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エーテルコード:サイドストーリー  作者: エトコッコ
サイドストーリー

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「烈火の如く ~前編~」


烈が8歳の頃、たんぽぽ荘には烈を含めて11人の子供たちが暮らしていた。


その中で最年長だったのが、15歳の清司。


清司は物静かで控えめな性格だったが、誰よりも優しく、思いやりに満ちた青年だった。


彼は、烈がたんぽぽ荘に捨てられた頃からずっとこの場所にいる、赤子だった頃の烈を知る数少ない存在でもある。


だからこそ烈をはじめ、たんぽぽ荘の子供たちは皆、清司を兄のように慕っていた。



清司は、たんぽぽ荘の手伝いや子供たちの世話を、いつも率先して引き受けていた。


「清ちゃん、いつもありがとうね」


そう言って微笑む美晴の言葉が、清司にとっては何より嬉しかった。


清司がたんぽぽ荘へ来たのは、5歳の頃。


両親の離婚が決まり、そのどちらも清司を引き取ることを拒んだ。


清司は——両親にとって“望まれない子供”だったのだ。


行き場を失った末に、彼はたんぽぽ荘へ引き取られることになった。


幼いながらも清司は、自分は誰からも必要とされていない、価値がないのだと、そう思い込んでいた。


だが、たんぽぽ荘での暮らしは、少しずつ彼を変えていった。


自分と似た境遇の子供たち。


そして烈のように、生まれて間もなく捨てられた子供。


そんな彼らと日々を共にしながら、互いに支え合い、笑い合って生きていくうちに、清司の心には少しずつ温かなものが芽生えていった。


さらに、美晴や結菜の優しさは、孤独だった彼の心を静かに包み込み、今の清司という人間を形作っていった。



清司は、数いる子供たちの中でも、特に烈のことを気にかけていた。


もちろん、烈がエーテルコードであることは、たんぽぽ荘の誰もが知っている。


だが、それを理由に偏見を向ける者は誰もいなかった。


少なくとも、この場所には、烈を“普通ではない存在”として扱う人間はいない。


清司には、大好きな漫画があった。


それは『空手道一直線』。


清司は、その主人公である“リュート”に強い憧れを抱いていた。


「烈って、なんかリュートに似てる」


清司は、よくそんなことを口にしていた。


そして清司自身もまた、リュートのように強くなりたいという夢を抱いていた。


その影響を受けて、いつしか烈も『空手道一直線』を好きになっていた。


気づけば2人で並んで漫画を読み、技を真似し合うことが、日常のひとつになっていた。



清司は高校へ進学すると、ずっと憧れていた空手部へ入部した。


だが、それからというもの、彼の身体には絶えず傷が増えていった。


頬の痣、裂けた唇、包帯の巻かれた指。


「部活だよ。心配しないで」


清司はそう笑いながら話していたが、その傷は日に日に増えていき、帰宅する時間も次第に遅くなっていった。


美晴や結菜も異変には気づいていた。


「清ちゃん、本当に大丈夫なの?」


心配そうに尋ねても、清司は決まって困ったように笑うだけだった。


「空手だから。これくらい普通だよ」


その言葉を繰り返すばかりで、詳しいことは何も話さなかった。


そしてある日——ついに烈も口を開いた。


「清にぃ……本当に大丈夫かよ」


まだ幼かった烈にも、清司の様子がおかしいことくらいは分かっていた。


だからこそ、胸の奥がざわついて仕方がなかった。


すると清司は、一瞬だけ目を丸くしたあと、いつもの優しい笑顔を浮かべた。


「はは、大丈夫だよ、烈。このくらい平気さ」


そう言って烈の頭を軽く撫でる。


だが、その笑顔はどこか無理をしているようにも見えた。


烈の胸には、言葉にできない重たいもやもやだけが残った。



ある日のことだった。


「清ちゃん、遅いわね……」


美晴が、不安を隠せない声音で呟いた。


時刻は、すでに21時を回っている。


部活の日でも、清司が帰ってくるのは遅くとも20時過ぎまでだった。


もし、それ以上に遅くなる時は、必ず事前に連絡を入れてくる。


部屋には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。


そして烈は、胸の奥に嫌な予感が広がっていくのを感じていた。


「俺、探しに行ってくる!」


勢いよく立ち上がり、烈は玄関へ向かう。


「あっ!烈!ちょっと!」


結菜の制止の声が飛ぶ。


だが、その言葉が届くより早く、烈はたんぽぽ荘を飛び出していた。



清司の居場所は、スマカを使えばすぐに分かる。


烈は走りながら端末を操作し、清司の位置情報を確認した。


「……!!」


表示された地点を見た瞬間、烈の表情が強張る。


(清にぃの学校の近くだ……!)


烈はさらに速度を上げた。


夜風が頬を打つ。


胸のざわめきは、走るほどに大きくなっていった。



高校近くの、人通りのない路地裏。


薄暗いその場所にいたのは、4人の大柄な男たちと、地面に倒れ込む清司の姿だった。


「オイオイ、せっかくセンパイが鍛えてやってんだぜ〜?」


「ほら、さっさと起きろよ!」


嘲るような声とともに、清司は1人に無理やり引き起こされる。


その直後——鈍い音が連続して響いた。


腹部へ、容赦なく叩き込まれる拳。


複数人が代わる代わる、清司を殴り続ける。


清司は苦しげな声を漏らしながら、再び地面へ崩れ落ちた。


「お前、根性なさすぎー」


「つか、弱すぎ」


4人はゲラゲラと笑い声を上げた。


「つーか、お前センス無さすぎ。空手辞めたら?」


彼らは、清司の所属する空手部の先輩たちだった。


清司に限らず、気の弱そうな部員を見つけては、“特別指導”と称して暴力を振るう。


部活終わりの人気のない場所で、複数人が1人を囲み、憂さ晴らしのように痛めつけていた。


最初は、標的は清司だけではなかった。


だが、他の部員たちは耐えきれずに次々と辞めていき、最後まで残ったのが、清司だった。


「いや、やっぱ辞められたら困るわ」


1人がニヤつきながら言う。


「サンドバッグいなくなるし」


「あー、それもそっか!」


次の瞬間。


「オラッ!!」


男の蹴りが、倒れていた清司の腹部へ容赦なく叩き込まれた。


「っ……!!」


清司はその衝撃に身体を折り、口から血を吐く。


激しく咳き込みながら、苦しそうに地面へ手をついた。



「——ッッオイ!!!」


鋭い怒声が、路地裏に響いた。


4人は一斉に振り返る。


そこに立っていたのは、自分たちより遥かに幼い、1人の少年。


それは、烈だった。


烈の視界に飛び込んできたのは、血まみれで倒れ込む清司の姿。


その瞬間、烈の顔から血の気が引いた。


「清にぃっ!!」


烈は反射的に駆け出す。


だが——


「れ……つ……! 来ちゃ……ダメだ……!!」


清司が、途切れ途切れの声で叫んだ。


その前へ、4人の男たちが立ち塞がる。


「あー、コイツ多分、清司と同じ“みなしご荘”のガキだわ」


1人がニヤつきながら言った。


烈は男たちを睨みつける。


その瞳には、幼い子供とは思えないほど濃い怒りが宿っていた。


「……清にぃを、こんなふうにしたのは……テメェらか?」


低い声だった。


「あぁ!?“テメェら”だぁ?」


「生意気なクソガキだなァ、おい」


男たちは苛立ったように笑う。


「“清にぃ”はよぉ、オレたちのサンドバッグなんだよ〜。なぁ、ボクちゃん?」


からかうような口調。


その言葉に、烈の表情が止まった。


「……サンド……バッグ……?」


ぽつりと呟く。


増え続けていた痣、帰りの遅さ、そして——無理に浮かべていた笑顔。


烈の中で、全てが繋がった。


あれは部活の傷なんかじゃない。


こいつらが。


こいつらが、ずっと。


清にぃを、殴っていた。


「なぁ、このクソガキもサンドバッグにしね?」


「いいねー。どうせみなしごだろ?1人死んだところで、誰も気にしねーって」


下卑た笑い声が響く。


その言葉を聞いた瞬間、清司が叫んだ。


「烈にはっ……!!烈には、手を出さないでくれぇぇっ!!」


「あぁ?うるせぇよ」


男の1人が、無造作に清司を蹴り飛ばした。


その瞬間——


烈の中で、何かが切れる音がした。

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