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ナディアのヤキモチ

「君達も無事だったんだな!」


 声をかけられ、眉根を寄せながら振り返ると、元皇太子エミリオ=デ=アストリアと、最低女のアリア=モレノ、そして財務大臣であるトーレス侯爵の令嬢、“リリアナ=トーレス”の三人がいた。


 しかも、三人……特にエミリオは、僕とナディアを見て心底嬉しそうな表情を浮かべている。


「ナディア、先を急ぎましょう」

「はい」


 僕はエミリオ達を一瞥(いちべつ)だけするとまた前へと向き直り、三人を無視して歩き出す……んだけど。


「ま、待て! この迷宮の中でバラバラに行動するのは危険だ! こ、ここは私達と一緒に行動しようじゃないか!」

「そ、そうですよ! 私達、一緒に学院で学んだ仲じゃないですか!」


 エミリオと最低女が駆け寄ってきて、必死に訴える。

 この二人がこんな行動にでるのには、もちろん理由があった。


 要はエミリオと最低女は、残る取り巻きの三人とカリナ令嬢達と揉めて、集団から追い出されてしまったのだ。


 だけど、そんなことになってしまうのは当然だ。

 だってエミリオはこの最低女を独占し、あの婚約破棄前から取り巻き達の不興を買っていたのだから。


 最低女自身は集団の中に残ることを選択したかったが、こちらもあのカリナ令嬢達が許すはずもない。

 今回は自分達の命がかかっているため、取り巻きもアリアは置いておくなどと、強く出るわけにもいかないしね。

 とはいえ、アイツ(・・・)はすぐに追いかけるだろうけど。


 そんなやり取りを、僕は夢の中で見てきたから。


「……失礼ですが、僕達はあなた方と一緒に行動しなくても一切困りませんし、何より、僕もナディアも、あなた方に尊厳を踏みにじられるような真似を受けたことはあっても、仲良くしたことはありませんから」

「イヴァンの言うとおりです。私は、入学二日目にドナトに加担して試合を仕組み、イヴァンをないがしろにしたエミリオ殿下……いえ、今はただの(・・・)エミリオですか。あなたを許すつもりはありません」


 僕の言葉に続き、ナディアも二人……というか、エミリオを静かな声で罵った。

 だけど君は、怒る理由も僕についてのことなんですね……。


 それだけで、僕の胸が熱くなる。


 すると。


「お待ちください」


 残るもう一人、リリアナ令嬢が表情を変えずに声をかけた。


「何でしょうか?」

「お二人のお怒りはごもっともです。ですが、ここは帝国の長い歴史において堕とされた罪人達が誰一人として還ることのなかった、あの(・・)“エテルナの迷宮”です。まずは生き延びることこそが先決かと」


 眼鏡の縁を指で持ち上げ、リリアナ令嬢が冷静に語る。

 だけど、彼女は何を言っているのだろうか。

 あまりの矛盾に、僕は首を傾げるばかりだ。


「でしたら、どうしてあなた方はたった(・・・)三人で行動しているのですか? そんなにおっしゃるのであれば、カリナ様達と一緒にいればいいではないですか」

「そ、それは……」


 ナディアに指摘され、リリアナ令嬢が言い淀む。


「とにかく、僕達だってカリナ令嬢達と同じですよ。あなた方と一緒に行動するつもりはありません。どうぞお引き取りください」

「ふふ……イヴァン、これ以上は時間の無駄です。早く先に進みましょう」

「はい」


 僕とナディアは微笑みながら頷き合い、三人を無視して今度こそ先へと進んだ。

 そしておそらく、アイツ(・・・)は僕達に射殺すような視線を向けていることだろう。


 そんな暇があるなら、さっさと邪魔者(・・・)を排除すればいいのに。


 などと考えていると。


「? ど、どうかしましたか?」


 気づけば、ナディアが僕の顔を(のぞ)き込んでいた。

 しかも、どこか不機嫌そうに。


 ぼ、僕は彼女に何か失礼なことでもしてしまったんだろうか……。


「……イヴァンは今、ひょっとしてリリアナ様のことをお考えでしたでしょうか……?」

「え、ええと……」


 ナディアに予期せずそんなことを問われ、思わず口ごもる。

 とはいえ、別にやましいことは一切考えてはいないけど。


「た、確かにリリアナ様は知的な雰囲気のある綺麗な御方ですが、そ、それでもこのような時に……」

「ぷ……あはははは!」


 そんなナディアの様子に、僕は思わず笑ってしまった。


「わ、笑いごとではありません! 私達は迷宮にいるのですから、ちゃんと節度は……っ!?」

「あはは、確かに僕は彼女のことを考えていました。ですが、君の考えていることとは全然違いますし、考えていたのは彼女のことだけではありませんよ?」

「あ……」


 ヤキモチを焼いてくれたナディアが愛おしくて、僕は思わず彼女を抱きしめてそう告げる。


「で、でしたらその……何を考えておられたのか、おっしゃってください……」


 先程までの勢いはどこへやら。ナディアは僕の胸の中で、消え入りそうな声でおずおずと答えを求めた。


「はい、喜んで」


 僕はナディアの耳元で、ささやくように説明すると。


「そ、そうだったんですね……そ、その……安心しました……」

「よかったです。僕も、あなたに誤解をされることが一番心苦しいですから」

「も、もう……」


 ナディアは口を尖らせるけど、その瞳も口調も、今はもう全然怒っている様子はない。

 それどころか、彼女の雰囲気はどこか嬉しそうで……。


「そ、それより、少し休憩しませんか? この第一階層もかなり歩き回りましたから」


 恥ずかしくなってしまったのか、ナディアがそんな提案をした。

 僕は周囲を見回し、ここが安全な場所であることを確認すると。


「そうですね。では、ここで食事も済ませてしまうことにしましょう」

「はい!」


 僕とナディアは隣同士並びながら、荷物の中から食糧を取り出す。

 といっても、ほとんどが干し肉やチーズといった、携帯用の保存食ばかりだけど。


 すると。


「「あ……」」


 僕達の前に、落ち込んだ表情のリリアナ令嬢が一人きりで現れた。

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