(時間が無いので)役者のアドリブに期待しています
誤字脱字のご指摘をいつもありがとうございます。
ついに二度風呂の季節到来。帰ってから風呂、寝る前に汗を流すためもうひと風呂しないと、肌がベタベタして布団に入りたくないっス
芸の勝負には浦風一座を招いて芝居をすることに決まった。
外部から応援を呼ぶのはだいぶグレーな気がしないでもないが、銀量寺側にはこちらに1週間の猶予を貰ったという弱みがある。
最終的な判断は黄の方と白の方に委ねられ、それで奉納される芸がより良いものになるなら構わぬとし、『良きに計らえ』とのお言葉を頂いた。
しかしここで白の方、つまり我らがボスからひとつのお題が課せられてしまい困っている。
――――曰く、これまで浦風一座で公演していない『新しい演目』のみをさし許す。
これには参った。芝居というのは台本が無いと出来ないのに。
初めは赤金演戯にしようと思っていたのだ。一座が直近までやっていて慣れているし、黄ノ国ならばまだ目新しい部類だから喜ばれるだろうと。
加えてここには運よく赤金の娘さんである秋雨氏もいる。
白での初公演においては話題作りと大仕掛け代わりに、3メートルものオオイヌの姿を取れる彼女に出演してもらっていた。これを黄でもやれれば掴みを取るには十分だろうから。
そんな気楽な目論見は白玉御前様からの課題で脆くも崩れ去ってしまった。これは銀量寺サイドとのバランス調整の結果なのか、ただのホワイトティーなお猫様の気まぐれか。どっちもありそうで辛い。
そしてこうなってしまうと避けようがない恐ろしい事が起きる。
「ここの台詞はどうなるんでっか?」
「おのれ狸どもぉ! いや、狸どもめぇ! 狸ごときがぁ! ううむ、しっくりこんな。白石様ぁ、ここはいかように?」
鋭意製作中! 鋭意執筆中です! いっそセリフ周りは残らず役者たちのアドリブを採用したい所存!
「いくつかの大道具は本物を使うしか無いのぉ。いちから作っとる時間がないわ」
「白石様、敵役の牛鬼の大きさはどんなもんで? 実物が無いと大きさがいちまいち分かりませんで、役者の立ち位置が決まりやせん」
大道具の貸付交渉はしてもらってるから、とりあえず見取り図の位置関係を見て。大きさは棒に印つけて出してあるから。それを並べて物があると仮定して立ち位置を考えてください。
「会場の音の響きが悪いのぉ。もうちっと大きな鳴り物を用意せねばカゲロウの屁みたいな音になってしまう」
「こりゃ持ち込んだものでは賄えませぬな。白石様、どこぞから借りられませぬか」
落ち着いて書いてる暇が無い!
何がキツイって、大本の台本を書きながら諸々の準備も口を挟まないといけないのがとにかくキツイ。これでもまだ良いほうだと分かっているけどさ。
切っ掛けはトラブルからとはいえ的屋元締めのお先さんという伝手を得たことで、お金さえ出せば芝居に使う物の調達は出来るのだ。これでもし知己が誰もいない状態だったら、まず足りない道具の調達からして苦労しただろうからね。
意識を執筆から引き離されるたびに気持ちが切れるのが地味に辛いなぁ。そしてこれだけでもしんどいのに問題点はまだあるのだ。
それはこの芝居に『屏風覗きも何らかの役で参加しなければいけない』という事。
脚本も芸のうちではと、御簾の向こうにおわす白玉御前様のお言葉を伝えて下さった立花様に、ごくごくささやかな抵抗をしたのだが無理だった。
おまえの勝負なんだから表に顔を出せ。一刀両断、バッサリである。厳しい。
こと芝居というものは『世界を作る』のが何より大事な芸だ。公演を観る者の心を物語のなかに引き込んで、初めて作品として成立する。
夢を売ると言い換えてもいい。夢と気付いては現実に立ち返ってしまう。一度白けてしまうと目の前でやっているのはどこまで行ってもしょっぱい学芸会だ。
下手くそな演技ひとつ、セリフひとつで観客は白けてしまい、冷静になった者は夢から覚めてしまうだろう。
つまりだ。素人が素人芝居なんてやろうものなら、どんなに他が良くてもすべてが台無しになるのだ。
ドラマなんかでよく見るプロ俳優群の中に、スポンサー都合で知名度だけのアイドルを放り込むような愚行である。
そして遺憾ながら屏風覗きはアイドルでさえない。
推しのアイドルが出てさえいれば作品内容なんてどうでもいいという、個人オンリーのファンさえいないのだ。マイナスだけに振り切れている負の大抜擢に恐怖しかない。
しかしボスがご所望ならばやるしかない。右手でボクシングしながら左手でダイコンすり下ろせと言われたら、喜んで右手でボクシングしつつ左手でダイコンするしかないのが宮仕え。
さらにサービスでタップダンスするくらい余裕を持たないと、この過去からの負債まみれになった現代では社会人としてやっていけない。
余計な事をするなと言うくせに、言われずともやれと言われる社会の矛盾よ。うっ、今日も頭痛が痛い。
とにかくセリフも演技も可能な限り少なく、それでいて顔だけは出すという役どころにするしかないだろう。
――――さらに問題は続く。屏風覗きたちが戻ってきたとき、まだ浦衛門の様子がおかしかったのだ。物の数時間で立ち直れというのが酷とは分かっているのだが。少し心配である。
あの子の面倒を見てくれたお栄さんの話では、芝居稽古に入れば切り替わるから平気だとの事だった。だから早く書いてくださいなとも無責任に言われたが。
時間的にあまり長いものは書けないし、書いても十分な稽古は出来ないだろう。となればここは見せ場主体で一転突破を図るしかない。
題名は『若侍日記・狸寺編(仮)』。
約束通り戒厳の悪名を芝居として存分に知らしめるストーリー。なのだが、時間的にそこまで行かなくなってしまった。
なのでそのひとつ前、下町での捕り物を主体として話を作ることにする。
今回は知り合いのご隠居の物見遊山に付き合い、黄ノ国にやって来た若侍一行という体で導入を始める。
そこで役人とゴロツキの不正よる陰謀に巻き込まれた彼らは、身の潔白の証明と泣かされている町人のため、いつものメンバーで立ち上がるというストーリーだ。
若侍役はもちろんこのシリーズの主役である浦衛門。
ラストは黒幕である戒厳のシルエットをちょろっと出して、『オレたちの戦いはこれからだ』エンドという事でひとつ。
いやもうとにかく制作時間がね、ぜんぜん足りないの。もはや『続きは映画館で』という、とある特撮作品の如く炎上騒ぎを辞さない勢いです。
そしてこのエピソードにはお栄さんたちから強い要望を入れられて、事実譚には無いひとつのテーマを加えることになった。
それは恋愛。主役の若侍はこのエピソードにて、叶うことのない淡い恋をするのだ。
まさに旅路の間だけの割り切ったロマンス。なんだろう、ここだけ聞くと昭和バブル時代の濁ったトレンディドラマ臭が半端ない。
「お相手は白石様でよろしゅう」
お栄さんタイム! それだと屏風覗きがオネエになるか、衆道の物語になってしまうんですが!?




