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別視点、立花 雀捕りの罠

誤字脱字のご指摘、いつもありがとうございます。


活動報告にあたたかいコメントありがとうございます(´ ˘ `) これまで書いてきたものが、こんな素敵な形で還ってくるとは思っておりませんでした

(カラス)。立ち寄った赤の地はどうであった?」


 ひと通りの報告を終えた折、立花は何気ない会話の風を装って中庭に跪く一羽の鴉『桔梗(ききょう)』に問いかけた。


「はっ。――――土地は変わらずやせ細り、多くは食うや食わずの者ばかりでございました」


 立花の問いかけにやや怯えながら言葉を選んで答えた(カラス)天狗は、二人を見ることなく縁側に腰掛けて足を揺らしている番傘にどうしても気を取られているようであった。


 次の瞬間には手にした傘によって、気まぐれに頭を叩き潰されるのではないかと想像しているのだろう。


 事実として、他国から下ってきた者を吟味もなしに殺すことが轆轤(ろくろ)にはあった。表向きの理由は彼女が『気に入らない』からである。


 もちろんその意図は別にあり、白玉御前の慈悲を当てにして日和見に下ってこようとする不心得者をわざと短慮に殺すことで、安易に頼ってこようとする愚か者を恐れさせる役割を担っているためだ。


 ――――勃興当初こそ来るもの拒まずの姿勢を取っていた白ノ国。それは白玉御前の慈悲によるものだが、慢性的な人手不足という実情もあった。


 だが国が大きくなるにつれて人が増えてくると、他国からやってくる者に許容できぬ毒が混じりだしたことを危惧した立花たち重職にある者たちは、その中でも目立つ経歴を持つ者に関しては入国に吟味を課すようになった。


 やがて世に聞かれることになる、白ノ国に入るに立ち塞がるは三枚の壁。太刀と蝦蟇と番傘と。


 冷淡に人材の価値を図る立花。笑みながら損得のみを図る牛坊主。


 そして血糊傘の轆轤(ろくろ)の勘気という、理合では測れぬ理不尽で弱者と悪意を持つ者をふるい落とす。


 この三者による冷酷な判断があればこそ白はより安泰に、御方の慈悲深さはより輝くのだ。


「今少し詳しく述べてみよ。貴様の感じた事柄としてだ。別に実情と違っていてもよい」


 元は赤の天狗であるこの桔梗(ききょう)。かつては天狗山の黒曜一派から派遣され、金で動く名うての無頼たちの指揮と監視をしていた女である。


 白の高名な職人である『皮剥ぎの万貫』を拉致せんと送り込まれた無頼たちを引き連れてきた桔梗(ききょう)


 だがどのような不運か、彼女らの計画はたまたまその場に居合わせていたひなわという一匹の(むじな)と、術の腕を見込まれて砦の建築に駆り出されていた屏風覗きというたった二人の兵の手によって阻止されている。


 無頼や赤の兵たちの多くは屏風覗きの『きうぶの術』によって惨殺、あるいは生け捕られており、この鴉もまたその生け捕られた一人であった。


 そして立花の判断によっていくつかの役目を与えられた虜囚の鴉はそれらを体を張ってこなし、これを持って禊を済ませたとされた桔梗(ききょう)は白の天狗としてこの国に帰順を許されたのである。


「まこと異様不可思議ながら――――緋の方のおわす都と、ごくわずかな村にて人々に生気が戻ってきていると感じました」


 滅びかけている国に言うことではありませんが。鴉はそう付け加えたところで番傘の冷たい視線に気付き縮こまる。


「他人事やのぉ? 国を滅ぼしかけたんはおどれら赤の天狗どもやろが」


轆轤(ろくろ)()。鴉が怯えまする。せっかく生えそろった羽がまた抜けてしまいますぞ」


 今にも胸倉を掴みに行きそうな傘を立花はやんわりと抑える。


 この鴉が白に属することは認めたがまだまだ信用していないし、それまでの行いを軽蔑しているのは立花も一緒だ。しかし轆轤(ろくろ)が鞭の役割をするなら己は飴でなければならない。


 この者の助命を口添えしてきたのが立花の直属の部下である屏風覗きであることもある。一度助けたにも関わらず大した理由もなく死なせたら、あの人間は立花に不信を抱くだろう。


(この鴉、無能ではないが有能とも言い難い。厄介なものを押し付けられたわ)


 持て余して牛坊主にどこぞの下女として使うよう投げたが、ちょうど足を使って動く調査や連絡役が必要な事が起こったため仕方なく立花が呼び戻して使っている。


 終生を下働きで終わらせるはずが、気付けば高官付きの間者の真似事をさせているのだから世の中とはどう動くか分からない。今日までどうにか生き残っているところといい、なかなか悪運だけは強い女だった。


「生気の戻った理由を貴様はなんと考える?」


 再び興味を無くした轆轤(ろくろ)を見計らい、立花は改めて質問する。


 極一部とはいえ赤に復興の兆しが見え出したという情報は、桔梗(ききょう)の知らせを聞かずとも別の形で立花たち重職の耳にも入っている。


 この質問は赤の実情に詳しい者が実際に見聞きした事から、白の出の者では分からぬ気付きがあるやもと考えてのものだ。


「緋の方は華山の協力を得て、赤の豪族たちを苛烈な方法でより分けております。それにより得た食料や財産を使い、緋の方に従順であったものを選んで助けているようです」


 これもまたすでに知っている話。立花は内心でこの鴉にいささか落胆する。あの屏風(変人)が助けるよう口添えしてきたことから、もう少し何か見所があるのではと思っていたからだ。


 とはいえ、名持ちとしてそこそこに顔が割れている桔梗(ききょう)に間者の真似事などさせているのは、本命の間者たちのための隠れ蓑でしかなく、これで良いと言えば良いのだが。


「また、白より贈られた種芋を育てることに希望を見出しているのかと」


 かつて食料支援として投げてやった芋を食わず、次の収穫のための種芋にしている村があるという。これは初耳だった。


 その食料運搬に関わった轆轤(ろくろ)から、『ほーん』という感心したのかまったく気がないのか分からない微妙な声が漏れた。


「それとこれは場末の賭博場(鉄火場)で聞いた眉唾の話ですが――――滅ぼした豪族から没収した財産を元手に、狐狸面(こりめん)が密かに賭博を催したと噂が」


「――――続けよ」


 赤が国営で大々的な賭博を始めようとしているという情報はある。だが狐狸面(こりめん)が関わると聞くのは初耳だ。立花はもちろん轆轤(ろくろ)もこの鴉の言葉に初めて明確に関心を向ける。


「勝てば莫大な財が入ると、他国からも博徒を呼び込んだようです。スカンピンが一夜で一攫千金と謳っておったとか。本当に些細な与太話なので深くは語られませんでした」


 狐狸面(こりめん)とは緋の方の側近となった狐、『三尾(さんび)金冠(きんかんむり)金毛(こんもう)』の事であろう。


 知恵者気取りの狐が何やら始めたようだと立花は小さくため息をつく。あれは確かに頭は回るし力もあるが、どこか抜けている節がある。というのが今の立花から見た金毛の人物評であった。


「どれだけ博打打ちが来たかは定かではありませんが、行って戻ってこない者もチラホラいるとか」


 行きつくところまで行った博徒の常として命まで張ったのか、あるいは稼いだ金を命と共に帰りにでも奪われたのか。しかしそれ以上の話は無く、立花も博打打ちの末路などに興味は無いので掘り下げることはしなかった。


「よろしい。国元に戻り牛坊主殿()に伝えよ。『雀の影を踏んだ』と」


 行脚の労いとして一分銀数枚を放ってやった立花は、その手を振って下がるよう申し付けた。本命の給金は牛坊主のほうからあるだろう。


「ははっ」


 尻を見せぬよう下がっていった鴉を胡散臭そうに見送った轆轤(ろくろ)は、立花に疑問をぶつけるような視線を向けた。


「影も何も、なんも見つかっとらんやろ」


 屏風からの報告で調べたものの、今の段階ではかの雀、夜鳥の姿を黄ノ国で見た者は屏風覗きだけだった。


 そのため立花の使った影の中には、あの人間が虚偽の報告をしたのではないかと忠言してくる者もいる。あるいは生気を吸われ過ぎて倒れた件を上げ、一時的に頭がやられていたのではないかと見立てる者もいた。


「だからだ。ちと燻してやろう」


 しかし立花も轆轤(ろくろ)も、あの阿呆があやふやな理由で他者を貶める者ではないと知っている。


 むしろあれは相手によほどの事情があるなら庇いさえするだろう。それで己が損をしても。


 ――――国の情報を網羅するあの雀は、武だけでは影の形さえ捉えられない。


 なら煌々と輝く疑惑の炎の内に晒してやろう。


 密かに油を巻いて回っている者ほど、己の与り知らぬところで火の手が上がれば、我を忘れて恐怖するに違いない。

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