表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/106

Ⅰ-4・決死の戦い~盟友の死~引き継がれた意思

 首領の子飼い幹部を締め上げ、ワルキューレ本部の所在が判明する。「戦力を整えて、後日、攻め込もう」等と悠長な意見は無い。明日には、撤退をされてしまうかもしれない。尊と勘平は、即座にバイクで現地に向かった。昭兵衛が少し遅れて車で向かう。


「おい、本条!」


 バイクを並走させながら、勘平が尊に話しかける。


「どうした?まさか、この期に及んで尻込みをするオマエではあるまい?」

「フン!気後れなんてしとらんわ!

 オマン、戦いが終わったらどうする気や?」


 勘平は、ワルキューレが壊滅して平和になる世界を欲している。だが同時に、戦いが終わった後、居心地の良い今のチームがどうなって、戦う必要の無くなった自分が何をすれば良いのか、見通しが付かなくて不安だった。


「この戦いでワルキューレが壊滅をしても、全てが平和になるわけではあるまい。」

「・・・ん?」

「氷柱女のような無害の妖怪だけではない。

 この世界には、悪しき妖怪が数多く存在する。

 そして、妖怪と戦う陰陽師が存在する。」

「・・・オマン、まさか、ワルキューレのあとは妖怪と?」

「そのつもりだ!人を救える力を、眠らせるつもりは無い。」


 尊が「ワルキューレ討伐後」を考えていたことに、勘平は驚いてしまう。同時に、尊が戦いに身を置き続ける決意」に対して、新たな疑問が浮かんだ。


「美琴のことはどうするんや?所帯を持つんか?」

「オマエこそ、どうなんだ?滋子に気持ちを伝えてあるのか?」

「急になんや?なしてワシの話になる?ワシは滋子のことなど、なんとも・・・」

「そう思いたいのはオマエだけ。

 オヤッサン達は、オマエの気持ちなど、とっくにお見通しだ。

 若い連中(従業員)なんて、どっちが先に気持ちを伝えるか、

 賭けの対象にしているぞ。」

「ワシは、滋子から未だに弟分扱いやぞ!ワシの方が歳上なのに・・・。」

「彼女もオマエと同じ・・・素直じゃないからな。

 だが、滋子は待っているぞ。オマエが男らしく、想いを伝えてくれることをな。」

「ワシは高卒・・・滋子は大学生・・・釣り合わんよ。」

「学歴なんて関係無い。オマエと滋子なら、必ず上手く行く。俺が保証しよう。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まだ決断できないのか?なら、こうしよう。

 俺は、この戦いが終わったら、美琴に結婚を申し込むつもりだ。

 オマエが俺の隣で見届けてくれ。

 代わりに、俺は、オマエの告白に立会う。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 勘平が明確な答えを発しないまま、TS250ハスラーのⅢ型を駆る尊と、ドリームCB250を駆る勘平は、眼前に聳え立つ不気味な神殿に接近をする。



-最後の戦い-


 突入と同時に、配下の怪物達が押し寄せてきた。激戦に次ぐ激戦で尊と勘平は疲労困憊だったが、気力を振り絞って通路を進み、ついに神殿の最奥に到達をした。


≪ようこそ異獣サマナーの諸君≫

「首領か!!出てこいっ!!」


 尊と勘平が油断なく周囲を見回しながら呼びかけたら、部屋の奥の祭壇が怪しい光を発し、大釜を持ち、ローブを纏った髑髏が現れた。まるで死神だ。祭壇で突っ立ってるだけだが、尊と勘平は凄まじいプレッシャーに気圧される。


≪私がワルキューレ首領のバルキリーだ。

 まずは、良くぞここまで来たと賞賛させてしてやろう。

 そして、さようならだ。

 ここを貴様達の墓場とし、ワルキューレを再編して世界征服を成し遂げる。≫

「そうはさせるか、この怪物めっ!!人間の力を舐めるなっ!!」

「オマンを倒し、平和な世界を取り戻すんや!!」

≪それができるかな≫

「やってやるさ!!変身っ!!」 「変身っ!!」


 異獣サマナーアポロ&アデスに変身して挑みかかる。だが、バルキリーが掌を翳したら、強力な念動力で弾き返されてしまった。


≪他愛ない・・・・ふんっ!!≫

「うわああっ!!!」 「ぐぅぅっっ!!!」


 バルキリーが念じた途端に、アポロとアデスのボディーから火花が散った。それでも立ち上がって果敢に挑むが、結果は同じで突破口が見つからない。アポロ&アデスは、切り札のヴァルカンとマキュリーを発動させてパワーアップ。召喚モンスターの援護を受けながら戦うが、それでもバルキリーには届かず弾き飛ばされる。


≪死ねい!!≫


 追い撃ちの衝撃波を喰らったアデス・マキュリーが壁に叩き付けられ、通常体にパワーダウン。マーキュリーのカードが床に落ちる。立ち上がり、マキュリーを拾い上げるアポロ・ヴァルカン。既に進化態の状態にも係わらず、マキュリーのカードを翳す。


「やめい、本条!神のカードは、一枚使っただけでも相当の負担になるんや!

 2枚も同時に使ったら、命の保証はできへんぞ!」

「だが、このままでは、バルキリーは倒せず、俺達は敗北する!」


 アポロ・ヴァルカンは聞く耳を持たず、マキュリーのカードを発動させてしまう。アポロの周りに、凄まじい雷が出現して、アポロの体に吸い込まれていく。


「くっ・・・ぐわぁぁっっっっっ!!!」


 アポロの体内に莫大なエネルギーが蓄積されて、感覚的に体はパンクしそうだ。プロテクターに黄のアクセントが現れ、プロテクターと装飾が大きく派手になったアポロ・ユピテルに進化した!


「本条っっ!!」

「ぐぅぅっっ・・・粉木、あとは頼んだぞ!!」


 アポロ・ユピテルは、必殺技のカードを翳してバルキリーに突っ込んでいく!召喚モンスターのユピテルポッパーが出現してバイクに変形!アポロ・ユピテルが飛び乗ると同時に、全身から雷を発生させた!奥義・ホッパーゴッドパニッシュ発動!

 「ただならぬ力」と察知したバルキリーから余裕が消え、掌から発する念動力や、眼から放つ光線で迎撃をするが、アポロユピテルを取り巻く莫大なエネルギーは、全てを無効化する!


「よもや、このような事が!

 おのれっ!おのれっ!おのれぇぇぇっっっっっっっっ!!!!」

「うおおぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!!!」


 大爆発が発生!

 濛々と爆煙が立ち込める中で、首領が木っ端微塵になっており、直ぐ近くに傷だらけの尊が倒れていた。抱き起こしたが、どう見ても助かる状態ではない。だが、勘平は「本条が死ぬ」なんて現実を認めたくないので、揺さぶりながら懸命に呼びかける。やがて閉じられていた尊の瞼が薄らと開かれる。


「・・・首領は?」

「安心せい、オマンが倒した。」

「そうか・・・・」

「胸を張れ。オマンは世界を救った英雄や。」

「・・・あぁ」

「しっかりしいや!英雄は死んだらあかんのや!美琴が待ってるで!」


 勘平は瀕死の尊を抱きかかえて神殿を脱出すると、外で待機をしていた昭兵衛が寄って来た。


「尊、しっかりしろ!何があったんだ!?」

「良かった。・・・おやっさんも無事だったんだな。」

「本条は、サマナーの力を暴走させたんや。首領を倒す為に。」

「首領は滅んだ・・・お、俺達は・・・平和を勝ち取ったんだ。

 こ、これで・・・今日からは・・・ゆっくりの眠れる。」


 昭兵衛の顔を見た時点で、尊は安堵して緊張の糸は切れていた。目を閉じて垂れる。


「尊ぅぅっっ!!!」

「こ、これはっ!?」


 尊の体が灰になって崩れ、風に流されて舞い散っていく。これが、人間の限界を遥かに超える力を使ってしまった代償。尊の何もかもが朽ちていく。勘平と昭兵衛は、骨1つ残らない英雄の終わり方を、眺めていることしかできなかった。黒焦げになったサマナーホルダと、勘平と昭兵衛が握り締めた灰だけを残して、尊はこの世から消えた。


 見上げれば澄み切った青空が広がり、木の枝で野鳥が囀っている。その光景は、平穏そのものだ。しかし、その平穏を勝ち取った本条尊は存在をしない。

 嗚咽を吐いて号泣する昭兵衛。尊に協力をして、正義の味方の一員のつもりになっていた。その結果が、これだった。何度も「もう止めよう」と止める機会はあっただろうに、昭兵衛自身が正義の大義に浮かれていた。

 何が正義だ?正義を貫いた果てに、平和をもたらした張本人がいないなんて、あまりにも残酷すぎる。昭兵衛は「正義の仲間を気取って、尊の死を早めてしまったのではないか」と自分を責めた。



「本条・・・オマンのやりたかったことは、ワシが引き継ぐ。」


 ワルキューレは壊滅をしたが、世界が平和になったわけではない。人間社会を害する妖怪がいて、奴等と戦う陰陽師が存在する。陰陽師は、勘平の戦闘経験と、異獣サマナーの技術を欲していた。勘平は、陰陽師に、サマナーシステムを提供するつもりだった。ただし、サマナーシステムの「人命を無視した性能」に疑念を持っており、人体負担をかけないシステムの開発を、勘平の参加とシステム提供の前提条件にした。


「行くのね、勘平。」

「ああ、世話んなったな。」


 旅立ちの日、滋子が勘平を見送る。結局、勘平が滋子に気持ちを伝えることは無かった。勘平は、自分だけが幸せになることが許せなかった。察した滋子は、勘平に何も求めない。


「美琴のこと・・・任せんで。」

「うん、美琴ちゃんのフォローちゃ任せて。

 私は、大学を卒業したら妖怪の退治屋に就職するつもりやさかい、

 その時ちゃ宜しゅうね。」

「来んでいい。」

「尊さんの意思を継ぎたいのは、勘平だけでない。私もおんなじなの。」


 滋子の本心は、勘平の傍にいること。それは、勘平への好意と、粉木を放っておけない母性本能から発せられた想い。


「なら、勝手にせい。

 そやけど、今度はワシの方が先輩。オマンはワシの部下やからな。」

「そっちゃどうかしら?勘平ちゃ高卒で、私ちゃ大卒ちゃ。

 私の方が昇進が早いんでないのかしら?」

「・・・フン!」


 粉木は、滋子との数年後の再会を楽しみにして、滋子に見送られながら、愛車のドリームCB250を走らせる。


「・・・愚か者め。」


 昭兵衛は、2階のカーテンの隙間から勘平の旅立ちを眺めていた。喪失の底に居た彼には、好いた女と共に掴む幸せを捨てて戦いに身を置き続ける勘平の選択が理解できなかった。だから、絶縁状を叩き付けた若者の門出を、見送るつもりは無い。



 勘平が、滋子からの手紙で、美琴が身籠もっていることを知ったのは、尊の死から、半月が経過をした春だった。

 長期休みになって県外の短大から帰省をした美琴は、尊の死を知らずに、妊娠を報告する為に、葛城レーシングを尋ねてきた。滋子は「尊は海外に旅立った」と誤魔化そうとしたが、昭兵衛は真実を話す決断をする。

 話すことが残酷だとは承知の上で、知らずに待ち続ける残酷よりはマシだと判断して、泣き崩れる美琴を抱きしめた。そして、行き場を無くした美琴と、尊の落とし胤を引き取って、自分の子として育てる覚悟をしていた。それが、亡き友人の為に昭兵衛が選んだ最後の仕事だった。




***回想終わり********************


「オヤッサンは、10年くらい前に亡くなったらしい。

 都市伝説の英雄を看取ったんは、もう、ワシだけや。

 過去の話は、あまりしたくはないのだがな。」


 最初は茶々を入れていた燕真と紅葉だったが、今は、50年前の壮絶な出来事を黙って聞いている。燕真は、粉木が「身勝手な行動」や「与えられた力を自分の力と勘違いする浅はかさ」を嫌う理由が、少しだけ理解した。


「ワシは、オマン等が憎くて怒ったワケじゃない。」

「それは言われなくても、ちゃんと解ってる。

 本条って人・・・スゲー奴なんだな。」

「いつも偉そうなジイチャンよりも偉い人なんだね。」

「偉そうにしとるつもりはないが・・・

 本条は、ワシが唯一、何をやっても勝てんかった尊敬する男や。」


 燕真は、「長く生きて後輩を育てることに関してはジイさんが勝っている」と訂正をしてやりたかったが、後輩を育てる行為そのものが本条尊の呪縛のようにも思えて、あえて何も言わなかった。


「仏壇・・・拝ませてもらって良いか?」

「ァタシもお参りしたい。」


 燕真は、襖を開けて粉木の寝室に入り、紅葉と並んで小さな仏壇の前に座る。しばらく仏壇を眺めたあと、作法なんて解らないので見様見真似で、ロウソクに火をつけ線香を立て、リンを鳴らしてから合掌をした。

 燕真は、本条尊のことを知らない。合掌をして何をイメージすれば良いのか解らない。だから、50年前に平穏を守ってくれた礼と、「粉木のジイさんより先には死なない」という決意表明をする。


(本条・・・ソイツは、ワシの弟子の中で、最も出来が悪いヤツや。

 そやけどな・・・ワシがオマンに誇りたい自慢の友人や。

 ワシは、もう何年もせんうちに、オマンの所に行くだろうが・・・

 そん時は、タップリと自慢話をさせてもらうつもりやから覚悟しとけよ。)


 線香の香りが、寝室から居間に流れ込んでくる。不肖の弟子が大成をする保証は全く無い。だが、燕真の優しさと懸命さには、一定の希望を感じている。

 粉木は、開いた襖の向こう側の、仏壇と、燕真の背を眺めながら、冷めた茶を啜るのだった。

これにて妖幻ファイターザムシードの第1部は終了。

引き続き第2部に移ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ