No.12 ユニークスキル
「「勝ったぞー!!!!」」
高らかに勝鬨の声をあげると、ドサッと倒れ込むノートとユリン。
今回の一戦は最後の挑戦と決めていただけあって、わざわざ課金ポイントを使って使い切りの強力なバフアイテムを使用する念の入れよう。絶対に負けられないし、負けそうな要素が潰せるだけ潰していた。それでもやはり勝利は嬉しい。
ムキになって現段階で課金ポイントを使うのは、冷静に考えれば失策には違いない。無理して倒す必要のないものを倒すだけの客観的なリターンがあったかと言えばトントンと言ったところ。
だがゲームを楽しむという意味では、初めて苦戦を乗り越えた充実感と歓喜で相殺できていた。
それだけの価値はあったとノートは納得していた。
その充足感の代償はもちろんリアルマネーだけにとどまらない。装備品も耐久限界で、HPMPもすっからかん。辛勝と言うには余りに怪しいレベル。崖っぷちで踏みとどまるどころか、崖から落ち、縁に全力で掴まって耐えたようなものだ。
だが勝利は勝利だった。普通のRPGのLv10アップ相当がALLFOのランク1アップだと大まかに考えるとしよう。
その上で、たった3体の討伐でノートとユリンのランクが2つも上昇したと聞けば。2人がどれほどの激闘を制したのかは御理解いただけるだろう。
「でもさ…………あの3体、森の中では倒し易い方だよねぇ」
「ああ、あの般若面蟷螂はほんっとに強かった」
2人の脳裏を過ぎるのは、どの敵を潰し合わせるかという会議で、真っ先に候補から外されたとある敵。
まるで仮面ライダーの敵役のような、昆虫を人型にしたような造形。黒光りするキチン質の堅牢な外骨格に覆われたボディ。腕には非常に鋭利な鎌が付いており、ユリンの双剣ほどの武器でもなければ、下手にガードした瞬間、刃が鎌に競り負ける。背中の羽は見せかけではなく、低空ながらも高速で飛び回る。ユリンの様に滑空こそしないが、瞬間的にブースターの様な加速をする。
頭部が黒い般若の面の様な形状なのも、その不気味さを大きく煽っている。
パワーとスピードが桁外れに高く、セルフでバフ・デバフまで使い、魔法抵抗力も桁外れ。遭遇すると認識した時には既に手遅れ。刹那、目の前にその般若面がどアップでせまり、何がなんだかわからないうちに瞬殺されるのだ。相手から一方的に認識された場合は、当然知らないうちに首がすっ飛んで何が起きたか理解できないまま死ぬ。
少なくともパーティーに一人は感知技能持ちを入れておきましょう────そんな教訓めいたことを教える敵だ。
何より恐ろしいのは、それがエリアボスとか特殊な敵でもなんでもなく、腐沈森の中の敵性MOBの一種類に過ぎないということだろう。
そして初戦で遭遇した鮟鱇も厄介さではどっこいどっこい。
ヘンゼルとグレーテルのように誘導してくる採取ポイントの連続。光る球という一度知ってしまえばわかりやすいトラップ。決められた縄張り以上からあまり出てこない。
この3点がわかりやすいせいか、この縄張りの中では本当にやりたい放題する。
特に最悪なのが地面の泥化。自身の周囲を泥状にして地面をかき分けながら移動する為、ユリンの様に飛べないと接近即詰みの可能性が発生する。おまけに地面に潜られたらもはや手が出せない。どこから襲撃を仕掛けてくるかも分からない、逆もぐらたたきだ。
その上、妙に逃げ足も速い。縄張りが限られているせいか、横にではなく下に潜って姿をくらますので追いかけようがなくなる。
徹頭徹尾カスを煮詰めたような性能をしているのがこの鮟鱇だ。
なにより釈然としないのは、わかりやすい特徴があると理解していてなお、アイテム採取につい熱心になるといつの間にか縄張りに入っているケースが多い事だ。のんきにキノコを採取していて、振り向いたら大きな鮟鱇の口内が視界いっぱいに広がっていてGame Overである。
そしてどちらも通常の敵性MOBなので、ほかのMOBも当然のように横槍を入れてくる。この2匹と戦っている間に人面ゴキブリに脚へスライディングタックルを食らい、転ばされて詰み、という事例が珍しくない。
ノートとユリンも流石に実力差がありすぎるし、感知系技能持ち無しでの腐沈森の探索は自殺行為と判断。しばらくは出入りしないと決めて、今回の成果を確認することにした。
「まずは採取した物だと……」
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>穢れた枯れ草
分類:素材アイテム
概要:用途不明の穢れた枯れ草。とりあえず採取してきた物。
>狂痺蕈
分類:素材アイテム
概要:触れるだけで麻痺を引き起こす危険な茸。見た目は普通の松茸にしか見えない。炙った場合、飛散した菌がガスのように広がり、吸い込んだ者にも麻痺を引き起こす。
>赤蠱茸
分類:素材アイテム
概要:見ただけで危険だと理解できる異形の赤い茸。何かを産み付けられたように表面がでこぼこしている。たまに動く。
>邪囚石
分類:素材アイテム
概要:所持しているだけで呪いに侵される不吉な石。
>呪生の林檎
分類:素材アイテム
概要:しおしおに萎びた黒い林檎。
>緑泥草
分類:素材アイテム
概要:鮟鱇のいた周辺から採取された草。全体的にぬるぬるしている。
>哀藍薔薇
分類:素材アイテム
概要:黒い茎と異様に大きな棘を持つ青薔薇。
>向滅葵
分類:素材アイテム
概要:日の光とは逆方向を向く白と灰色の向日葵。
>濁血石
分類:素材アイテム
概要:どす黒い血液のような色をした石。持っているだけで呪われる。
>白蝕菌糸
分類:素材アイテム
概要:見た目はただの白いカビにしか見えない菌糸。
>渇命草
分類:素材アイテム
概要:接触対象からHPを吸収する危険植物。見た目は普通のピンク色のチューリップに近い。
>幻豊胡瓜
分類:素材アイテム
概要:食べた者へ終わらない夢を見せる胡瓜。気付いた時にはリスポーンしている。
>痺縛ゼンマイ
分類:素材アイテム
概要:触れるだけで麻痺を引き起こすゼンマイ。
>腐栄白苔
分類:素材アイテム
概要:魔物の死体のような物に繁殖していた白い苔。
>不浄水
分類:素材アイテム
概要:名前に反して非常に澄んでいる水。不気味なほど綺麗。
>壊れた絡繰時計
分類:素材アイテム
概要:崩壊した集落跡のような場所で発見された壊れた絡繰時計。
>腐壊した人形
分類:素材アイテム
概要:崩壊した集落跡で発見された人形。モデルを意識したような造形をしており、慎重に扱わないと簡単に砕ける。
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「どれもデバフ系の毒物ばっかだねぇ。多分同じエリアで育てる他の作物も全滅すると思う」
「同感だな」
次にステータスを確認。
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名前:NOTO
種族:秘忌人(特典による系統固定)
ランク:7
性質:極悪(特典による系統固定)
正職業
❶死霊術師【特】:D
❷魔法使い:B
❸
副職業
❶鑑定士:F
HP:17/47
MP:15/803
筋力:Ⅰ
体力:Ⅰ
敏捷:Ⅰ
器用:Ⅰ
物耐:Ⅰ
魔耐:H
精神:C
【称号】※新たに取得した物のみ表示
>限界突破【死霊】・原初
獲得必要条件:使役する死霊のいずれかを進化させる
効果:使役死霊の成長率上昇【微】
>友愛贈呈【死霊】・原初
獲得必要条件:ギフトを取得する
効果:使役死霊の好感度上昇率上昇【微】
>蛮勇・原初
獲得必要条件:ランク差の大きい敵を討伐する
効果:敵性MOBとの能力値差が一定以上ある場合、全ステータス強化【大】
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名前:ユリン
種族:堕天使(特典による系統固定)
ランク:7
性質:極悪(特典による系統固定)
正職業
❶堕天法双剣士【特】:D
❷殺戮兇手:H
❸
副職業
❶
HP:34/159
MP:2/81
筋力:F
体力:G
敏捷:C
器用:B
物耐:F
魔耐:Ⅰ
精神:Ⅰ
【称号】※新たに取得した物のみ表示
>蛮勇・原初
>兇手・原初
獲得必要条件:職業【兇手】にて死角より格上を討伐
効果:死角攻撃時の攻撃力上昇【微】
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ステータスとしては大きな変化は見られないが、新たに会得したスキルや魔法類は強力であり、其方についても、ノートとユリンは勝利の嬉しさを噛み締めながら、穏やかに情報を共有していく。
「あ、そうだ。ユニークスキルまたゲットしたよ」
「はぁ!?」
その穏やかな空気もユリンの爆弾発言で掻き消されるのだが。
「ユニークスキル〔フリューゲルマーダー〕。飛翔時間延長で、滑空からの急襲時に全ステータス強化・攻撃力倍加・critical確定だって。クールタイムは10分、消費MP25だからまあまあかな?」
「いやいやいや、なんでポンポンそんなにユニークスキルをゲットしてるの?可笑しいってばよ!」
口調こそ荒いが責めるわけではなく、ただただ困惑が隠せないノート。しかし張本人たるユリンが思案顔なのに気づき目配せしてみる。ユリンはうーん、と暫く唸ったのち、ゆっくりと口を開いた。
「それがねぇ、ボクの中でちょっとした仮説があるんだよ。ユニークスキルだけじゃなく、初期限定特典全体に通じる仮説かな?」
「と言うと?」
「うん、ちょっと話がズレるけど、ノート兄もこの初期限定特典に関して、かなり変だと思ってること、色々あるでしょ?」
ノートはユリンの問いかけに対しコクリと頷く。
「そうだな、明らかにただのラッキーなスタートパックにしては性能が凄まじい。反面、デメリットがゲーム進行困難なレベルでキツい設定になってる」
「そう、そこなんだよねぇ。『街に出入りできない』ってそれだけでもかなり致命的だよ。ボクたちは幸運にもバルちゃんが封印されてたあの場所をセーフティーゾーンにできたから気軽にログアウトできたけどさ、普通だとやむなくフィールドでログアウトするじゃん?その場合ってアバターは残るから魔物あたりに無防備なまま殺されて装備の耐久値削れるしデスペナ喰らうし散々でしょ?」
所謂高難易度なゲームでも、セーブポイント周りは安全圏だったりとある程度ゲームの範疇で楽しめる程度の温情は与えられる。
だが、ALLFOの初期限定特典はそのセーフエリアである『街』に入れない。回復アイテムすら買えない。ゲームスタート時にきちんと寝袋やテントなどのアイテムを購入しないと休息すらままならず、ジリ貧に追い込まれていく。
「正直、ゲームさせる気あんの? って言いたいペナルティだよね。で、あのおっさんも言ってたけどリタイア勢が既にたくさん出ちゃってるでしょ?残りも一万人の内で数百人しか残っていない。だけど説明してる時は困った風でもなく淡々と説明してた。つまりは……社員でもこれは可笑しいって思ってるし、予定調和なのかも。加えて初期特典の追加もゲームの宣伝自体は発売の1年も前からしてたのに、発売まで残り1ヶ月ってギリギリでいきなり公表された要素じゃん?」
「ふむ、それで?」
ノートもユリンの言わんとする事は既に考えていたが、考えを擦り合わせることは悪くない。弟分がここまで話し続けることも珍しい。折角の成長の機会を奪ってはいけない。ノートはそう考えて楽しげにユリンの説明を聞いていた。
「それらを考えると、この特典ってそもそも最初の企画段階にはなくて強引に捻じ込まれた要素なんだと思うよ、誰が発起人かは知らないけどさぁ。ゲームバランスの完全調整を喧伝するALLFOには不自然なまでのバランス崩壊要素…………完全にやっつけ仕事だよねぇ。だからこれは、仕返しなんじゃない?無茶なことを急に提案したお馬鹿への反撃の為に、ポーズだけはするけどよほど酔狂じゃなきゃ取らないようにデメリットを極端にした…………うーん、反撃っていうと違うか。方針の違いによるささやかな抵抗だったんだと思う」
「成る程、それならこのぶっ壊れ性能も納得だ。でもまだ続きがありそうな顔だな」
「うん、今のを踏まえて考えて欲しいんだけど、やっつけ仕事だとしても、やっつけ仕事なりにOKが出る程度にはこの特典にもなんらかのコンセプトがあるんだと思う。で、そのコンセプトが“ソロプレイ”なんだと思う」
ユリンの説明を聞くと、ノートはなるほどね、と頷いて続きを促す。
「初期限定特典持ちはペナルティが多過ぎるでしょ?普通のプレイヤーならパーティーも組んでくれないし、NPCも敵対的だから孤立はほぼ確定。だけど全くゲームがプレイできない要素を作ってしまえば、やっぱり責任問題になっちゃう。だからこそソロでも超頑張ればプレイできるギリギリの性能を与えてある」
社会には本音と建前が存在する。
時には質と成果はともかく、やったという実績を短期的には求められる事もある。
ユリンからすると、この初期限定特典はそんな大人のヤケクソ感を強く感じる代物だった。
「例えば、ノート兄は本人のデバフが優秀で、トドメはネクロノミコンで本来より強化された死霊に任せられる。あと結構死霊のバリエーションが多いよね。ソロのデメリットを召喚した死霊で補う。それがネクロノミコンの真髄だと思う」
数は力だ。それはVRという一人称視点なら尚更。背後に回られるだけでリスクは激増する。
故に、背後や側面を守れるバラエティー豊かな仲間を用意できる力を与えるのは間違った解法ではない。
「対してボクは、自分で言うのも何だけど“最強の個”がその真髄だと思う。一緒にプレイしてて思ったけど、やっぱり同じランクでも基本スペックが堕天使は優れ過ぎてる。集を捨て個を追求した結果がボク。効率の良いスキルの習得などの原因はそこにあるんだと思う。目に見えてない要素に大きなメリットがガン積みされてるんじゃないかなぁ?」
ユリンの言葉に対して現状では大きな矛盾点は見つけられず、ノートは頷いて同意する。
「ユニークスキルの習得率の高さの原因もそれだと思うんだよ。あと習得方法も何となくわかった。要するに、ゲームのシステムを応用したトリッキーな動きがトリガーになってると思う」
ユリンはそう言うと、実演すべく立ち上がって剣を構えた。
「例えば1つ目のスキルを習得する前、ボクはスキル発動中にセルフで回転すると範囲攻撃と変わりない効果が得られることに気づいた。だからPKの時はMP消費を減らす為にもこの自己流の技を多用した。2つ目のユニークの時は、飛行からの兇手系のスキルを使いながらの急襲。これも自己流で組み合わせたコンボ技。それがユニークスキル化した」
ただスキルの効果をなぞるのではなく、能動的に使い熟す。
誤解を招く言い方をするなら、自分の工夫を入れるのはカスタム要素を差し込むのに近い。
そのカスタムが一つや二つなら単なるカスタマイズだが、このカスタムが10を超えれば?もうそれはカスタム品と言うより持ち主だけの固有の代物になる。
中型二輪に様々な改造を加えた結果、暴走族のバイクが「族車」という固有の区分で括られるのと、原理は近い。
「ボクから言わせてもらえば、ノート兄だってバルバリッチャとかユニークのタナトスを引き当ててるし、十分可笑しいからね!それもボクよりはるかに!」
そう叫んでグイッと詰め寄るユリン。
単発でしかないユニークスキルと、恒常的に運用していける本召喚の使い魔のユニーク。どちらがおかしいかと言えば、ALLFOでは後者に軍配が上がる。
最初と真反対の図に、ノートは苦笑し肩をすくめるのだった。
おまいう
※質問が相次いだのでランク制に関しての補足
ランク制なんですけど、ランクが更新される毎に実は全パラメータはIで再スタートします。
つまりI〜Sってのは数値っていうより、ランク◯に於ける成長率と考えてください。
例えばの話、ランク1での筋力の成長率が90%オーバーでSランク評価がついても、ランク2になればまた成長率はリセットされてランク2に於ける成長率という形で新しくパラメータが表示されます。
つまり、ランクを上げる前のパラメータってランクアップ以降は見えない形で引き継がれていく恐ろしい数値なので、ランクを上げる前には出来るだけ全体的なパラメータを上げておいた方が後々楽になります。要するに急足でランクを上げると後々響いてくるという事です。
もう少し具体的に説明すると
例えばランク1の時、筋力の成長率評価が『S』だったとして、数値化すると90だったとします。
しかしランク2にアップするとステータス上では『I』で表示されます。
同様に、ランク1の時、ランクアップ前の筋力成長率評価が『E』だったとして、数値化すると30だったとします。これもまたランクアップすればステータス状の表記は同じく『I』です。
しかし同じ『I』でも潜在的には60もの数値の差がある訳ですね。これが毎回のランクアップで発生し積み重なると最終的にどうなるか、考えるまでもありませんね
また、その積み立てが多いほど、ランクアップ時には成長率補正がかかるのでより大きく成長しやすくなるので放置するとステータスは偏り気味になります。ノートがいい例ですね。
因みに隠しパラメータは基本リセットされません。隠しパラメータ時累積計算です。何故ならダウンする事もあるからです
あと職業もランクアップによって成長性はリセットされません。リセットされるのは転職した時のみです。ただし、下位職から上位職への派生の場合、パラメータ同様に成長補正があります。




