「鬼は外に」
とある日の夕方。
訓練を終えた光井は、フォーム姿のまま、ひとり休憩室でドリンクを飲んでいた。
「はぁ……」
大きなため息をつき、肩を落とす。
そこへ、パトロール帰りの閃がやって来た。
「お、ミチ。おつ〜」
「閃、おつかれー」
軽いやり取りを交わし、閃はコップにドリンクを注ぐと、光井の隣に腰を下ろした。
「どうしたのよ、みっちゃん。そんな肩落として」
いつもの調子で、閃が尋ねる。
「いやー……やっぱ俺、才能ないんかな〜って……」
光井は少し自嘲気味に言った。
「なんで?」
「クレアには毎回怒鳴られるしよぉ……他の3人は当たり前にできることが、俺だけすげー時間かかるしよぉ……」
ドリンクを一口飲み、続ける。
「トルーパーの初機動の時だってさ、3人は3日でできたのに、俺は1週間もかかったし……」
閃は、ふむふむと相槌を打ちながら聞いていた。
「……なぁ、ミチ。1週間で機動できるのも、十分すごいことだぞ?」
「そぉかぁ……?でもさ、ファクターズは1日、つーか2時間で動かしてたんだろ?」
「そりゃ、ファクターと比べるのは相手が悪いだろ。全国の訓練生のデータ知ってる?」
「知らんけど……てか、そんなのあんのか?」
光井は驚いた顔をする。
「あるよ。つーか黒須博士がこっそり教えてくれた。だからここだけの話な?」
閃は声を潜めるようにして続けた。
「トルーパー動かすのに、2週間とか1ヶ月かかるのもザラだぞ?だからミチ、早い方なんだって。他の3人がデキスギくんなだけ」
「……ま、マジか……!!」
光井の表情が、少しだけ明るくなった。
「クレアもなぁー、他の3人を基準にしてるから、要求が高すぎるんだよな。そりゃキツいわ」
「毎回、圧がすごいんだよ……いや、俺がミスるのが悪いんだけどさ……」
クレアの高すぎる基準に、光井はいつも必死だった。
「確かに迫力はあるよな。あいつがファクターだったら、俺らより強いかも」
閃はいたずらっぽい笑みで言った。
「クレアがファクターか……何属性なんだろな?」
光井も想像する。
「“怒属性”とか?」
もちろんそんな属性はない。
「ぶっ!!」
光井は思わず吹き出した。
「専用EDは鬼の形してて…」
「や、やめろって……!!」
光井は笑いをこらえきれない。
「エーテル武器は金棒」
「ははは!!色は赤と黄色のシマシマで……!!」
ついに光井も乗っかっていた。
閃が笑いながら休憩室のドアを開けた。
そこには――
鬼の形相のクレアが立っていた。
…………
数秒の静寂の後、閃はそっとドアを閉めた。




