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デッド・サンライズ  作者: 青蓮
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第一話 夢の新製品

 だいぶ前に書いたものですが、環境問題から発展させたゾンビものです。

 悪気なく、人と地球のために開発された物質は、人と地球に何をもたらすのでしょうか。


 開発してしまった研究者が、主人公です。

 環境問題とは、人が暮らす事によって起こった環境の有害な変化、すなわち人災である。

 ならば、我々に降りかかったこの災いも、環境問題といえるのだろうか……。


 太陽の光は、いつも我々に降り注ぐ。

 太古の時代からずっと、我々人類は太陽の恵みを受けて暮らしてきた。

 しかし最近、その太陽光が人体に害を与えているという。

 紫外線だ。

 人類は暮らしを豊かにするため、空気を冷やすための理想の物質、フロンガスを発明した。

 フロンガスは爆発もせず毒性も低かったので、人類はそれを大量に使った。エアコン、冷蔵庫、工場で使う冷媒……それらは、それなしでは生きていけなくなるほど便利な道具だった。

 しかし、フロンガスには一つ欠点があった。

 太古の昔からずっと人類を紫外線から守ってきた、オゾン層を壊すのだ。

 人類がそれに気付いた時には、すでにオゾン層はだいぶ薄くなっていた。

 太陽光は積極的に浴びるべきものから、浴びすぎてはいけないものになった。

 環境の有害な変化だ。

 これが発端だった。


 人類はせめてこれ以上進行させてはいけないと、オゾン層を破壊しない代わりの物質を探し始めた。

 代替フロンである。

 しかし、これは温暖化を進行させる作用が強烈だった。

 それこそ、二酸化炭素の数百倍も、数千倍も。

 それでも人類は代替フロンを選択した。温暖化よりもオゾン層が薄くなる方が人類に……特に先進国の白人にとっては大問題だったからだ。

 そして代替フロンが温暖化を起こすことをひた隠しにして、二酸化炭素を減らそうと叫んだ。

 バカな話だ、代替フロンを少し控えれば二酸化炭素を何百倍も減らした事にできるのに。

 温暖化は、今なお進行している。

 むろん科学者たちも、手をこまねいて見ている訳ではなかった。


 ある日、世界を超新星のような明るいニュースが走った。

「夢の新冷媒を発見!

 オゾン層破壊も温暖化も起こさず、毒性もほとんどない!!」

 フロンと代替フロンの両方の欠点を持たない、第三の冷媒が発明されたのだ。

「この物質はギリシャ神話に出てくる神の食物の名をとって、アンブロシアと命名されました!」

 テレビの中で、キャスターが満面の笑みを浮かべる。

 キャスターがマイクを向けると、開発者が得意げに胸を張って紹介を始めた。

「この物質は聞いてのとおり、オゾン層破壊も温暖化も起こしません。

 つまり、いくら使っても環境に害がないという意味です。

 今までの冷媒はいわば、使うたびに地球の命を削っているようなものでした。しかし、これを使うことで我々は地球を少しでも不死に近づけられる訳です。

 よって、不死をもたらす神々の食物、アンブロシアと名付けました」

 紹介が終わると、またキャスターがマイクを持って黄色い声ではしゃぐ。

 テレビを見ていたマイケルは、ずいぶん虫のいい話だなと思った。

 それを察したのか、同僚のケリーが軽い調子で言った。

「おいおい、おれたちが作った物質じゃないか。

 もっと嬉しそうな顔しろよ!」

 そうとも、アンブロシアは自分が勤めるオリンポス社で開発したものだ。マイケルはそれを開発した研究者ではないが、アンブロシアの事は耳にたこができるほど聞かされていた。

 安全性が高い事、通常の燃料ガスより簡単な設備で扱える事……等々。

 実用化が決まった時のケリーの表情は、今でも目に浮かぶようだ。

「しかし……少々実用化が早すぎやしないか?」

 マイケルが指摘すると、ケリーはふと笑みを絶やして目を閉じた。

「仕方ないさ、実用化を早くするように上から圧力がかかったんだ。

 世界は環境問題に苦しみ続けている、少しでも早く世に出すべきだってな……。その方が確実に利益は大きくなる、安全性の長期リサーチは手間も金も半端なくかかるから」

 マイケルにもそれは分かる。

 しかし、マイケルはどうにもすっきりしない気分だった。

 浮かない顔のマイケルに、ケリーは明るく言った。

「まあ、そんなに心配する事はないさ。

 アンブロシアはフロンガスと同じで、空気中に放出されると地表にとどまらずに成層圏まで上っていく性質がある。

 多少何かあっても、おれらの暮らしている場所にとどまらなきゃ問題ない」

 正直、心の底から同意はできない意見だ。

 しかしケリーも、納得できない自分に言い聞かせているのかもしれない。

 研究者とは、研究を支持してくれる者がいてこその身分だ。後ろ盾がなくなれば生活していけなくなる事は皆分かっている。

 だから、上が急げと言えば逆らう事はできなかっただろう。

 マイケルもケリーも今はただ、何も起こらないことを祈るだけだった。


 研究者たちの心中とは裏腹に、アンブロシアの普及はすさまじい速さで進んだ。

 新製品のエアコンや冷蔵庫は、漏れなくアンブロシアを使用したものとなった。

 その買い替えに伴う古い家電の大量廃棄が、むしろ環境テロだと騒がれもした。

 しかしその声は、温暖化対策の名のもとにかき消された。

 アンブロシアの安全性の高さに油断したのか、かなりの量の漏出事故が何件も起こった。しかし近隣住民の被害はほぼ無かった。

 その事故は、アンブロシアの人気をかえって押し上げた。

 オリンポス社はあっという間に世界有数のブランドにのし上がり、マイケルたち他の研究室の職員も給料がはね上がった。

 おかげでマイケルは景色のいい場所に別荘を買うことができた。

 しかも社名のブランド効果で、今まで全く縁がなかった女が寄ってくるようになった。

 美人の妻をめとり、子も生まれて、それはそれは幸せになった。

 マイケルにとっては、夢のような毎日だった。

 そこまでの幸せを手にすれば、さすがのマイケルもアンブロシアに感謝せずにいられなかった。

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