「姉妹 -怜と凛-」
「——怜……怜!」
閃の呼びかけに、はっと我に返った怜は顔を上げる。
視線の先のモニターには閃の姿が映っていた。
「今のところ、人の反応も違法SDの反応もなし。ちょうど区切りもいいし、ここで一度休憩しよ」
柔らかく告げる閃に対し、怜はわずかに俯きながら、静かに首を振る。
「……私は、捜索を続ける」
その声には迷いというより、どこか張り詰めた固さがあった。
「ダメで〜す。不用意な時間外労働は認めませ〜ん」
あえて軽い調子でそう言うと、閃のバサラヲが怜のシラユキの手を取るようにして引き寄せ、そのままキャリアへと歩き出す。
「ちょ、ちょっと……!」
戸惑う怜をよそに、閃は振り返りもせずに続けた。
「休息も大事な仕事って、散々言われてきたでしょ?オルフェの人たちに」
その言葉通り、これまで何度も耳にしてきた忠告だった。
怜は反論できないまま、結局そのまま連れられていく。
そうこうしているうちに、2人はキャリアへと戻っていた。
◆
キャリア内に入り、2人はEDを降りると、フォーム姿のまま昼食を取ることにした。
閃は手慣れた様子で、2人分のランチボックスとドリンクをテーブルに並べる。
「怜、昨日の夜と今日の朝、ちゃんと何か食べた?」
椅子に腰掛けながら、何気ない口調で問いかける。
「……昨日の夜は、もちのすけグミ食べた……」
少しだけ間を置いて返ってきた答えに、閃は一瞬言葉を失い——すぐに小さく笑った。
「あー……ま、いっか!」
深くは追及せず、2人はランチボックスを開け、食事を始めた。
いつもと変わらない様子で食べる怜を見て、閃は内心ほっとしていた。
しばらくして、怜がぽつりと口を開く。
「……気になってるんでしょ?……姉のこと」
「え? あ……うん」
不意を突かれ、閃は少し戸惑いながらも頷いた。
「……なら、聞いてくれる?」
その一言をきっかけに、怜は静かに、自分の中に溜め込んでいたものを語り始めた。
◆
閃は、怜の話を最後まで遮ることなく、ただ黙って聞いていた。
過去のこと、凛との関係、抱えてきた感情、そして——今も整理しきれていない自身の気持ち。
すべてを聞き終えたあと、怜は小さく息を吐く。
「……長々と、ごめん」
「いや、話してくれてありがとう、怜」
オルフェに来てから初めてだった。
怜が、ここまで自分の内側を誰かに明かしたのは。
これまではずっと、考えないようにしてきた。
触れなければ、揺れないと思っていた。
しかし、凛との再会が、その蓋をこじ開けた。
抑え込んでいた感情は、今にも溢れ出しそうになっていた。
そして何より——怜自身、自分がどうしたいのか分からなくなっていた。
「……私は、自分が何をしたいのかわからない」
その言葉は、静かでありながらも切実だった。
「確かに……難しいね……」
閃もまた、簡単に答えを出せる問いではないと分かっている。
「ねぇ……閃なら、どういう向き合い方する?」
「うーん……」
少し考え込んだあと、閃は慎重に言葉を選ぶ。
「……気持ちの整理がつかないまま会っても、多分余計に拗れると思う。だから、ある程度整理がついてから会う……かな……」
どこか自信なさげではあったが、それでも正直な答えだった。
「そうだよね……私も、そう思う」
怜は小さく頷く。
「ただ……凛は父と同じで、旅先で、いつどうなるか分からないから——」
そこまで言いかけて、怜の表情が変わった。
「……あ」
何かに気づいたように、目を見開く。
「そっか……私、わかった……」
「え?」
閃が覗き込むと、怜はまっすぐ前を見たまま続けた。
「もし凛に何かあって、二度と会えなかったらって思ったら……私は、多分、一生後悔する」
その言葉には、迷いがなかった。
「だから……私は、無意識に凛に会おうとしていたんだ……」
ようやく、自分の行動の理由に辿り着いた瞬間だった。
◆
その日の任務を終え、帰還途中のキャリアの中。
怜のスマカに、一件のメッセージが届く。
——差出人は、凛。
画面を見つめ、内容を読み終えたあと、怜は何も言わず、キャリアの窓の外へと視線を向けた。
流れていく景色の向こうに、何かを探すように。
◆
一方その頃。
航空行きのレールバスの中で、凛もまた窓の外を眺めていた。
そのとき、スマカが小さく鳴る。
表示された名前に、凛は息を呑んだ。
——怜。
怜から返事が来るのは、これが初めてだった。
震える指でメッセージを開く。
読み進めるうちに、ぽたり、ぽたりと涙が画面に落ちた。
凛はそれを拭い、深く息を吸う。
そして、静かに文字を打ち込んだ。
『永遠に愛してる』




