No.11 直ぐに卑怯な策を思いつく奴
所謂修行期間
あともう少しでVR日刊十位以内にいきそう
|ω・`)ちら
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|ω・`)ちら
「バールーちゃん、出ておいでー!」
「ばるちゃーん、ちょっと手を貸してくれませんかー?」
ミニホームにリビングが追加されたので、わざわざ部屋を選択せずともこれからはリビングから扉で個室に出入りできるようになって感動も一入。
ノートとユリンはバルバリッチャの部屋をコンコンとノック(絵ではなくちゃんと木製のドアになっている)して呼びかけるが、無反応である。
少しの間何もせず待ってみると、従者枠で唯一入室を許されたタナトスが扉を開けてリビングに戻ってくる。彼はノートの頼みで説得に行ったのだが、その結果は肩を落として戻ってきた彼をみれば聞かずともわかる。
『申し訳ございません。バルバリッチャ様は不貞寝ならぬ『恥ずかし寝』で全く反応していただけません。少なくとももう少し時間を置かないと何とも…………』
骸骨なので表情はわからないが、ノートにはタナトスが苦笑しているように感じた。
「そうか…………。とことんリアルなんだな」
まさかの味方NPCが不貞寝という事態に少々動揺するノート。戦闘に参加するしないは抜きにしてもバルバリッチャの広範囲探知はとても優秀でありあてにしていたので何度も助力を願うが、やはり無反応。
埒が明かないのでノートとユリンはあきらめることにした。
「タナトス、俺達はこれから周辺の調査をしてくる。その間に農業を任せていいか?”擬肉果の木の種”と”塩星の木の種”と鉄ほうれん草の種、赤薬人参、油溜玉蜀黍、甘白玉南瓜、グリーンヒールグラス、ブルーマナグラス、レッドパワーグラスはもってるんだ。必要な道具は買ってあるから、新しく追加された部屋、「倉庫」ってところから自由に出して使ってくれ」
『かしこまりました。高級腐葉土や腐葉土などを使用すると成長を促進できますが、いかがしますか?』
「あー……。とりあえずは何も使わずに栽培してみてくれ」
『かしこまりました』
口頭命令しかしていないにも関わらず、黙々と業務に取り掛かるタナトス。今までのAIだともう少し細かく条件指定を求められるはずなのだが、人間と同じように自分で考えて指示の意図を補完し動く姿にノートはAIのクオリティの高さに感服する。だがそんなことをしている場合ではないと思いだし少し急ぎ足でミニホームを出れば、ユリンが既にウォームアップしていた。
「それで、どっちに行く?」
ノートとユリンの現在地は、ファーストシティからかなり離れており、選択できた中でも他のナンバーズシティからも最も遠い地点。
どうやらその地点が何らかの境界の要素も兼ねているようで、その地点から南北で様相は全く異なる。
南側は、言うなれば22世紀時点でも根強い人気を誇る日本を代表するアニメ映画の某森林にそっくりで、枯れた森に分厚い埃でも積もったかのような見た目。中には赤や白、青色などの胞子がふわふわ飛んでいる。現時点でもチラッと見える敵性MOBはまともな外見ではない。蟲のキメラのような魔物や人面の巨大な百足などゾッとするようなものばかりが確認できる。
だがその森もずーっと奥に目を走らせていくと胞子のスモッグで分かりづらいが大きな崖が見える。崖の高さは推定200m以上。乗り越えるなら頭のおかしいロッククライミングが必要である。そして崖の上は見る限り胞子が飛んでいるようには見えない。
この森のエリア名は、『罪に穢れた腐沈森』。推奨ランク不明、つまりはランク5より相当上のエリアということになる。
対して北側はとても深い森。どうやら人里はなれた秘境の地をイメージした山のエリアのようで、ざっと見ただけでも起伏が激しい。森に生える苔にまみれた緑の樹々は高さ30mをゆうに超え、幹もかなり太い。日光はさしこんでいるのに独特の薄暗さがあり、苔のむす岩や枯れ木などもゴロゴロ転がっている。
此方も日本を代表するアニメ映画の森林にしか見えない。
このストーンサークルのような地点はなんらかの結界の起点なのか腐沈森の胞子は北側へは流れていかない。魔物もチラホラ見えるが、このストーンサークルのエリアにいるとどうやら見えないらしく攻撃をしてこない。代わりにストーンサークルのエリアは攻撃不可能エリアなので一方的に遠距離攻撃はできないようになっているようだった。
「形状で言えば、富士山の平らな部分の周上にストーンサークルが並んでて結界になってるのか。あの崖の上が結構気になるな」
「ボクが飛んでいけばいいんだけど、ランクの問題で長時間は飛べないからなぁ。今は断念するしかないね。で、それはひとまず置いといて、北側と南側、どっちからいく?」
「………………そうだな、歯ごたえの無い戦闘が続いていたから、明らかにヤバそうな南側から行ってみるか」
◆
「ヤバいヤバいヤバい!ここは距離をとって形勢を立て直すしか…………」
「ノート兄、捕まったー!」
万全の準備を整えて腐沈森に踏み込んだ2人。最初は避けていたとはいえ、新エリアに足を踏み入れてから十数分の間は不気味なほど敵性MOBに遭遇せず、採取ポイントもかなりあったためにキノコなどを採取しながら順々にノート達は採取ポイント巡りをしていた。
だが、その時点で少し不自然な点に気づくべきだった。
ノート達は腐沈森を順調に進んでいたが、まるで誘導されているように採取ポイントは連なっていたのだ。しかし実際に森の中を歩いているとなかなかそれに気づかない。
森を静かに進んでいくと、急に奥の方に輝く胞子の玉のようなものを発見。明らかにレアな素材だと向かったが最後、胞子の爆煙を撒き散らしながら地面から這い出てきた“ソレ”。
提灯鮟鱇と百足とゾンビをチグハグにくっつけたような外見。頭は鮟鱇、身体は巨大百足、しかして脚の部分は全てが亡者。輝く胞子は実は提灯鮟鱇の提灯の部分で、ノート達はその誘導に見事に引っかかったのである。そう、この場所はこの魔物の狩場であるが故に他の魔物も湧かなかったのだ。
さらに追い討ちをかけるように、鮟鱇が這い出た地面の亀裂から白いガスが吹き出た。ノートはバルバリッチャのくれた装備で助かったが、ユリンが毒と麻痺を同時に発症。今までノートが使ってきた簡易召喚によるゾンビ盾も盾として機能せず、何もできないままフルボッコにされて呆気なく2人は死亡した。
いや、あれが特別強かったに違いないと二回目のアタックをしかけたが、鮟鱇ほど絶望的ではなかったが異形の魔物共に瞬殺された。
これがユリンの負けず嫌いに火をつけた。
ノートとしては名前すら鑑定できない時点でランク帯があまりに違い過ぎると忠告したが、1匹ぐらい絶対倒してやる!とユリンが息巻いたので、その熱意に負けて手を貸してやることに。だがまだ森の手前だけでも、亡者付き百足鮟鱇(仮名)、女面羽根付き芋蟲(仮名)、般若面蟷螂人(仮名)、口触手ゾンビ(仮名)、巨大半人半蠍(仮名)、ピエロ面キノコ(仮名)、人面蜚蠊(仮名)、巨大人面蛾(仮名)人面鼠(仮名)とSAN値をゴリゴリ削るグロい物ばかりがわんさかでてくる。
しかもそのどれもが腐蝕・毒・麻痺・幻覚など多種多様な状態異常攻撃をしてくる上に、森自体の長い間滞在すると胞子によりHPがガンガン減っていき死亡する凶悪なエリアギミックも彼らを追い詰めた。
さらに人面のせいで異常に知恵があるのか、HPを1/10まで削った魔物を深追いしたら別の敵性MOBの大群に殺される、魔物がモンスタートレインを仕掛けるなど色々な罠に嵌めてくる。
また、口触手ゾンビをはじめとして拘束技を使ってくるのでユリンの強みである機動力を的確に削いでくるのだ。ノートの強みでもあるデバフ系攻撃が効きにくいのも更に難易度を引き上げている。ただレベル制ではないので戦闘をするだけでもステータスは成長する。それだけは不幸中の幸いだろう。
デスペナはホーム滞在で軽減するので、森で回収した怪しい植物もタナトスに預けて農業を進めてもらい作戦を練る。そしてデスペナが終わったら突撃。だが9回チャレンジして全部返り討ちにあった。
腐蝕攻撃は装備品の耐久値をマッハで削るので、普段はユリン優先気味のノートも「あと一度やったら諦めよう」と流石に提案。
ユリンもノートに説得され自分がムキになっていたことを認めたが、最後と受け入れたあたりからユリンの目つきと雰囲気が確実に変わった事を、スイッチが入った事をノートは感じ取った。
なのでノートも今まで以上に入念に作戦を練り、9回目のチャレンジを経て新しく会得した魔法を作戦に組み込んでみることにする。
だが、ノートが最終的に立てた作戦自体はとてもシンプルだった。
まず手始めに、結界との境界ギリギリでノートは待機。先行したユリンはソロで彷徨く敵性MOBを見つけたら石ころを投げつける。そうすると、初期特典勢のデメリットであるヘイトの異常な高さが作用し、遠距離からでも敵性MOBはしつこく追いかけてくる。この習性を利用して、特定の敵性MOB数体のみをノートの元まで誘導するのだ。
ALLFOは敵性MOB同士でもFFがあるので、運がいいと敵性MOB同士が潰し合いをする。そして今回はユリンがジッと我慢して待機し、動きが鈍重だが広範囲の状態異常攻撃を使う『ピエロ面キノコ(仮名)』、シンプルにパワー・スピード・HPの多さに優れた『巨大半人半蠍(仮名)』、口から溢れる気味の悪いピンクの触手を拘束具や鞭として攻撃を仕掛ける『口触手ゾンビ(仮名)』の3種を一体ずつ誘導することに成功する。
さて、何故この3種がピックアップされたかといえば、この3種が最も潰し合いをするのでノートの作戦にピッタリだからである。
まず『巨大半人半蠍(仮名)』は、デカいし速いしパワーもある。反面、このエリアの敵性MOBにしては状態異常の耐性が割と低い。
『ピエロ面キノコ(仮名)』は、HPがとても高いが足が遅い。だが物理攻撃を与えただけでも猛毒の胞子を撒き散らすので途轍もなく厄介…………のはずだが、反面他の敵性MOBの攻撃にも足が遅いので巻き込まれやすい。
『口触手ゾンビ(仮名)』はタフなうえにゾンビの癖に物理属性の広範囲攻撃(触手鞭)を使用できる。またHPが減ってくると暴走モードになり触手鞭を所構わずぶん回し始める、が、これも他の敵性MOBを巻き込むことになる。
その3匹を結界付近まで誘導できたら、あとは逃げないように適度に攻撃を加えつつ結界を行き来するだけ。あとは奴らは勝手に潰し合いをするのだ。
Q:遥かに高いランク帯の敵に有効打をあたえるには?
A:同ランク帯の者が攻撃すればいい。
という寸法である。
ただし、頻繁に結界を行き来して攻撃をすると、敵性MOBは不利と判断して撤退してしまう。
故にギリギリのラインを常に見極めながら攻撃をし続けてターゲットを集めなくてはならず、かなり高い集中力が必要となる。
だが後がなくなりスイッチの入ったユリンは、上手くそこを調整して的確に相手にダメージを与えつつ、HPギリギリで結界に戻り回復。その間はノートが死霊召喚でかき乱しヘイトを稼ぎ続けることで相手を引き止めて、回復が完了したユリンと交代。
三体のHPがどれも1割を切ったところで三体とも撤退の姿勢をとるが、そこで待ってましたと言わんばかりにノートが新しく取得した魔法を発動する。
「〈簡易下級死霊召喚・タフゾンビーズ・スクラム〉!」
三体が撤退しようとした先に現れるは巨大な魔法陣。
筋肉質なゾンビが数十体もズズズッとその陣から現れる。1番下の段はラグビーのスクラムのようにがっちり組んでおり、その背の上にピラミッドのようにゾンビがまたスクラム。三段スクラムの筋肉モリモリマッチョマンのゾンビの壁は見てるだけでも途轍もない威圧感がある。
彼らは召喚コストが高い癖に突撃と踏ん張りしかできない。だが今回はそれでいい。このゾンビ達は縦にも横にも広いので肉盾としては非常に優秀なのだ。
本来は仲間を守るための死霊だが、今回は結界ギリギリにいた三体を逃さないように扇状に展開しゾンビの壁で行手を阻む。
「突撃!」
ノートが指示すると雄叫びをあげながら突っ込んでくるゾンビ達。逃げようと駆け出していた足はそう簡単に止まらず、ゾンビの壁に真正面から衝突しまるでダンプカーに轢かれたように三体がぶっ飛ぶが、見た目よりダメージは喰らってない上に、ぶち当たったゾンビ共がその衝撃だけで消滅してしまった。しかしそれでいい。不意打ちで肉壁に轢かれた三体は強いノックバックをくらい数秒のスタン状態に陥る。
その数秒が生死を分けた。
「《ブラックブラッドパワー》!」
「〔戦舞・暗襲九斬双翼〕!」
ノートの使える魔法でも唯一のバフ魔法、9回チャレンジを経て新しく会得したその魔法を既に攻撃姿勢に入っているユリンに発動。
それは対象者の被ダメ率・ヘイト値・性質ダウン傾向値を急上昇させるが、対象者の悪性が高いほど攻撃力とcritical成功値を上昇させる博打の魔法である。
〔戦舞・暗襲九斬双翼〕でまず1番面倒くさい口触手ゾンビを5回切りつけて討伐、続けて胞子爆発の自爆攻撃のモーションに入ったピエロ面キノコをcritical連続4回切りでギリギリ討伐。
9回の怒涛の連続攻撃全てを成功させた瞬間、それにより〔九末解放・闇〕が初めて発動。
ユリンの全身が真っ黒なオーラで包まれ、ユリンがニヤッと笑う。
既に体勢を立て直しなおも逃げようとする巨大半人半蠍に、上昇した身体能力によって素のスピードで追いつき、大きく跳躍からの滑空で無防備なその背中に死角から攻撃することで更に威力を増す兇手のスキルを叩き込む。
背中をザックリ切り裂かれ大きく仰け反る巨体。響く断末魔。
赤いポリゴンが盛大に爆発した。