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侯爵令嬢の愛憎

「では食糧をお分けしますね。ああ……そうそう、やはり自分の食糧を自分で食べたいでしょうから、それぞれの食糧は僕のほうで綺麗に分けてありますので安心してください」

「っ!?」


 僕がそう告げた瞬間、リリアナ令嬢がただでさえ変化に乏しい表情を引きつらせた。


「ナディアの分はこちらです」

「はい、ありがとうございます」


 ナディアは僕から今日の分の食糧である干し肉とチーズ、それにパンを受け取る。

 このパンは固いから、本当はスープが作れればいいんだけど、鍋などの道具は下の階層(・・・・)に行かないと手に入らないからなあ……それまで我慢だ。


「こちらはリリアナさんの分です」

「あ……ありがとう、ございます……」


 僕が手渡した食糧を、リリアナ令嬢は口を震わせながらジッと見つめ続けている。


「? 食べないのですか?」


 一向に手をつけないリリアナ令嬢に、ナディアが不思議そうな表情を浮かべて尋ねた。


「も、もちろんいただきます。ですが、少しお腹の調子が悪いみたいで……」

「ああ……確かにリリアナ様、かなり顔色が悪いようですね……」

「駄目ですよ? しっかり食べないと、今後の迷宮攻略に支障が出てしまいますから」


 食事を遠慮するリリアナ令嬢に対し、心配した様子を見せるナディア。

 対して、僕は少し強めの口調で彼女に食事するように促す。


 すると。


 ――ぐう。


 リリアナ令嬢のお腹が鳴った。


「ほら、身体は正直です。そもそも合流してからここまで、かなり多くの魔物を相手にしましたから」


 僕はパンを手に取り、リリアナ令嬢の口元へと近づけた、その時。


「イ、イヤッ!」

「あっ」


 手を叩かれ、パンは石畳の床に転がった。


「……リリアナさん、あなたを仲間に加える際、僕が言ったことを覚えていますか?」

「…………………………」

「食事しないことで、いざという時にあなたに足を引っ張られては僕達も困るんですよ。だから、ちゃんと僕の指示に従ってください」


 無言でうつむくリリアナ令嬢。

 まあ、どんなにお腹が空いていても、食べたくないよね。


 だって……彼女の食事には()が盛られているんだから。


「ハア……これ以上言っても指示に従ってくれないのであれば、あなたとはここまでです。どうぞお引き取りください」


 うつむく彼女に、僕は辛辣に言い放つと。


「フ……フフ……」

「リリアナ様?」


 肩を揺らし、くつくつと(わら)うリリアナ令嬢に、ナディアが声をかける。


「なんだ、あなた方はもっと馬鹿なのだと思っていたのですが、気づいていたのですね」

「「…………………………」」


 顔を上げ、ニタア、と口の端を吊り上げるリリアナ令嬢を、僕とナディアがジッと見据える。


 そう……当然ながら、僕は知っていた。

 あの夢の中で、効率的に迷宮攻略することを考え、僕は一度だけ彼女を仲間に加えたことがあった。

 その時、僕もナディアも、オマエが提供した食糧のせいで床にのたうち回り、醜悪な顔で僕達を見下ろしていたよ。


私の(・・)エミリオ様に対し、あのような態度を取るからいけないのですよ』


 そう、(のたま)いながら。


「……僕も、大切な(・・・)ナディアを守るためなら、いくらでも学ぶ(・・)ということだ」


 あの時の夢から覚めた時の、あの悔しさは忘れない。

 僕の不注意のせいで、毒なんて卑劣なものでナディアを苦しませてしまった悔しさを。


「さて……それで、どうする? このまま僕達から尻尾を巻いて逃げ出し、愛する(・・・)エミリオに泣いて縋るのかな?」

「っ!?」


 はは。コイツ、図星を突かれて目を見開いているよ。

 ああ、そうだ。オマエは自分の婚約者ではなく、ずっとあのエミリオのことが好きだったんだよな。


 また別の夢の中で毒を看破した時、オマエが僕達に向けて氷属性魔法を放ちながら語ったんだ。


『幼い頃に皇宮で見た時からずっと、エミリオ様が好きだった』

『先にあのカリナに婚約されてしまい、悔しさで夜も眠れなかった』

『帝立学院に入学したら、今度はアリアという馬鹿な女がエミリオ様に手を出した』

『だから私はそれを利用して、馬鹿女を(あお)ってけしかけ、卒業記念パーティーで婚約破棄をさせるように仕向けさせた』

『迷宮刑にされてしまったのは想定外だけど、ここなら邪魔者を全員排除(・・)しても問題ない』


 そして。


『私は、エミリオ様とこの迷宮で永遠に添い遂げる』


 そう言って、恍惚(こうこつ)の表情を浮かべていたオマエに、気持ち悪さを覚えたよ。

 だから、この最後の現実では、そんな不快な言葉は勘弁だ。


「……リリアナ様……いいえ、リリアナ。そんなくだらない理由で、私の大切な(・・・・・)イヴァンを殺そうとしたのですか?」

「「っ!?」」


 静かに放たれた、ナディアの凍えるような声に、リリアナ令嬢ばかりか僕まで思わず息を飲んだ。

 何千回と悪夢を繰り返してきた僕だけど、ここまで怒っているナディアは数えるほどしかない。

 少なくとも、夢の中でリリアナ令嬢と対峙した時には、一度もこんなことはなかったのに……。


「そ、それが何か? エミリオ様に失礼な真似をしたのですから、当然の報い……っ!?」

「もう結構です。【プルソン】」


 突然、リリアナ令嬢の前に光の魔法陣が現れ、タキシードを着た二足歩行の豹が、恭しく一礼した。

お読みいただき、ありがとうございました!


また、本日から新作の投稿を開始しました!


十年間繰り返される悪夢で幾千の死を乗り越え、僕は婚約破棄されて『迷宮刑』に処せられた地味で優しい子爵令嬢を救い、幸せになりました。


下のタグから飛べます!

絶対に面白いのでぜひよろしくお願いします!


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