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神ゲーしようと思ったらクソピーキー性能のチート詰め合わせの初期限定特典に当選したので悪役に徹することにする  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
Chapter1 終わりの始まり

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No.13 いまだに不貞寝中

ゲリラ投稿1st



 南側エリアの探索はひと段落したことにして、ノート達は今後の方針を相談する。


 その結果、まずは、腐沈森で採取した植物などを育ててみることに決定。ありあまる課金ポイントを使用し、農業エリアを拡張&強化。 

 タナトスに腐沈森での戦利品を渡すと、驚くほど上機嫌になって喜んだ。主人達に見せる顔はジェントルマンだが、本質はやはりアンデッド。毒薬、劇薬の類が好きとのことであった。

 

 それに加えて、タナトスに装備を預けて整備を任せる。

 耐久値の減った武具は、刀剣類であれば砥石や研磨剤を使って簡易的に手入れできる。だが、完全に修復したいなら、鍛治系の能力を持つPLかNPCに頼むしかない。しかし、ノート達の手札に鍛治技能を持つ者はいない。

 そんな時に役立つのが、タナトスの持つ『整備』の能力だ。


 では、タナトスが持つ技能『整備』とは?

 言うなれば、超器用貧乏を突き詰めたような技能である。ほぼ全ての装備品について、耐久値の回復を請け負うことができるのだ。ただし、素人よりは大きく回復させることはできるものの、全てにおいて其々の本職には到底及ばない。タナトスはユリンの双剣を受け取ると丁寧に研ぎ直し、糸などを渡すとノートのローブもパパッと修復してくれた。だがしかし、便利すぎる能力の代償なのか、耐久値は完全回復とはならなかった。


『気休め程度ではありますが、実戦に耐えうるレベルまでは戻しました。ですが、いつかは限界が来ます。差し出がましいことを承知で申し上げますが、何か根本的な対策を練られた方がよろしいかと』


「アドバイスありがとう。となると、タナトスのお仲間を用意した方がいいか?」


『確かに本職の方がいらした方がよろしいでしょうな。ですが、御主人様の御負担になるようであれば、無理はなさらずに。私めが最大限誠意を尽くし、御主人様達の御身を護る装備の命を可能な限り繋ぎましょう』


「心強い言葉だな」


 有難きお言葉、と丁寧に頭を下げるタナトス。

 ノートは少し迷った後、タナトスを労(ねぎら)うように肩をポンと叩いた。

 

「一時間程度、また外を探索してくるから、農地は任せた」

 そう告げてから、扉の前で立ち尽くしているユリンへ顔を向ける。


「バルちゃんは?」

「それがまだ全然出てこないんだよ。バールーちゃーん、ただいまー!」


 一度巫山戯て呼んでから妙にしっくり来た『バルちゃん』呼びで、引きこもったバルバリッチャに声を張り上げるユリン。その度に何かしらの物音はするのだが、バルバリッチャの大きな反応はなかった。


「ダメだこりゃ。で、どうする? 空腹度とかそろそろ不味いんじゃないか?」


「それならね、アイテム自販機に戦闘糧食があったから、それ食べて回復した。でもクッソ不味い。漢方系の薬に香辛料と生臭さを加えたパサパサのブロッククッキーって言えばいいかな?とにかくすっっっごい不味い!」


 ノートは種族特性によって空腹度がほとんど減らないため、どこか他人事で、つい食事の事が今まで考えから抜け落ちていた。だが運動量の多いユリンではそうはいかない。その空腹を満たすためには戦闘糧食しか選択肢がないのだが、二度と食べたくないと思うほど不味い代物だった。


「ま、そりゃそうだ。それでとても美味しかったら料理人とか減るだろうからな。プレイヤーメイドでどうにかしろ、ってことだ。ただ、俺達はタナトス頼りだが…………今は忙しすぎて無理だな。しばらくは我慢だ」


「うぅ……まずいよぉ〜」


 思い出すだけでも涙目になるほどまずい戦闘糧食。

 ノートは、ユリンがあまりにも「まずい、まずい」と繰り返すものだから、怖いもの見たさで一口齧り────────そして絶句した。えづきはしたが吐き出さなかったのは、ひとえに年長者のプライドを失いたくなかったからだろう。


「これは…………ほんっとうにマズイな。おぇ、あ〜……本当にまずい」


 これは本当にヤバい、とノートもようやく認識する。

 だが、現時点では打つ手はないのも事実。ユリンは「ボクが我慢すればいいよ」と健気に笑う。


「いや、これはゲームでも、おぇ……死活問題だろ。バルちゃんの手はまだ借りられないが、北側に行ってみようぜ? あの森で食いもんになる物があるかはわからんが、全部腐ってるか呪われてる南側より確実にマシだろ。てか、やっぱり人手不足だよなぁ。もう一人戦闘職がいれば色々楽そうなんだが…………」


 ノートが困ったように呟くと、ユリンが若干むくれる。


「別に二人でもいいじゃん…………」


「うーん、お前の人嫌いがとても根強いのはわかってるが…………」


 ユリンにとってノートは唯一にして絶対的な別格。バルバリッチャなどのNPCは既にNPCと割り切れているので、特に問題ない。だが、リアルの人間に対しては、人見知りどころか排他的なのである。


「ま、おいおい考えてみるか。少し休憩したら北側のエリアに行こうぜ」


 ユリンの頭をくしゃくしゃと撫でるノート。だが、ユリンはどこか不満げで、むくれたまま。ただ、むくれた顔は可愛らしさを増すばかりで、全く怖くない。そのことは本人には言わないでおこうと、ノートは昔から抱いている感想を胸の奥にしまっておくのだった。


◆


「北の森は…………『エリア:深霊禁山』。推奨ランクは20〜か。ランクがわかるってことは、南よりはるかにマシだよな?」


「うん、多分あのモンスターに慣れてると楽かも」


 しっかりホームで身を休め、装備や持ち物を整えたノートとユリン。

 ユリンが軽く飛翔して上から見渡したところ、山はかなり高く、急勾配だった。とはいえ、かなり遠くには街も確認できたらしい。


「転移先を選ぶ時、さり気なくマップを頭に叩き込んできたが、方向的におそらくその見えた街がサードシティあたりだな。ファーストが東京1部サーバーだから、サードは確か北信越だっけ?」

 

 そこで何かを思い出したのか、ノートは僅かに首を傾げた。

 

「北信越といえば…………こごみは元気かな? ALLFOに応募したとは言っていたが、まだ結果を聞いてないな。ちょうど長野の実家に帰省中だし、今始めたらサード辺りになりそうだよな。ま、アイツなら物理的に移動して初期サーバーを変えられるし、いきなり海外サーバーに突撃しそうな気もするけど」


 こごみと聞いて、口がへの字になるユリン。あからさまなユリンの表情に、ノートは苦笑した。


「こごみって『ヌコォ』のこと?」


「そうそう、俺の従妹で何度も会ってるだろ? 犬こごみだよ」


 犬 こごみ。ノートの父方の従妹にあたる女性だ。

 ちなみに、「犬」というのは名字である。


「でた、名前詐欺。あれは犬じゃなくて猫だよ。あんなフリーダムが服着て歩いてるような奴」


 ユリンとこごみは、とあるゲームでノートが引き合わせた間柄であり、三人でプレイすることも少なくなかった。ユリンにとってはこごみの自由人過ぎる立ち振る舞いが気に食わないので噛み付くのだが、こごみはどこ吹く風。フリーダムでマイペースにゴーイングマイウェイなこごみに逆に振り回され、ユリンは散々な目にあっているのだ。


「お前だって、ああいうタイプならまだ大丈夫だろ?」

「…………あれは別の意味でイヤ」


 プイと顔を背けるユリン。ノートはその仕草がバルバリッチャに重なって、思わず笑ってしまう。


「ま、それは後でいいか。ちょっと探索してみようぜ。あのくそまずい物をユリンに食わせ続けるわけにはいかねえわ」

「…………ぅん」

 

 ノートに優しく頭を撫でられ、俯くユリン。二人はゆっくりと深い森に足を踏み入れていくのだった。


◆


「ぐっ、かすったぁ。でも倒した!」


 森の中に入ってから、はや一時間。ガッツポーズしたユリンの横で、巨体がドゥッ!と微かな地響きと共に倒れ、ポリゴン片が爆発する。


 『深霊禁山』は急勾配に見えたが、実際には平坦な場所があったり、激しく起伏していたりして、途中からは発光するキノコや苔、謎のMOBもいる。薄暗くはあるが、それらの光源のおかげで真っ暗というほどでもなかった。


 そのエリアにて、この一時間の間にノートとユリンが主に遭遇した敵性MOBは四種。


白雅巨狼(5m強の狼)

大土牙猪(5m強の猪)

祟猩(真っ青なオランウータンのような猿)

人頭霊鹿(人面の鹿)


 上の二種は大きさがネックで、狼はトリッキーで軽快な動きをし、猪は急勾配を高速で突っ込んでくる。不意を突かれると、どちらも回避は難しい。

 この二種にこれと言って目立った特殊能力はない。機動力とフィジカル以外は行動も現実の動物に近く、低品質なVRゲームによくある、どこが悪いとは言えないが何とも言えない不自然さも感じない。

 だが、足場の悪いエリアにおいて、大きく、素早く、尚且つ堅いことが、如何に脅威となるかを知らしめる敵だった。


 祟猩は一匹一匹の強さは高くないが、吼えて仲間を呼び寄せ、高い木の上から高速で石を投げつけてくる敵だ。また、ノート達はパーティー編成の都合上気づかなかったが、この敵はヘイト集中率を無視して後衛を集中攻撃する厄介な習性を持つ。なおかつ、ピンチに陥ると猪や狼のもとまで退避する。下手に追えば、地上では猪や狼が暴れ、その間に防御力の低い後衛を猿の投石で潰される。

 そうなれば、パーティーは一瞬で瓦解しかねない。


 そして、それを上回る最も厄介な敵が人頭霊鹿。

 このエリアの敵は物理特化が多いが、こいつだけはゴースト属性を持っている。そのため、単純な物理攻撃はさっぱり通らない。なのに、こっちには強烈な蹴りを叩き込んで、高笑いして逃げていくという、かなりムカつく魔物である。その上、仕留める際には一気に殺し切らないと、特殊な断末魔を上げ、人頭霊鹿を含めた他の敵性MOBも呼び寄せる極めて厄介な性質を持っていた。

 もしここで祟猩が来れば、更なる凶悪なコンボが発動し、これまたパーティーが崩壊する。


 また、四種それぞれにボス格が存在した。

 どれも明らかに危険な雰囲気を漂わせており、出現前には周囲の敵性MOBの挙動まで明確に変化する。

 その兆候が見える度、ユリンはノートを抱え、飛翔で全力逃走した。────そんなことを繰り返しているうちに、二人は完全に迷子になっていた。


「木の実とかは色々回収したし、四種のMOBのドロップはうまうまだから、死なずに帰りたいけど…………これ、どっち行けばいいんだろう?」


 死んでもドロップ品を全ロストするわけではないが、品質は大きく下がるので、それは避けたい。だが、色々なことがAI頼りな22世紀の現代人。

 森の中で遭難した後、どうすれば脱出できるかなど、そう簡単には思いつかない。


「とりま上に登っていけば、ストーンサークルに辿り着けるはずだが…………」


 二人の見つめるステータスに表示されているのは、【感覚惑乱】という謎の状態異常。この状態異常にかかってから、どこをどう歩いても、急勾配なはずの山の中が平地にしか感じなくなっていたのだ。


「ゲームならではだねぇ、こういうところは」

「ああ。それに、なんだかとーっても嫌な予感がする」


「奇遇だね。ボクもさっきから、このカサカサ音がどうしても…………そこっ!」


 ユリンは、職業:殺戮兇手で獲得した投擲系スキルを発動し、使い捨ての投げナイフを山勘で放った。投げナイフは赤い光の尾を引き、ギュンと木の上方へ飛んだ。そのまま闇の中へ消えた直後、弦楽器を適当に弾いたような耳障りな悲鳴。続いて、大きな何かが二人の目の前へドサッと落ちてきた。


 それは巨大な蜘蛛だったが、本来顔のあるべき場所には、人間の女性の上半身が生えていた。


 鑑定では『アラクネ・深霊禁山種』と表示されており、上半身はかなり際どいが、服をちゃんと着ており、8つの目がユリンを睨む。だが、落下ダメージの影響か、HPはほとんど残っておらず、動きも弱々しい。


「ん? これって倒しちゃダメなMOBだったかなぁ?」

「なんでさ? 表示は敵性MOBだぞ」


「だって服着てるよ?」

「…………それを言うなら、ゾンビだって着てるぞ」


 あ、そっか!とノートのツッコミに同意するユリン。だが、その明るい口調に反して、最後の噛みつきの反撃を避けつつアラクネの首を即座にスパンと切り落とす様は激しいギャップがある。

 だが、のんきに漫才はしていられなかった。

 それが引き金だったのか、木の上の方が大きくザワザワとし始め、蜘蛛の巣状のネットが雨のように降ってくる。


「うぉっ、ちょっ、これはマジでヤバい!?」


「よっ、ほいさっ、そこっ! それと、そこっ!」


 ノートは、並程度の運動神経を先読みで補い、不格好にふらつきながらも奇跡的に攻撃を回避する。対して、現実でも高スペックな身体能力を持ち、ALLFOでも突出したステータスのユリンは、その攻撃を躱すばかりか、たまに投げナイフを放って撃墜数を増やしている。


「ノート兄、デバフは!?」


「距離がっ、遠すぎてっ、ギリギリっ、届かん!」


 薄暗いため正確には測れない。しかし、判断材料はある。ノートは投げナイフが命中するまでの時間から、アラクネの位置を自分から見て直線距離約50mと試算していた。

 一方、単体用のデバフ魔法は、発動対象を明確に認識する必要がある。闇に紛れてしまうと対象を認識できないため、これらの魔法は発動できない。対象を指定しない広範囲魔法も、最大射程半径は25m。どちらにせよ、樹上のアラクネには届かなかった。

 種類は着実に増えているが、簡易召喚にも、本召喚にすら飛行系の死霊がいないので、上からの攻撃はどうしようもない。遠距離攻撃持ちのスケルトンメイジとスケルトンアーチャーも、召喚したそばから一瞬で糸塗れとなり、行動不能に陥った。


「ノート兄、投擲系は熟練度低くてMP消費が多いから、このままじゃジリ貧になっちゃうよ! ボク達もそろそろポーション中毒になっちゃうよ!」


 HPやMPを回復してくれるライフポーションやマナポーションは使い勝手が良く、同時に空腹度もちょこっと回復する。だが、薬も大量に投与すれば劇薬になってしまうように、短い間隔でガバガバ飲むことはできない。


 それを回避するためには、錬金術でポーションを改良したり、上位の回復アイテムであるライフクリスタルなどを用意したりする必要がある。その存在は運営より既に示唆されているが、現状のノートとユリンの手持ちにそんな便利なものは当然ない。


 本来は一時間で探索を切り上げる予定だった。だが、闇雲に逃げ回ったせいで帰還のタイミングを見失い、リソース管理が狂ったことが、この窮地を招いていた。


「よし、ユリン。私にいい考えがある」


「そこはかとない失敗フラグ!?」


 乗り物からロボへ超絶変身する、未だ色々な場所に色々な影響を与える某キャラクターの有名な台詞を言うノート。

 ユリンは思わずツッコミを入れるが、ノートの表情を見て、本当に策があることを確信する。


「カウント5で俺の近くに来てくれ……5、4、3、2、1、《簡易下級死霊召喚・ジャイアントフォートスケルトン》!」


 これまでになく巨大な魔法陣がノートの足元に出現した瞬間、ノートのもとへ突っ込むユリン。それとほぼ同時に魔法が発動し、ズズズッと巨大なスケルトンが出現する。

 そのスケルトンは何故か上半身しかなく、骨は金属めいた光沢を放っている。その身には金属鎧を纏い、壁と見紛うほど巨大な盾を装備していた。上半身だけでも、その大きさは10m近い。


「抱え込め!」


 ノートがすぐさま指示を出すと、ジャイアントフォートスケルトンはノートとユリンに覆いかぶさる。ノートとユリンの動きが止まったので、アラクネ達は蜘蛛の巣ネットの豪雨を降らすが、それは二人に覆いかぶさる巨大なスケルトンの鎧に張り付くばかりで、内側にはさっぱり届いていなかった。


「おぉー…………まさかの対策方法。でも、アラクネ達がスケルトンを全力で攻撃し始めたら、すぐ瓦解しちゃわない?」


「それなんだが、もしかしたら運営がデメリットのつもりでつけたヘイト値の高さが、今回はいい方に働いてるのかもしれん。多分、アラクネ達の知能が高ければ、スケルトンを直接破壊しに来る。けど、知能が低い敵性MOBほど、行動パターンは単純だろ? だからこいつらも、ヘイト値の高い相手から順に、決められた捕縛行動を繰り返してるだけなんだろうな」


 ノートは今まで戦ってきた敵の傾向から、ALLFOは敵の種類ごとに、もしかしたら個体ごとに性格などを大まかに細かく用意しているのかもしれないと考えていた。

 

「で、恐らくアラクネ……ここの森のアラクネは、基本的に相手を行動不能にしてからトドメを刺しに来るタイプなのかもしれない」


「どうして?」


「ここのMOBにしては脆すぎるんだ。ただナイフが当たっただけで簡単に木から落ちて、落下ダメージだけで死にかけていた。それに、スケルトンメイジやアーチャーを糸で捕らえた後、わざわざ地上まで降りて止めを刺していた。だから、もしかしてとは思ったんだ」


 捕縛攻撃はゲームシステム上あまりに強い。それらの特殊攻撃持ちは何かしらの弱点を与えられて調整をされる。ゲーム脳なら自然とそう思考する。


「なるほどね~。でもこれ…………このまま出られなくない?」


「じっと我慢して、まずはポーション中毒から回復するのを待つしかないな」


 相手の攻撃はこちらまで届かない代わりに、こちらも直接反撃に出ることは困難だ。それってどうなの?とユリンは首を傾げるが、ノートはあることに気づいてニヤッと笑った。


「いや、長く待たなくていいかもしれないな…………」

 

 覆いかぶさるスケルトンの身体の隙間から、僅かに外を覗くことができる。隙間があれば、当然音も聞こえる。蜘蛛の巣ネットのヒュンヒュンと風を切る音が徐々に小さくなっていき、代わりにガサガサとした音が近づいてきていることに、ユリンも気づいた。


「もしかして…………木の上から降りてきてる?」


「多分、こっちが全く動かないから捕まったとでも思ったんじゃないか?」


 ノートは今まで何もできなかった分、かなりあくどい笑みを浮かべる。MPはある程度回復した。問題はない。いける。そう判断し、音の主が十分に近づいた瞬間に叫ぶ。


「《ドームディフュジョン・パラライズスモッグ》! 《簡易下級死霊召喚・スケルトンチャリオット》×4!」


 先に放ったデバフ魔法が炸裂。ノートを中心に、黄緑色の奇妙な煙幕が爆発的に広がる。周囲から悲鳴が上がり、アラクネ達は短い間だが麻痺状態になる。そこで追い打ちをかけるように、クールタイムのない利点を活かし、ノートは新たな死霊を召喚する。


 それは幽霊馬車に少し似ているが、骨馬は二頭繋がっており、乗る部分はコンパクトな作りとなっている。車輪も一対しかない。だが、その車輪にはギザギザの棘が生えており、乗っているスケルトンも黒い甲冑を着込んでいて厳つい。馬も棘のついた禍々しい鎧を着込み、攻撃性が増している。

 四体の死霊は、ノートを中心とした東西南北の位置へ召喚された。麻痺状態のアラクネ達を包囲した死霊共は、咆哮を上げると滅茶苦茶に走り出す。


 木の上ならまだしも、地上に降りてしまったアラクネは情け容赦なく蹂躙され、その数を一気に減らしていく。麻痺から脱したアラクネは即座に蜘蛛の巣で牽制しようとするが、チャリオットの機動力は凄まじく、少しの攻撃程度は強引に突破してくる。


 このままいけば楽勝では? と、ノートは思わずほくそ笑む。

 だが、その無双はなぜか唐突に終わった。更に間の悪いことに、ジャイアントフォートスケルトンまで召喚時間の限界を迎え、消滅する。

 そこでようやく周囲の状態をはっきりと確認できたノートとユリンの目に飛び込んだのは、新たなアラクネの援軍だけではない。

 それは、いきなり横槍を入れてチャリオットを倒した新たな敵性MOB。

 上半身は女性、下半身は大蛇。『深霊禁山種ラミア』と表示された新手が、チャリオットの突進を上回る速度で身を翻し、その側面へタックルを叩き込む。機動力を失った最後のチャリオットは、ノート達の眼前で瞬く間に破壊された。


「おいおいおい、新手なんて聞いてねぇぞ…………」


「しかもあれだね。もしかしなくてもこの二種、協力体制でも築いてる?」


 樹上攻撃を得意とするアラクネ、地上戦を得意とするラミア。

 その二種が、ぐるりとノートとユリンを全方向から包囲する。


「ノート兄、なんかない?」

「わりい、チャリオットの召喚でMPがスカンピン。ポーションはもうない」


「詰んだ?」

「うん、詰んだ」


 でも一匹ぐらいは道連れにしてやる、と意気込むノートとユリン。

 張り詰めた緊張は決壊し、敵性MOBが攻撃モーションに入り、ノート達は絶望的な戦いに身構えるのだった。




 

5/14 VR日刊16位


皆さま本当にありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
>>それは巨大な蜘蛛だったが、本来顔のあるべき場所には人間の女性の上半身が生えていた。 鑑定では『アラクネ・深霊禁山種』と表示されており、上半身はかなり際どいが服をちゃんと着ており、8つの目がユリンを…
[気になる点] 『深霊禁山種ラミア』 『アラクネ・深霊禁山種』 どっちが正しいですか?それともどちらも正しい? >>上位の回復アイテムであるライフクリスタルなどの存在が運営より既に示唆されている …
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