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端役は個性を出してはいけないが、関係者の目に留まる演技もしないといけない二律背反

感想コメのご忠告ありがとうございます(*。>Д<)。土日はサイトに入らないため反応が遅れて申し訳ありません。


向こう一週間の気温予想に絶望を感じる。しばらくは車に入れている缶コーヒーストックが自動でホットになってまう……

 シナリオが二転三転するというのはドラマだと売り文句のひとつなのだけど、これが製作段階での話では売れないドラマの定番である。


 スポンサーの無茶ぶり、役者の不祥事、切り詰められた予算とカツカツのスケジュール。


 多くの問題をこねくり回したあげくに何もかもがグッダグダ。ついさっきのシーンとさえ矛盾が生じるなんて、世にも恐ろしい低クオリティになりかねない。


 まあ今回の場合は当初のプロットに戻ってきた形なので、まだマシなほうだろう。若侍の性別も男のままになったし。


青柳(あおやぎ)はん! 今少し、いいえ(いんや)、もっと大げさなくらい大きく動いてんか! 見とる客に今どんな場面か、これがよう分かるよう立ち回るんが私たちあてら役者の仕事です!」


「は、はぁ」


「はぁ、じゃ()ありまへん!」


 あの場の勢いでスカウトした若侍役、東名山様が指導に困惑した言葉を出したせいで先輩役者のお栄姐さんからお小言を貰っていらっしゃる。


 その場の勢い、もとい誠心誠意を持って役者デビューを説得したところ、『上の許可が無くば』と意外に小賢しい逃げ口上をたれた東名山様。


 無駄な抵抗、ではなく迷われている姿勢を好機と見て、一気に寄り切るためすぐ立花様にお伺いを立てに走ったところ、我らの上司様は『よかろう』の一言で東名山の未練をバッサリと切って捨ててくれた。


 いつも不敵に笑っているイメージのこの方が、本気で『えぇ』という表情をしたのは非常に見物でした。


 後でこの話をして一座のみんなと盛り上がろう。木っ端芸人発言を聞いて浦衛門同様、多かれ少なかれ腹に抱えている物があるだろうし。ちょうどいいガス抜き材料になるだろう。


『勝負に必要というなら手を貸してやれ。そして、これにて貸し借り無しするがいい』


 刀の付喪神である東名山様には、うっかり屏風覗きの生気を吸い過ぎ昏倒させたという負い目がある。上の命令に加えてその点を出されてしまうと、さすがの妖刀様でも体よく断る口実は出せなかったようだ。


 こうして期待の新鋭役者、芸名・青柳(あおやぎ)となった東名山青江様は浦衛門に代わって主役の『若侍・速水』となるべく突貫工事の真っ最中です。


 幸い彼女自身も武具の付喪神としてか、武士の嗜みである狂言を齧っていた。おかげで物にするにもだいぶハードルは下がるようだ。舞台役者として必要な基礎的な知識や技能のいくつかを、狂言回しの経験で備えていたからだ。


 まあ狂言と芝居だとだいぶ違うんだけどさ。それでも屏風覗きのようなドがつく素人よりはマシだろう。


 ――――もちろん新参を据えたことで新たに出てきた問題もある。1番大きいのはそれまで主役を張っていた浦衛門の降板だろう。


 今回の芝居、『若侍日記・狸林編』において主役の若侍は東名山様こと青柳が行う。では役を降りた浦衛門は?


「速水さまぁ! あたいは、あんたのことがぁ!」


 内に秘めたままでいようとした愛を口にして、若侍の下に走り出した直前、悪党の手下によって無残に切られる娘。


 『お文』。彼女こそこの物語のキーパーソンたるゲストヒロインだ。


 最初は悪党の一味として登場するも若侍に恋をしてしまい、それが元で死ぬことになる。


 敵わぬ恋に目覚め、愛のために命を奪われる悲劇を運命づけられたヒロイン。


 これが今回の浦衛門の役だ。いつもは主役を張ってる看板役者がまさかのゲスト枠である。


 普通は主役替えなんて役者のプライド的にどうなのと思うだろう。だが過去の文鎮堂編では敵役で色恋パートのある『文鎮』役を演じたいと大真面目に言い出した子なので、役自体にはあまり拘りが無い性格なのが幸いした。


 むしろいつも男っぽい役ばかりなのを常日頃から不満だと口にしていたこともあり、完全なヒロインを演じるのはこれが初めてとかなり真剣である。

 赤金(あかがね)演技の主役は女役だけど、盗賊頭のイメージが先に来てヒロインとはちょっと違うからなぁ。恋愛パートも無いし。


 問題があるとすれば『浦衛門=若侍』で認識が固まっている客層かな。これも浦風一座の知名度が低い黄ノ国でなら、そこまで問題にはならないだろう。


 過去の舞台では噂を聞き付けた他国の道楽者たちもチラホラやってきていたらしいが、観たのが数回程度なら刷り込まれた者は多くないはず。


 まして今回披露するのは黄と白のお偉方だし。いやまあ、お忍びで観に来られた方もいるかもだけど。


 何気に立花様も観に行ったっぽいんだよね。宝石の事といい、あれで結構女の子らしい趣味があるみたいなのだ。以前の贈り物はシックなものを選んだけど、次はもう少しファンシー色を出してみようか?


 プレゼントの件はともかく、公平性を保つため芝居の詳細は伏せているから、芝居がどんな演目で誰がどんな役をするかまでは教えていない。


 あの方が浦衛門に隠れ推し活してたらどうしよう。男装の浦衛門こそ主食にしている腐った女子が彼女のファン層なんだよね。今回の配役、脚本書いた屏風覗きがジットリと恨まれそうだ。


「白石さま。もそっとこう背筋を丸めて、ちょいと首を傾けて、そうですそうです。穴倉の狸らしく陰険そうな空気を出していきましょう」


 ふたりの特訓の傍らで、屏風覗きも正面にチョコンと座ったチャンチャンコ着たタヌキこと、座長の設樂氏に演技指導を頂いている。なお股間についているものが気になってしょうがないのは秘密だ。


 彼はリアル寄りの経立さんなので、信楽焼きのタヌキのようなドデカい袋は無いんだけどな。でも犬や猫の小さいあれって、フリフリしてるとつい見ちゃうよね。


 そして熱心に指導に当たってくれるのはありがたいのだが、正体がタヌキさんである設樂氏に『穴倉の狸らしく陰険そうな』とか言われて、どう応じたら失礼でないかが悩みどころだ。


 ――――若侍役を東名山様。娘役が浦衛門と決まった今回の芝居。そうなると弾かれた屏風覗きはどうするか? 勝負の取り決めとして屏風(これ)も芝居に出ないといけないことになっているので、裏方という抜け道は潰されている。


 役者として大根以下レベルの屏風覗きが出演させて、それでも物語の空気を破たんさせずに済ませつつ、観ている客に『うわ、マジで出てるよあいつ』と分かる形に落とし込むというこの難題。


 これがその答え。『ラストにチラッとだけ出る真の黒幕』役だ。イメージはもちろん銀量寺の戒厳(かいげん)である。


「裏で糸を引く黒幕らしく、不敵にいやらしく笑うのです! 端役を軽んじられるな! 細かい台詞が無いぶん、身振りと表情にすべてを集約するのですぞ! これはいっそ長台詞より難しいことにございます! さあ、もっと性悪の古狸になり切って! 最後に出る自分こそが、他の役者どものすべてを喰ってやるつもりでいきましょうぞ!」


 設樂氏、経営担当かと思ったら意外と熱血指導。タスケテ。


<実績解除 役者修行 1000ポイント>

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