15話 女僧侶の最高に楽しい冒険もこれから始まる件
ーー
「今日の報酬になります、お受け取り下さい」
ギルド受付のお姉さんから報酬を受け取ると、女剣士はいつも通り分配する」
「一人75カッパー……か」
女僧侶はため息をついた。
最近のうちらの実力からすると、報酬はだいぶ少ない。
これが続くとなると、はっきり言って不満だ。
しかし……。
「こんなに、冒険が楽しかったのは……、いや、生きていてこんなに楽しかった日は初めてだ。遊び人、ありがとう」
「いえ、私はなにも……でも、良かったです。これからも頑張りましょうね」
遊び人と女剣士は、少ない報酬にも関わらず、これ以上ないほど嬉しそうな表情を見せ、熱い握手を交わしている。
遊び人の得意武器? が鼻メガネなら、女剣士の得意武器? は花のようだ。
あのあとも、女剣士は鎧のいたるところから花を咲かせてみせた。時には、倒れたゴブリンの股からも花を咲かせていた。
『股』『花』というのが、女剣士が思う面白さのツボのようだ。その感性は女僧侶にはよく分からないが。
しかし、よく分からないなりに、女剣士はかなりセンスがあるように見えた。あの遊び人でさえ、最初のころはダイスを転がしたりしていただけだったのに。きっと、遊び人に本当に憧れて、ああしたい、こうしたい、と日々思考を巡らせていたのだろう。
女剣士が鼻メガネをかけて、その目の部分から花を咲かせたときは、本当に結構面白かった。笑わないよう心がけようとしていた女僧侶が、その時ついに笑ってしまったのだ。それを皮切りに、2人がなにをやっても面白くなってしまい、女僧侶は今日の冒険の後半は笑いっぱなしだった。そしてそれを見て、嬉しそうにする遊び人と女剣士。あまりに楽しそうにする女剣士自身に笑ってしまった部分もある。
不覚にも女僧侶は、あの2人の独特な世界観と一体化してしまったのだ。そして、そこが意外と心地良かった。
本当に、何でもやってみないと分からないものだ。まさか女剣士があんなことをするなんて。
「ふふーん、あ、女僧侶、また明日〜」
女剣士はご機嫌にそう言うと、遊び人と一緒に去っていく。また遊び人の宿舎に泊まるのだろうか。
「ふぅ……、じゃあうちも宿舎に戻ろうかな」
女僧侶は、今日の楽しそうな2人を振り返り、報酬の多い少ないで一喜一憂していた自分がちっぽけに見えてきた。
高い報酬をもらったところで、女僧侶のすることといったら、主に『浪費』だった。高い宿舎に住んだり、可愛い服を買ったり、美味しいものや甘いものを食べたり。いっとき得られる喜びが過ぎ去ると、またすぐ乾きのようなものが押し寄せるのを女僧侶を感じていた。
報酬が少なくてもあんなに嬉しそうに満たされているような女剣士が、たくさん報酬をもらっても、お金に固執せず孤児院にあっさり寄付してしまう遊び人が、女僧侶には輝かしく見えた。
「やりたいこと……うちの本当にやりたいこと」
女僧侶は考え始めた。
今日の冒険の後半は、女僧侶にとっても楽しかった。あの2人の芸に笑って過ごす時間は。
本当は認めたくなかったが、もう認めるしかない。
ただ、鼻メガネは、もう飽きたと思う。
もし、もし私だったら……、もし私が何かするなら……。
女僧侶は、そんなことを考え始めていた。
見ているだけであの楽しさなら、もし……もし……。
ーー
翌日。
「おはようございます、女僧侶さん」「おはよう、女僧侶」
遊び人と女剣士は、仲良く2人で待ち合わせ場所で待っていた。
遅れて待ち合わせ場所に来た女僧侶は、緊張していた。
女僧侶は、2人の目の前に立つと、思い切った様子で土下座をし出した。
「お願いします。うちも……うちも、遊び人としてやってみたい、です」
女僧侶は、しばらく頭を地面につけたまま、動かなかった。
2人は、どういう反応をしているだろう。全く予想が付かない。
「女僧侶さん、頭を上げてください」
遊び人がそう言うと、女僧侶は頭を上げて、2人の方に顔を向けた。
「ぶっ」
女剣士は吹き出した。
女僧侶の顔に、おもしろ顏のお面が付けられているのだ。
女剣士にウケたことが嬉しく、女僧侶はお面を外して笑顔を見せるが、よく見ると遊び人は全然笑ってない。
「私それ、ギルドで他の人がやっているのを見たことあります。あなた、それただ真似をしているだけじゃないんですか?」
「う……」
女僧侶は渋い顔をした。確かにこのネタは他人のパクリだったが、遊び人は知らないと思っていたのだ。
「だめですね、それじゃあ。私は認められないです」
遊び人は、冷たい声でそう言い放った。
「……え、え?」
女僧侶は、一気に不安になった。なんだかんだ、遊び人であれば受け入れてくれると思ったのだ。うちじゃ、遊びを教えてくれないのだろうか……。うちじゃ、2人の仲間には……なれないのだろうか。
「一刻、時間をあげます。あなたの心の奥底にある面白さ、楽しさ、探してきて下さい」
遊び人は、厳しい声でそう言った。
「え、えっと、それじゃあ」
「いいですか。私は……厳しいですよ」
遊び人はそう言うと、ニコッと微笑んだ。
「……うん、分かった」
女僧侶は一気に安堵し、駆け足で冒険者ギルドを出て行った。
女僧侶の楽しい冒険は、ここからが本番だ。
これから、笑いの絶えない、楽しい冒険の日々が待っているのだから。
いつも鼻フックをしており、モンスター投げ飛ばすたびに、快感の叫び声とともに独特のギャグを連発すると噂の、変な僧侶が冒険者の間で話題になるのは、これから少し先の話である。
今まで読んでくださってありがとうございました。
もし興味あれば、他作品もご覧ください。