製作のハルバードと鎧と大盾、濁血石、怒髪獄辛、牙返しの盾、『狂武乱双斧』でOK。触媒はネクロノミコンで……………)〈特殊下級死霊召喚・アボミネートスコーピオンガードマン〉!」
お馴染みの金魔法陣、金の沼からズズズズズッとゴヴニュ以上の巨体が現れる。
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特殊下級死霊・アボミネートバグキメラゾンビホプライト特・ユニーク
ランダム取得技能・辛狂復讐者
取得技能
・自動HP回復
・物耐上昇極大・魔耐上昇極大
・斧槍
・大盾
・重戦士
・守護戦士
・狂戦士
・蟲技(複数)
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『Grrrrrrrrrrr』
『KIKIKIKIKIKIKI』
『GIIII GIIII』
『JIJIJIJIJIJIJIJIJI』
人間誰しも初見で、「あ、これはやべえやつ」と思うものを見つける時があるかもしれない。やべえ、の方向性は色々ある。
狂ってる、キモい、怖い……様々だ。
そしてノートの目の前に現れたのは、狂ってる、キモい、怖いの3要素をコンプリートしていた。
基本形は巨大半人半蠍だ。
だが、上半身の人型が黒い全身鎧を纏い、それが下半身の昆虫部分と同化しているだけでも厳ついのに、背中には巨大な蜻蛉の羽根のようなものが6対。腕は銀のハルバードと黒光りする大楯を持つ人の腕が一対、その下に巨大な蟷螂の黒腕が2対。脚も蠍だけではなく、1番後ろの対の脚は強引にくっつけたような蜻蛉の脚。
頭は真ん中がフルフェイスの鎧を被った人型、右に天牛虫、左に大雀蜂…………フルフェイスの後ろに後ろ向きでリオックの頭と計4つの頭部。同化した全身鎧とハルバードと盾にはもがき苦しむような昆虫の意匠が施されていた。
フルフェイスの鎧の目の隙間からは黒い靄が漏れ出ていて、既に人の言語を話せていない。加えて鎧も盾も武器まで例外なく、全身に紫色に光って脈動する血管が走っていた。
そんなキメラクリーチャーのサイズは4m強。頭がログハウスの天井スレスレである。
「脳味噌3つでこれって…………むしろ3つないと制御できないのか。よし、お前の名前はメギドにしよう。OK?」
『Grrrrrrrrr!』
「あ〜……それ返事なのか。言葉は一応通じてるみたいだな。よしメギド、まずログハウスから出ようか」
だが物理的にどう考えてもドアを通過できないので、マナポーションでMPを回復してメギドを外に再召喚する。
「さて、ステータスをみる限りアホみたいに強いが…………試金石はどうしようかな?」
ノートはメギドと共に結界を越えると、遠距離に見つけた巨大半人半蠍に適当に射程の長い魔法をぶつけて注意をこっちに向ける。
「メギド、最初の命令だ。どんな手を使ってもいい、アレを殺してみろ!」
『Guoooooooooo!』
ビリビリと空気が震えて肌が粟立つほどの咆哮。メギドは主人の命令を受けて重装備とは思えないスピードで巨大半人半蠍に向かっていく。
メギドはハルバードを後ろに構えると、最初の接近でまず蟷螂の腕4本を相手に突き刺し相手の腕と肩を一瞬で封じる。続いてメギドの大楯が発光し勢いよく巨大半人半蠍の顔面に叩きつけられる。
そして相手が大きく仰け反ったところに赤く発光したハルバードがズンっっっっ!と振り下ろされ、赤いポリゴン片が大量に舞い散る。
だが猛追は終わらず、振り下ろしたハルバードを今度はハルバードの槍の部分で突き上げ、腹部からポリゴン片がどっと漏れでる。
のけぞっていた巨大半人半蠍は腹部に加わった強烈な一撃で今度は体をくの字に曲げ、続けて無防備な首筋に4つの蟷螂の鎌が突き刺さり首が吹き飛ぶ。そして余韻を残す様にその少し後に全身も赤いポリゴン片へ還る。
HPの多い純粋なファイタータイプの巨大半人半蠍を、流れるようなコンボで瞬殺。
ユリンはポカーンとして、ヌコォも思考がうまく纏まらない。
だが1人、事前に大まかな性能を知っていたノートは微妙な表情だった。
ノートはそこから視界に入った5体のMOBに魔法で攻撃してメギドを差し向けたが、メギドは暴風の如き勢いでその全てを返り討ちにした。
「強過ぎる。これなら般若面蟷螂人とも単騎で相対できる強さはあるはず」
「うん…………ボクの存在意義が…………」
ヌコォとユリンは忌憚のない正直な感想を言うが、ノートは少し苦々しい顔で首を横に振る。
「いや、コイツの常時運用は無理だ。まず種明かししちまうと、この異常な強さはメギドのとあるスキルと能力が噛み合ってるからだ。
まず『狂戦士』として“HPを常時自動消費する代わりに全ステータスを引き上げる”スキルがある。ここにランダム取得技能の『辛狂復讐者』の能力だ。コイツは被ダメを上昇する代わりに喰らったダメージ分攻撃力を上昇させる。また、この能力が発動中は『激怒』状態になり攻撃力が上がる代わりに知能が下がる。
つまりコイツは戦闘中に『重戦士』として獲得した豊富なHPを自らで喰いつぶし、さらに指示が通らなくなる。念じて指示を出しても弾かれた。大声で直接指示を出すしかないんだ。しかも大雑把な命令しか通らない。いや、細かい指定もできるが臨機応変に動けないから同じ動きばかりする。まるで大昔のAIみたいだ。
しかもペースという概念がないからガンガンスキルを使ってMP切れを起こしかねない。対決戦兵器に近いぞ、コイツ。だがな…………狂戦士だから、対決戦兵器にしたくてもBOSSに連れてくまでに他の敵にエンカウントし続けると暴れるな、間違いなく」
「…………メリットとデメリットが極端」
「使い所を間違えるとFFもありそうだよね」
ユリンの目には、ハルバード一本で5体を薙ぎ払うメギドの姿がくっきり焼きついていた。そんなメギドの一撃が紙装甲気味のユリンやヌコォにかすりでもしたらどうなるか、想像するのは容易かった。
「だな。だが見ている限りスキルの使い方、戦況の対応の仕方とか、戦闘に関しては凄まじいセンスと能力を持ってるな。素の状態でも強いし、狂戦士・重戦士・守護戦士とか職業的にみればかなり厄介な構成だ。それにキメラ故に人間には不可能な苛烈な戦闘スタイルができる。はっきり言うと、俺たちが3人がかりでガチで戦っても勝てないな。あと成長性がアンデッドのレベルじゃない。今の戦闘だけでスキルが10増えた」
「隠しステータスが優秀なんだね。内職技能全振りを戦闘技能全振りにした結果が、メギドなのかな?」
「もう一体戦闘系を作る?」
ヌコォはメギドの性能を鑑みてノートに提案するが、ノートは首を横に振る。
「いや、やめておこう。実はヌコォを迎えにいく途中で俺らはとあるネームドNPCを討伐したんだ。『犯罪傭兵ギージャ』……そいつの持っていた呪いの武器をアイテムボックスの肥やしになるならと生贄に突っ込んだんだ。それはギージャの固有武器だったんだろうな、これだけ突出してやたらとレアリティが高かった。生贄にはレア度の高いアイテムを突っ込むほど性能が強化される…………その法則が適応されてメギドは強力な狂戦士に覚醒した。多分半端な武器を持たせてユニーク化させてもここまでの性能は出ないぞ。おそらく半端な強さになってしまう。やるならもっと準備を整えて、だな」
「死霊術師…………結構難しいけど楽しそう」
「ああ、俺も予想以上に楽しんでる」
ノート達に向かってきた新たなMOBを勝手に迎撃し、殲滅したメギドの勝鬨の咆哮が腐沈森に響き渡った。
◆
「よいしょ!」
「ヘーい。バッタービビってるー」
「メギド、〔ピーキーハウル〕から顔面を大楯の〔クラッシュノック〕で引っ叩け!そこから鎌を首刺し、ハルバードで〔ヘヴィスウィング〕!」
メギドの初戦から少し話し合いをし、メギドの運用について検証を重ねたノート達。何回かの戦闘をし、彼等は遂に強敵に挑むことにした。それはノートとユリンにとっての因縁の相手、初めて死亡まで追い込まれた提灯鮟鱇型の魔物。
改めて提灯鮟鱇型の魔物についておさらいすると、外見は提灯鮟鱇と百足とゾンビをチグハグにくっつけたようで、頭は鮟鱇、身体は百足、しかして脚の部分が全て亡者でできている。頭の提灯鮟鱇の部分だけで3m強、胴はかなり長め。だが地面を泥化させて潜ってしまうため攻撃が当てにくい。加えてスピードもある。
だが、ユリン達はアテナのトラップ各種を用いて泥潜りを封じ、その巨体に見合わぬ高機動力を初手で削いだ。他のMOBと違って粘糸を引きちぎれるほどのパワーのある鮟鱇だが、引きちぎる時にやはり時間消費があり、鮟鱇の使う厄介なスキルをキャンセルさせることができる。
そして対決戦兵器メギドをどう運用すればいいのか、ということに関しては、『やはりノートが1から10までリアルタイムで指示を出せばいいのでは?』という結論に帰着し、ノートは指示を出し続けていた。
4mの異形MOBと巨大なホラー系MOBの激突は、まるで小規模な大怪獣決戦。
ユリン達が攻撃に混じり粘糸で的確に足止めをし続けて逃走を封じられた鮟鱇は戦うしかない。
「よっしゃ、気絶した!《ブラックブラッドパワー》!メギド、頭部へ全力攻撃!ユリン達も胴部分を!」
提灯鮟鱇は大楯を顔面にくらい仰け反り、そこをハルバードでブン殴られグッタリとする。そこでメギドにバフをのせ、操作権を放棄。ユリンとヌコォにも〈ブラックブラッドパワー〉の魔法をかける。
「オッケー!〔戦舞・暗襲九斬双翼〕!」
「了解、〔エナジーイーター〕」
「《ダルスライト》!」
続けてノートが使用したのは、相手がダウンや気絶、スタンなど行動不能系の状態異常に陥った時にその時間を僅かに引き伸ばす魔法。相手が強いほどMPがマッハで減るが、数秒間無防備な相手をフルボッコにできるのをさらに延長できるのに如何程の価値があるのかは考えるまでもない。
狂ったように大技連発で頭にハルバードと鎌で連撃するメギド、ユリンはユニークスキルを使って脚がわりの亡者をズパズパ切断し、ヌコォは猛毒を塗ったナイフを自分に突き刺して鮟鱇に触れる。そうすると、提灯鮟鱇のHPがエグい勢いで削られていく。
そしてその猛攻がトドメとなり、提灯鮟鱇は赤いポリゴン片となり爆散した。
◆
「いやぁ、ダメだねぇ。糸玉すごい使っちゃったし、武器の耐久値もゴリゴリ削れるね」
「ポーション系もかなり使った。少し割に合わない」
提灯鮟鱇戦を終えて、ストーンサークルに戻ってきたユリン達。彼らは自分のインベントリなどを見ながら総評をする。
「メギドの力を借りてもかなりきつい戦いだったな。だがドロップ品は大型だからか多いし、今までにない系統の魂の属性をいくつも持ってるぞ。死霊術師的には一回だけでも倒しておいて損はなかった、と言っておこう」
「なら、溜飲も少しは下がるかなぁ?でもノート兄がメギドのフルコントロールをしていると、デバフとインスタント召喚で引っ掻き回してくれないからこっちも戦いづらいね」
「うん、ノート兄さんのクールタイム無しというチート性能が宝の持ち腐れ。メギドをさっさと進化させて知能を上げるべきそうすべき」
「希少種の脳味噌50個だぞ、最低でも。今のメギドを知能あげる方向で進化させようとしたら地獄の周回になるぞ。レシピはある程度カスタマイズできるとはいえ、脳味噌50個がまだましなレシピという時点で察してくれ」
「やはりメギドはまだ決戦兵器にしか使えない。しかも誘い込みをしないといけない。色々と問題点は多い」
「でもメギドのお陰で腐森も攻略できんじゃねえの?バルちゃんはあんまり好きじゃなそうだけど、腐森の探索は進めたいんだよな。なんかきなくせえ」
「菌に呑まれてたけど集落もあったよね。アテナの召喚に使った絡繰時計もそこで拾ったけど、まだ集落全部調べられてないからね」
「口触手ゾンビの強化系みたいなの出てきたからな、まだ集落入口付近での撤退は痛かった」
ヌコォにプレイログを見せるユリンとノート。
ヌコォは映像を見てしばらく考え込んだが、バルちゃんの助力があればなんといけそう、と呟いた。
そこで急に運営から通知が来て、3人ともメニューを弄る。
「『プレイヤー・スピリタスがユニーククエスト『修羅道悪鬼喧嘩祭り』を受理しました』…………か。ユニーククエストをもう発生させたのか。しかしスピリタスとはまた面白いネームだな」
「スピリタスって何?」
「22世紀現在までずっと世界で一番アルコール度数の高いお酒。未だにこれを超えるアルコール度数の酒はなく、ほぼ工業用のアルコールだな、既に。臭いだけでも頭痛くなるし火気厳禁な危険な酒だ。下手な毒薬飲ませるよりこれ一杯ストレートで一気飲みさせれば人間1人コロッと逝っちゃうぞ。これ単体で火炎瓶作れるって聞いたことあるし。今では購入自体に規制がかかるかどうかって議論があるぐらいだからな」
「そんな危険なお酒の名前で『修羅道悪鬼喧嘩祭り』って…………プレイヤーの感じがもうどことなく…………(ん?まって、お酒?喧嘩?……いや、でも……まさか)」
そこでユリンの脳裏に1人の人物が浮かび上がるが、すぐに「ないない」と首を横に振る。ノートとユリンが初めてVRMMO系ゲームを始めて一番最初に深く交流を持った、一度会えば早々忘れない強烈なインパクトのある人物を、ユリンは思い出していた。
「ユニーククエスト…………確か発生条件不明のAI自動生成クエストで、難易度はかなり高いと運営は発表していた。そのかわりクリアすると特殊な職業が選べるようになったりするらしいとも」
「『修羅道悪鬼喧嘩祭り』って何すれば出てくるクエストなんだよ。強烈なクエスト名だよな」
「報酬が気になる。知りたい」
「俺たちもユニーククエストを発生させられる時が来るのかな?」
「ユニーククエストは大概通常のNPC(野盗など倒してもよいMOB以外)から与えられる。私達では難しいと思う」
気長にやるしかない、とヌコォは冷静な意見。
それもそうだな、とノートは答え3人は改めて提灯鮟鱇戦の見直しを始めるのだった。
お詫びにNo.30も今日中に投稿します(血涙)