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14:

イケメンがどや顔でふんぞり返ってるのはまぁなかなかに腹立つものがあるが(例:猿河修司)、ぱっとしない根暗系メガネ地味男が偉そうにしてもそれはそれでぶっとばしたくなるものだ。これ実体験ね。


「君と俺が手を組めば必ず猿河を陥れる事が可能だ。そうすれば君は晴れて自由の身だ」という言葉にうっかり乗せられ、如月さんという男子(実は二年生の先輩だった)と手を組むことを持ちかけられたのが昨日。



そしてその翌日、即ち今日、如月さんに場所を指定して呼び出された。

場所は最初全然分からなく部活の朝練で学校にすでに来ていた沙耶ちゃんに聞いてやっと辿りついた。くれぐれも内密にな、とか言ってたけど知るか!そんな辺鄙な所分かるかバカ!よりによって旧校舎の中にあるのかよ!(実はうちの学校は渡り廊下を挟んで旧校舎、新校舎に分かれている。授業で使っているのはほぼ新校舎で、旧校舎に行ったのは学校見学の時くらいだった)



「あ、あの…こんな所に朝早くから(朝8時5分)呼び出して何する気ですか、何も知らない16歳女子高生に…」


「こんな所とはなんだ、こんな所とは。ここは我が神聖なる光画部部室だぞ」


まぁ、部屋の外に張り紙してたから知ってましたけど。

光画部か。あんまり目立たないからあるのを忘れたけどそういえばあった。結構いい部屋をもらっている。しかも部屋に扇風機や旧型のゲーム機や炊飯器など大凡活動には関係ないものまである。誰かの私物だろうか。

ていうか光画ってなんだよ、光画って。素直に写真部っていえよ。

如月さんは一人なんかちょっと良さげな背もたれ付きの椅子に座り、首にはトレードマークの1眼のカメラ、私を立たせたままドヤァアアと半笑い。うわぁ、腹立つわぁ。


「ここに一人で来たということは、俺の計画に協力するってことでいいんだな。目標の達成のために何をされても文句を言ったり、逆らったり、抵抗してはならない。鬼丸、貴様は今日から俺の忠実なる駒だ!いいな?」


「え、よくないよくない」


ああ⁉︎と如月さんが目を剥く。思いの外ギョロ目でグロかったが、不思議なことに全く怖くはなかった。

ていうか貴様とか普通に会話で使うんじゃない。昨日は君呼びだっただろ、なぜ貴様にクラスチェンジした。


「ああ⁉︎じゃないですって。そんなの許可できるわけないじゃないですか。なんですかその傭兵入隊誓約みたいな約束させられなきゃいいじゃないですか。大体おかしいですよ、常識的に考えて。そもそも…」


「じゃあ、このまま高校生活三年間このまま猿河の奴隷でいいんだな?」


如月さんは私の反論に被せて言い放った言葉に「う゛っ…」と詰まる。


「で、でも愛でる会の皆は、よくしてくれるしぃ…」


「そんなの猿河の匙加減ひとつで決まるだろ。気まぐれで、貴様をどうとでも扱えるんだ。雑用を押しつけられ、暴言を吐かれ、パシリにされるのをこの先ずっと我慢し続けるのか?」


「え、ちょっと待って。そんなに全部把握してるならなんで助けてくれないんですか。それどころか、なんで私と猿河氏の写真を掲示板に貼るなんて真似したんです?」


「はぁ?なぜ俺が貴様を助けなきゃならん。王子とか呼ばれ1年のくせに調子に乗り続けている猿河の化けの皮を剥がすのが俺の使命だと自負してるが、貴様を助けたり庇う義理なんてひとつもないじゃないか」


なんだただのゲスか。


「女子どもはあれを完全無欠のスーパーアイドルかなにか、あるいは何一つ穢れのない聖人君子で崇拝の対象だと思っている。彼女たち目を覚まさせるには、イメージを壊すような一面を知らしめることがまず不信感を煽るための第一歩だと感じた。しかし、猿河は無駄に誤魔化すのがうまくそしてなかなか決定的になることをしない。俺もやつが入学してから何度か見張っていたが、顔だけのたいした人間ではないということは分かっておきながら大したネタは掴めないでいた」


「それは、なんていうか…」


モテない男の僻み乙。


「だが、そこに突然貴様が現れた!何故か知らんが猿河は貴様には素を出し、今までは考えられなかった大胆な行動を取る。しかも昨日のようなエロ行為までする始末!なんだ昨日のアレは、保健室のベッドでもぞもぞもぞ破廉恥な!俺は『なぜこんなしょぼい女に…』と猿河の性癖を疑ったくらいだぞ!」


「ちょいちょい失礼なくらい正直だなぁ、如月さんは。ていうか、あれは単に私がこちょばされるのに弱いのを思いがけず発見して面白くなってやりすぎただけじゃないですか?」


「はぁああ?カマトトぶるブスはムカつくだけだぞ?男から女に触る時に100パー下心がないなんて、あり得ないからな!どんな状況でも確実に心の片隅ではエロいことを考えているからな。即ち、猿河は貴様に多少なりともエロスを感じているのは間違いない!」


そこまで言い切り、ドヤァアア…と本日二回目の如月印のどや顔で私を指差す。


「下心があるってそれ如月さんだけなんじゃないですか?ちょっと気持ち悪いんで半径2m以内に来ないで下さい」


ドン引きして如月さんからずずずと後ずさる。この草食系男子の蔓延る現代になにいってんだ、こいつ。これは絶対童貞をこじらせてやがるな。


「貴様、信じてないな⁉︎今言った事は限りなくこの世の真理だぞ!」


「残念ながら信じるべき証拠が何も無いです。

だいたいなんで昨日ベッドの下にいたんですか、如月さん。証拠を撮るにしても、あんなところに居ても何も撮れないじゃないですか」


「そりゃああんな密室でカーテンを引き出して二人で入って行ったらおっぱじめたと思うだろう、常識的に考えて。そりゃあ後学の為に音だけでも聞くに越した事はないだろう。よって、忍びこむしかないだろう、見つからないよう隠れるだろうが」


「うわぁ。キモーイ」


「や、喧しい!本題に戻るぞ。俺は最近の猿河の行動を見て、奴に鉄鎚を下すには貴様が大変有効だと気付いた。そこで鬼丸、貴様に作戦の協力を要請する」


「だが断る」


「それをさらに断る」


「さらにその上、断る」


「断ることを断る」


「断ることを断ることを断る」


「断ることを断ることを断ることを断る」


「断ることを断ることを断ることを断わ…あー、もう訳分からんわ!もういいかげんにして下さい!」


ゲシュタルト崩壊を起こしかけてストップをかけると、畳みかけるように如月さんが怒鳴った。


「何が不満だ!貴様が猿河から解放する手助けをしてやろうというのに!ハッ、まさかあれほどコケにされておいて猿河にすでに惚れているとかいうそういう…まったくこれだから女というのは」


「違いますから。如月さんも私を利用する気マンマンじゃないですか。変なことやらされたら嫌ですよ。それなら自分でどうにかする方法を探します」


言い返したら、如月さんは腕を組んで「はん」と嗤った。すごくウザいと思った。


「一人で?見たところ流されやすいタイプとみた。そんなやつが果たして、無駄に狡猾で口の巧い猿河に対峙できるものか。味方になってくれそうな人が他にいるか?猿河の言うことより貴様の言い分を信じる人間がどこにいる?


如月さんの言っていることは殆ど真実だ。

さっきは自分で何とかすると言ったが、何とかできる自信はまったくない。


「…ふむ、少し俺も妥協してやろう。半年だ、半年以内に必ず奴を貶める証拠を手に入れる。その期限内に此方に協力しろ、以降は好きにしていい。どうしようと自由だ。それに俺と貴様は対等ということにしてやろう、一応俺が参謀で貴様に実行してもらうが嫌なミッションは拒否してくれて構わない。貴様が俺に意見する事を許そう。どうだ、ここまで妥協すれば拒否する理由がないだろ」


「う゛…う゛ぅ、なんか…いちいち上から目線で腹立つ…けど、わ、分かりました……。そういうことなら協力してもいいです」


こうして私は如月さんとタッグを組むことを決めた。

しかし、大丈夫か…失礼ながらこの人小物臭がプンプンする。アニメやホラー映画で最初の方にかませ犬的にあっさり死亡するようなキャラっぽいんだけど。ま、半年だし、例え失敗に終わるとしても私の痛手にはならないだろう。たぶん…。


「で、半年でやり遂げるって言いきるくらいですからよっぽど完璧な作戦なんですよね?一体どんな作戦だ」


それはだな…と眼鏡をかけ直し(ムカつく)、もったいぶるように(ムカつく)大きく言い放った。



「猿河にハニートラップを仕掛ける!」



ぽかんとするのも通り越して思わずコケた。なんのてらいもなく光画部部室のフローリングに全力のスライディングをかました。我ながらひな壇芸人が冷や汗をかくようなアグレッシヴなリアクションだと思う。


「まさか、そ、それを私が…?」


「話の流れでそれしかありえないだろ、貴様の頭に詰まっているのはカニミソか!」


「えーと、やっぱり協力の方、考えさせてもらっていいっすか?」


「はぁあ!?」


カニミソは貴様の頭ですよ、ばかやろう。

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