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ちょっとした再会

前倒し分です。

 銀量寺において対応してくださる方は、ウェーブの掛かった髪をした蛇っぽい尼さんだった。


 確か『安西』と言ったはず。前回に文旦様とガサ入れに来た時、数名の尼僧たちの先頭に立って立ちはだかった方だ。


 どうも初めから戒厳(かいげん)とは距離を置いていた僧侶らしく、やつの悪事の証拠品が見つかった後もお咎めを受けた様子は無い。あのとき文旦様の兵の前に立ちはだかったのは、本当に仏門の僧として寺を荒らされたくなかったからなのだろう。


 つい蛇っぽい雰囲気だからと、証拠もなしに陰険で後ろ暗く見てしまった屏風覗きは無礼だった。


 あの時の事を謝ると、安西僧侶は首を静かに横に振って『むしろ私共こそ意固地になっておりました』と逆に謝られた。


 少し戒厳(かいげん)の話を聞くと、(あの者)たちの事は前から苦々しく思っていたが、寺を運営していくために必要な金を入れる者たちなので、変に物を言うことが出来なかったそうな。


 言えば『じゃあ、おまえは寺のためにいくら出したんだ?』と言われてしまうから。


「幽世において仏教は神社に比べてあまり支持されておりませんで。どうしても寄付が少なく、あのような者でも頼らねばならぬ面がありました」


 自責の念に堪えない、という顔で溜息をつく尼さん。僧仲間としてズルズルやってきてしまったことを今は悔いているという。


 ――――戒厳(かいげん)は法的には悪党ではあったが、仏道への敬意は彼女なりに持ち合わせていたらしい。


 だから下の悪党たちから吸い上げたお金から寺へ結構な量を流していたのだ。そのためこの寺にとっては一番の収入源でもあった。


 現世の大陸のほうでこれに似たような話がある。各地からせっせと略奪した金品をお寺にガンガン寄付していくという、敬虔な仏教徒であり賊でもあった男の話だ。


 略奪なんてやって敬虔などと言ってよいものかと、聞いた者は困惑すること請け合いである。


 それはそれ、これはこれと、彼の中だけでは辻褄があっていたのかもしれないが。単純にトータルでプラスなら良い理論だったのかもしれないな。仏教って死後の裁判は功罪相殺のシステムっぽいし。


「今後は地道に仏道を邁進して参ります。それが出来ずしてあの者を悪く言うなど、どの口がと言われましょうから」


 戒厳(かいげん)は寺の責任者の地位からすでに降ろされ、今後は公の場に姿を現すことはないだろう。問題のあった前任の後釜というのはそれはそれで辛いだろうが、自分で言ったように地道に頑張ってほしい。


 差し当たって今回の芝居では銀量寺サイドにも戒厳(黒幕)に抵抗していた良識派の僧たちがいた、という形にするつもりだ。


 世間にこのストーリーで芝居として上演していけば、少しは銀量寺への印象も回復するだろう。


「ありがたい。白の皆様には大変なご迷惑をお掛けいたしましたのに」


 いや、主に迷惑を被ったのは各地の民だ。黄や白だけじゃなく、赤や藍の者たちだって含まれるかもしれない。そこは間違えないで頂きたい。


 言い方がキツかったか。彼女の物言いについ口を挟んでしまい『心得違いをしておりましたっ』と頭を深く下げられてしまった。ちょっと罪悪感。


 ただしこれは事実だ。この件で一番迷惑を被ったのは長く悪党たちに好き勝手されてきた民衆なのは間違いない。


 いかん、らしくない事を。こんなやつが上から目線で何を言っているのだか。世間がどうであれ屏風(これ)は自分の事で手一杯だろうに。


 戒厳(かいげん)の事だって軽蔑できない。少なくとも彼女は寺の存続のために(じつ)のある功績を立てていた。


 ならそれはきっと、自分は何も出来ないクセに清く正しくと謳う無能な輩よりは上等だろうから。


 彼女とはいつかもう一度話してみたい。今はとても無理だろうけど、お互いに色々と落ち着いたときにでも。良いところの煎餅でも齧りながら。


「―――――伝えておきまする」


 うっかり零した呑気な言葉に呆れたのか、安西僧侶はとても複雑そうな顔をした。


「白石殿()。用事を昼前にこなさねば立花様に叱られますよ? 青大将の、(はよ)うして頂こう」


 おっといけない。ついしんみり話し込んでしまった。ここにはお払いに来たのだったな。外で遊んで待っている松や式神コンビのこともあるし、面倒な用事は早くこなして帰りは軽く黄の店でも冷やかそう。







 お祓いも終わって黄ノ国の町中に繰り出したのだが、道行く妖怪()からものすごく遠巻きにされている。


 理由は想像がついている。式神コンビと東名山様という最凶タッグの評判があるからだろう。


 襲った者の体を散らかすように殺していく式神たちと、無用な手数で犠牲者を切り刻むことを楽しむ妖刀青江。どちらも目をつけられたら最後、最悪の殺され方をする大凶カードである。


 それにこういった凶事を平気で行う妖怪というのは放つ雰囲気に()を感じさせるようで、弱い妖怪からすると本能がガンガン訴えてくるほど怖いものらしい。


 屏風覗きは偽妖怪なので雰囲気というのは感じられないが、秋雨氏などは慣れるのにだいぶ掛かっているからなぁ。それでも仲良くなれているのだからあの子の胆力も大したものだろう。


 それを言うと松は特に大したものだ。初めからおふたりを怖がっていなかった。考えてみると素性がさっぱりの子なんだよね、うちの松ちゃん。


 以前知り合いの中で一番知っていそうな矢盾に質問してみたのだが、彼女の本体である矢萩様から『世話をしていた村民も、あの鞍の付喪神については知らぬようだ』と返信があってそれっきりだった。


 松はいつのまにか白の辺境の地で荷駄馬として働いていて、誰も素性を知らぬまま便利に使っていただけらしい。この子があまり大事にされていなかった理由が分かるエピソードだった。


 誰の持ち物かもどこの者かも分からぬくたびれた荷駄馬となれば、それは扱いも雑になるだろう。


 あのときは中古車に大枚をはたいた気分で買ったけど、今ではこの子がうちの子になってくれて本当に良かったと思っている。


 とにかく度胸があっていざというときには危険を冒しても助けてくれる。どんな馬より良い馬だ。普段ちょっと屏風覗きに塩対応なのが玉に瑕だが。


 立花様の見立てでは、あと数十年もすれば人の言葉を話すようになるという。あの方の言う数十年がどのくらいのスパンか分からないが、そのとき開口一番に文句を言われないよう今後とも信頼関係を築いて行きたいものだ。


 出来れば屏風覗きが存命中に話をしてみたいものである。90年とかだとさすがに無理だから頑張っておくれ、松。


「あら?」


 欲望の赴くまま迷惑そうな松っちゃんの首をお構いなしに撫でていると、不意に意外なものを見たように刀として腰に差されていた東名山様が声を出す。


 隠れるように通り横からそっと半身を出して、こちらに深くお辞儀してきたのは若い女。その背には黒い鳥の翼がある。


 彼女の顔には覚えがあった。かつて皮剥ぎの婆さまを助けに行くときに捕らえた(カラス)天狗だ。


 名前は確か、桔梗(ききょう)と言ったか。

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