横に移動しつつ飛び道具を出すと成功しやすい
誤字脱字のご指摘をいつもありがとうございます。
黄砂でも飛んできているのか目がゴロゴロする。あれにヤバイ化学物質の残留物とか付着している気がするのは私だけでしょうかね。
完徹で朝を迎えて目をしょぼしょぼさせながら食事を頂く途中。
みるく様から昨夜の呪いの話が伝わったようで、立花様のお言いつけで念のためお祓いを受ける流れになった。
そこでお祓い場に選ばれたのは、選りにもよって銀量寺である。
オオトリの芸勝負を残しているのにそれはどうなんだろうと思わないでもないが、黄と白の両国としては『もう寺の深刻なトラブルは解決しました』と、世間にアピールしたい狙いもあるようだ。
まあ下っ端役人の屏風覗きとしては、上司に『ここに行け』と言われたら黙って行くだけである。
現世で無茶な場所と時間に出張をさせられるのに比べたら、尼さんタヌキの巣穴程度は気楽なものだ。
そして物のついでというわけではないが、先日のつれない態度を謝って式神コンビも外出に誘ってみた。
この子たちは御前の大事な守りなので断られるかもと思ったが、立花様から昼間までならよろしいと言われた事で、おふたりも快く付いてきてくれることになった。
本日の面子は式神コンビに東名山様。そして安定の松。今日もよろしく松っちゃん。
うちの松と式神コンビは仲良しなので、一緒だと両方の機嫌が良くなるのが何気にありがたい。
松はちょっと気分屋の面があるので、非常時以外だと屏風覗きの言うことはあまり聞いてくれないんだよね。だが足長様あたりを経由して目的地を決めると、任せろと言わんばかりに素直に進んでくれるのである。
まあ機嫌が悪くても最終的には運んでくれるけどさ。屏風覗きの知り合いはツンデレというか、何事にも1プッシュ必要なめんどくさい子が多いのは気のせいだろうか?
「では参りましょうか。フフッ、今日だけで狸の皮を何匹分剥ぐことになりましょうね? 我に獣の汚い血糊がついたら白石殿に手入れをして頂きましょう」
カチコミに行くわけじゃないです。当然のようにタヌキの皮算用をしないで頂きたい。
「うや?」
「今日は生臭坊主どもを蹴散らしにいくわけじゃないようだ。まあ、お楽しみは向こうが仕掛けてきてからになるねぃ」
屏風覗きの知り合いは武闘派というか、アイスバーンでのポンピングブレーキの如き小刻みなブレーキ役が必要な、実にめんどくさい子が多いのは気のせいだろうか?
お払いに行ったのに呪われて帰ってきたら本末転倒でしょ。というかよく考えたらこの面子、ブレーキ緩いやつばっかりやん。
助けてとばり殿。今日のあの子は別のお役目だからいないけどね! せめて心のとばり大明神に願掛けだけはしておこう。
ポコポコ、ポクポク。手長様の木魚を叩く音に合わせて足長様がロボットダンスを踊っている。実にシュール。
これはロボットというより『視界に入れていないと動いて襲ってくる系の人形』では? あえてぎこちなくギシギシと動く姿は油が切れて錆ついたブリキ人形のようだ。
どうだ! と言わんばかりに最後のポーズを決め終わった足長様に『りん』をひとつ鳴らす。
りんとは仏壇のチーンと鳴るアレ、その正式名称だ。木魚は有名だけどりんの名前は意外と知られていない気がする。だいたいチーンで通じるからだろうか。
「むやっ」
鐘ひとつならぬりんひとつの評価に『なんでだよ』と言いたげに抗議してくる足長様が可愛い。どうやら低評価されたと思われてしまったらしい。なんでそんなご長寿歌謡番組の採点システムを知っているのか。
関係ないけどあの番組、いつまでも昭和の空気感が漂っていてもはや怖いまである。実はあそこだけ時空の流れから逸脱してない?
「せっかく足長が踊ってやったというのに。おまえは酷いねぃ」
木魚を叩く棒でこちらの頭をポクポク始める手長様。痛っ、ちょっと普通に痛い。大きい木魚用のせいか地味に硬くて痛いぞこれ。
いや、鐘なら満点の鳴らし方をするんですけどね。これはそんなチンチン叩くものではないので。仮にも仏具、みだりな使い方は罰当たりでしょう。
――――寺には事前にお屋敷から使いが出ていたので、前回と違いわりとすんなり入れてくれた。
ただ朝っぱらということもあり、お払いのための準備には少しかかるというので、暇つぶしにお堂など見学させてもらっている次第。
しかしお寺なんて子供には詰まらないものであり、足長様がすっかり退屈されているのでダンスの披露会などやっている。ちょっとお行儀が悪いかもだが、先日にこの子のお誘いを断った負い目からつい甘やかしてしまいました。
妖怪という存在ばかりの国があったとして、そこで仏教や神道が普通に敬われている事を不思議に思う方はいるだろうか?
少なくとも幽世は妖怪の国だが、そこは東洋らしく西洋のように聖と魔が絶対に敵対している解釈では無い。
神社にお参りする妖怪もいれば、お寺でお経を読み上げる妖怪も普通にいる。
悪と魔とは別の話で、同一ではないのだ。お経をあげたところで別に苦しんだりはしないのである。
屏風覗きの解釈としては、神聖である事とは『存在がそうだから』ではなく、『清く正しくある』ことを言うのだろうと思っている。なら妖怪でも平気だろう。
そもそも物事を絶対正義とか絶対悪の二極に分けるのはナンセンスなんじゃないかな。なんであれ負の面と正の面があるものだ。
なにせ世の中の神様だって罪のひとつふたつ、お痛だってやらかしている方のほうが多いのだ。絶対に正しいわけもないだろうに。
日本神話など太陽神の姉の寝所に大をしてキレさせた弟神様とかいるしね。何をどうしてそうするに至ったのか。荒ぶる神の考えはさっぱりである。
まあ幽世の宗教の話はともかく。不満顔の足長様を宥めるために、代わりとしてイェーッという感じにハイタッチの姿勢を取って誤魔化してみた。子供相手と実に姑息。
すると青い肌の式神様はむくれ顔からすっと真顔になって、小さな両手でガードを固めつつこなれた感じにウィーピングを始めた。
違う、屏風覗きの右手はミット持ちではありません。痛い痛い。皮膚を弾くようなパンチで手の平がパンパン鳴っている。治った手がまたヒビが入りそう。お堂の床は足長様の足が擦れるたびリングの上であるかようにキュッ、キュッと鳴っている。
目線やガードの置き方がいちいち強打者の雰囲気があって怖い。いつのまにボクシング漫画の世界に入り込んでしまったのか。
「白石殿。準備が整いましてございます。こちらへ」
助かった。やってきた尼さんに礼を言って、突然始まってしまった足長ハードパンチャー物語のOP映像最後のシメとして、大きいパンチを1発要求する。さあフィニッシュだ足ノ内。
「うやっ!」
ボウリングの玉でも受けたような衝撃。うーん。強烈なアッパーというか、昇る竜のようなジャンピング具合。手がビリビリ痺れて超痛い。
ちなみに斜め飛びなので、ハチマキ無職のほうではなく暴れん坊のほうかもしれない。ボクシング漫画ではなくアーケード系だったか。シリーズによっては暴れられると手が付けられないんだよな、あの金髪イケメン。
来週月曜は祝日なので前倒しします。




