No.27 ブラッディメアリー
ブクマ500記念ゲリラ投稿。
皆さまありがとうございます。
「さて、やる気充分なゴヴニュには乞うご期待ということで、次だ。ゴヴニュが武器を持ってきたぐらいで次の召喚をする。ゴヴニュを待つ間はMP回復に俺は務める。ユリンは武器もないからな…………スレ巡りでもしてくれるか?」
「いいよ、なんのスレ?」
「おそらくまだいるはずの、日本サーバーの初期限定特典持ちの情報を探してくれ。俺たちやヌコォはさっさと人里離れたから良かったが、初期特典持ちは騒ぎになるはず。そして初期特組は纏まったらかなり強いのは証明済みだ。
待て、そう不機嫌そうな顔をするな。勿論相手の人柄とかそういうのがわからないのに接触する気はない」
むっすぅぅぅと膨れるユリン。ノートはそんなユリンをまあまあ、と宥める。そんなノートにユリンは言い返す。
「だって大体そう言って増えてくじゃん。『ブラッディメアリー』『すねこすり』『あめーじんぐ★ボーイ』『でかした先生』『ゴロワーズ』『トントン』『BourboN』『桜 吹雪』『オフトゥゥン』『炬燵ムリ』『抜刀斎』『MURASAMASA』『トリニトロトルエン』『パンツ皇子』とか………………」
「懐かしい名前も出てきたな。まだやりとりがある『すねこすり』『桜 吹雪』『トントン』『でかした先生』…………たまーに飲みに一緒に行く『あめーじんぐ★ボーイ』とか『オフトゥゥン』とか『トリニトロトルエン』『BurboN』『MURAMASA』はいいとして、みんな元気かねえ」
「酒飲んでるメンバーと『でかした先生』以外やりとりしてるのみんな女…………『桜 吹雪』嫌い……」
「そう言ってやるなって。アイツも俺も、若かったの」
「元カレ、元カノと別れた後も仲良い人って腹黒いって聞いたことがあるよ」
「その理論だと俺も腹黒いな」
今までユリンと様々なVRMMOをプレイしてきて特に仲が良かった(ユリンはまちまちだが)プレイヤー達の名前にノートは懐かしそうな表情をする。
性別も年齢もバラバラで、「子供ができたから」「就職が」「受験が」と各々の理由でゲームを離れたり、リア友に別ゲームに誘われて、などの理由でゲーム内の知り合いというのは減っていくことは珍しくはない。
だが、それでも忘れられない知り合いが稀にできたりするものだ。
「『ブラッディメアリー』、か。今どうしてるんだろうな。アイツだけはどう頑張っても連絡手段わからんし」
「ノート兄の知り合いの変人率や灰汁の強さは昔から凄いけど、未だに『ブラッディメアリー』を超えるインパクトがあったのはそうそういないよねぇ」
「いきなりゲーム辞めちゃったしな。多分VR機器ごとぶっ壊れてたんだろ。フレコでもアプローチできなくなってたし…………久し振りに会ってみたい………いや、会いたいような会いたくないような。アイツ、そもそも働いてんのかな?」
「しーらない。過去の女を回顧するノート兄なんて知りませ〜ん」
「過去の女って…………別にフレンドだっただけだろ。ただ色々とヤバい奴だっただけで」
そう言いつつも、ノートのゲームのスクショフォルダは、ユリン、ブラッディメアリー、ノートのスリーショット、ブラッディメアリーとノートのツーショットなどが比較的多く残っている。基本的に過去の写真はドンドン消去するノートだが、そのスクショの数々だけは消していないことをユリンは知っている。
「思えばノート兄の変人バキュームも元祖はブラッディメアリーかなぁ?」
「いえ、お前が元祖です」と内心で答え、色々見た目詐欺のユリンにノートはしらっとした目を向ける。
「ま、頼むな。別に他スレの有用な情報でもいいけど」
「はいは〜い、じゃあね!」
ユリンは語気を荒くしつつログアウトするのだった。
◆
「おまたせしただぁ!自信作だぁ!」
ゴヴニュが部屋にこもって、それからかなりの時間が経過。
ノート達もログインしたりログアウトしたりを繰り返し、かなりの時間が経ってそろそろ進捗を確認するか?と相談しあっていると、噂をすれば影が差すとはこのことか。煤だらけのゴヴニュがリビングにやってきた。
その間に濡れたタオルで興奮したゴヴニュの肌などを拭いているタナトスはそつがなく、まさに有能執事の鏡と言えるだろう。
「おっ、できたか。では先にユリン達のを見せてもらおうか……」
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装備:双黒翼剣・霊改【会心】
強化上限回数:24/25回
攻撃力:125
耐久値:500
重量ペナルティ:無し
・闇属性
・移動速度上昇
・critical発生率上昇
・コンボダメージ増加率上昇
・パリィ成功率上昇
・対物理耐久値減少率減少
・ゴースト系特攻
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装備:逆咬のククリナイフ【会心】
強化上昇回数:10回
攻撃力:35
耐久値:1000
重量ペナルティ:2
・全反射属性・小/継承属性
・固定ダメージ+50
・耐久値減少率上昇(全反射属性に付属する呪いの様な効果)
・耐久値減少率超絶減少
・対物理耐久値減少率減少
・ゴースト系特攻
※『反屈の湾刀』を生贄に鍛造
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「うわぁ、エグい。ユリンのは出自が初期特典だから元からイかれた武器だったけど、新しいヌコォの武器も大概だな」
「重心にも柄にもこだわってるだ。前よりもしっくりくるはずですだ」
ちょうどユリンもヌコォもいるので、ゴヴニュから受け取った剣を2人に放るノート。
2人とも危なげなくそれをキャッチすると、その場でヒュンヒュンと風を切るように自分の新しい武器を振るう。
「ん〜〜完璧だねぇ。今まで色んな武器を持ってきたけど、これが1番合ってる。重さもバランスも丁度いいねぇ」
「うん、振りやすい。体がぐらつかない」
素人のノートが見ても動きのキレが増したユリンとヌコォ。
バルバリッチャ(自室をあげたのによくリビングにいる)も「ほぅ……」と小さく呟く。
「だってさ、ゴヴニュ。パーフェクトだ」
「あ、ありがとうだ。そう言ってもらえると嬉しいだ」
ゴヴニュにサムズアップするノート。ゴヴニュは照れたように頭をポリポリと掻く。
その2人の間ににゅ〜っと割り込んでくるものが。
「御主人様、螺子ガ、歯車ガ……!」
「アテナ、落ち着け。残念なお知らせだが、絡繰に関しては材料の問題で許可はできない」
「えッ…………そんナ…………!」
まるで『お前地獄行きな』と言われた人のような、絶望感に満ちた表情でへたり込むアテナ。『思ってたよりコイツ面白いぞ』と思いながらノートはフォローする。
「アテナ、よく聞くんだ。お前は今あり合わせの物で満足してしまうような奴か?お前を初めて召喚した時、大掛かりな罠はお任せください、って啖呵切ったの、俺は忘れてないぞ。これからはもっと資源も多く豊富に手に入れられるようになっていくはずだ。
だから、アテナがどんなに好き勝手やっても資材が余るぐらいになったら、俺をあっと驚かせるトラップを作ってくれよ。部屋まるごとトラップな絡繰屋敷みたいな凄いやつをさ」
「御主人様、覚えていてくださったのデスカ。…………そうですね、少々焦っていたかもしれマセン」
「焦り?何に?」
「先達のバルバリッチャ様もタナトスさんも、非常に御主人様に必要不可欠なほどの御活躍でしたので、私もここで恩に報いなければ、成果を出さなくては、とどこかで焦っていたのかもしれマセン」
アテナの独白にキョトンとしたノート。ユリンとヌコォと目を合わせた後、愉快そうにケラケラと笑った。
「いやいや、何言ってんのさ。アテナのお陰でゴヴニュを召喚するための材料も揃えられたようなもんだし、アテナの作ってくれたトラップがなかったら何度全滅したことか。アテナは直接自分の作ったものがどうなるかはわからないから不安になったのかもしれないけど、大活躍だよ。間違いなくなくてはならない存在だよ。いつもありがとうな、アテナ」
「御主人様……有難き御言葉、勿体のう御座いマス。御主人様に私の全てを捧げ、忠義を持ってその御言葉に報いマス」
ノートの言葉に感激したように目を潤ませ、アテナは深々と頭を下げる。
「当然、タナトス達も。ありがとな」とノートが声をかけると、タナトスは優雅に、ゴヴニュはわたわたしながら頭を下げ、バルバリッチャはフンとそっぽを向くが照れているのか耳が少し赤かった。
そんなバルバリッチャに苦笑するノート。後ろから寄ってきたヌコォがノートの肩口に捕まりピョンとジャンプしてノートの耳元で囁く。
「アテナの好感度が80を超えました。アテナルートが解放されました。アテナがノート兄さんLOVE勢に追加されました」
「ヌコォ様!?」
「わ〜〜照れてる〜〜図星ぃ〜…………」
ヌコォの囁きは非常に小さく、近くにいたノートとアテナにだけ聞き取れた。
ノートはヌコォにチョップし、アテナは真っ赤になった顔をガバッとあげる。
そして図星ぃ、と呟き続けるヌコォの口を塞ごうとアテナは近寄るが、ヌコォはひょいひょいと躱し、やがてガチな追いかけっこになった2人はミニホームの外へ出て行った。
その様子を見て、ALLFOのAIってやっぱりすごいな、と感心するノート。そのノートの首にチャキっと新品ピカピカの剣が添えられる。
「ねえ、ノート兄、ヌコォはなんて言ったの?」
「よし、ちょっと待て。この双剣をしまえ。人間は高度な会話のできる唯一の生き物だ。その尊厳を忘れてはいけない」
「大丈夫だよ、ミニホームは非戦闘エリア。ただちょっと近くで新しい剣を見てほしかったの。それで、なんて言ったの?」
「いや、ALLFOのAIは凄いなぁって」
「ギルティ」
双剣がノートの首にぶつかると赤いバリアのようなものが表示され、『非戦闘エリアです』とメッセージが浮き出る。
「ヤンデレスイッチをとりあえずOFFにしようか、ユリン君よ」
「いくら女に飢えてても見境なさすぎじゃない?」
「ちげえよ、熱い風評被害だ。あ、お前あれだろ、『桜 吹雪』の話が出たからだろ。そこでヤンデレスイッチONするんじゃありません。第一アテナは「アテナは?」」
そこで急に入る合いの手に思わず振り返るノート。そこには糸グルグル巻きで捕獲されたヌコォと、それを脇に抱えるアテナが不安げに、だが続きを促すような目をノートに向けている。
ノートは喋ろうと思っていた内容が頭からすっ飛びフリーズ。変な沈黙が続いた後…………
「安心して、アテナ。ノート兄はストライクゾーンが広いから多分異種◯も結構イケる口だったり「今度という今度は許さねえぞこごみ!」 」
後衛職なのに前衛職ビックリのスピードでヌコォに飛びかかるノート。
ヌコォは「ヤバッ」と焦りは顔には出ないもののビクンと震えてシュンと消える。
「あ、ログアウトしやがった!ユリン、俺ちょっと弓助叔父さんにヌコォの悪行をいくつかバラしてくるからログアウトするわ。それとアテナ、お前は大切な仲間だと思ってるからな!それじゃ!」
そうして後を追うようにログアウトするノート。
ユリンは敵でありながらもノートを怒らせたヌコォに少し同情する。あれでも怒りレベルはまだ第一段階だが、ノートが陰湿な手を使い出したら右に出る者がいないと、色々ノートに対してバイアスかかりまくりのユリンですら思っており、ユリンも一度だけ過去にノートを激怒させ凄まじいしっぺ返しを食らったことがあったりする。
数十分後、再度ログインしたヌコォは表情こそ変わってないがズーンと重たい空気を纏っており、フラフラとソファに墜落。続けてちょっとスッキリした表情のノートが再度ログインする。
「何があったの?」
「ん?ちょっと弓助叔父さんと真凛叔母さんに電話をしただけだ。そしたら“なぜか”ヌコォの来月の仕送りとお小遣いは無しになったらしい。そして守銭奴なのに大事な貯金を崩さなきゃいけなくなったヌコォの図があれ」
「…………一体何をチクったら過保護な弓助さんと真凛さんがそんなことを」
「それは、ヌコォ自身から聞くといいな」
ニヤッと笑うノート。ユリンは改めて「兄だけは本気で怒らせないように気をつけよう」と気持ちを改めるのだった。
因みにその後ヌコォがこれまでのものを含めて(ゲーム内で余計なことを喋るのはそれが真実であろうとなかろうと受け手次第なので何度もやるのはマナー違反)謝罪の土下座を敢行し、ノートが土下座まですることないのに、と苦笑しながら叔父と叔母にとりなした。結果的に仕送りだけは送ってもらえることとなり、ヌコォはちょっと元気を取り戻すのだった。