18 愛留奈の兄登場
あの後私達は、生徒会室で『高得点おめでとう会』をやることになった。発案者はもちろん香里奈だ。
そのための準備などをしていたらかなりの時間がかかってしまったため、龍次が先生にお願い(という名の脅迫)をして特別に泊まることを許可してもらった。
それを話すために一旦家に戻ることになり、最後に私――佐渡山愛留奈の家に行き、玄関を開けると佐渡山愛留奈の兄であり、香里奈を私の家に居候するように説得してくれた人物でもある佐渡山奈都希が私に抱きついてきた。
「愛留奈、お帰りー! 待ってたよー!」
「ぅぐっ……奈都希兄、ただいま……」
「あああ、やっぱり愛留奈は可愛いなぁ♪ 世界一の妹だ♪ 二度とこの手を離したくない!」
彼――佐渡山奈都希は背が高くてイケメンでおまけに成績優秀、運動神経抜群で女子が放っておかない容姿をしている。
しかしさっきのように妹依存性であるため、多くの女子に告白されても「妹が一番だから」という理由で全て断っている。早く自立しろバカ兄。
そんな奈都希の行動が突然のことすぎてついていけなくなったのか、皆呆然としていた。
そんな皆に気づいた奈都希は私を抱きしめたままの状態で自己紹介を始めた。
「僕は佐渡山奈都希! 今は二十歳の大学生で、愛留奈の兄をやってるからよろしく☆」
奈都希の自己紹介はテンションが高くて再び呆然としていたが、慌てて順々に自己紹介をしていった。
それを聞いた奈都希は頷いてリビングに上がるように言った。その腕を私は反射的に掴んだ。
「奈都希兄、今日は帰りが遅くなる。だから、そのために――」
「……………………………………は?」
あ、嫌な予感。
それは見事に的中し、奈都希はどこからか取り出した木刀を振り回し始めた。
「うわぁっ!!」
「ちょっ、愛留奈さんのお兄さん!?」
「俺の妹をたぶらかしたのはテメェらかぁぁぁぁぁぁっ!!! 気安く名前で呼んでんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「たぶらかしてなんてな――ぅわっ!!」
あ、ちなみに奈都希はマジギレすると一人称が『俺』になり、男女関係無しに攻撃してくる。
だからさっきも『僕』ではなかったし、女子であり居候している香里奈にも攻撃しようと……って、そんなのはどうでもいい!
一言で言うと、ここはいま修羅場とも地獄絵図とも言える状況へと化している。
奈都希を落ち着かせようとも、皆避けることに精一杯で案なんて考えられる訳もない=無事である私が考えないといけない。
(……仕方ない、あれを使うか)
そう心に決めた私は、暴れている奈都希に向かって叫んだ。
え? 近所迷惑? 大丈夫、私の家は「またか…」で済まされるから。
「奈都希兄ー! ちょっと来てー!」
「悪い! 今は忙しいからまた後で」
「(ボソッ)来てくれない奈都希兄嫌い」
「どうした? 愛留奈。俺に何か用かい?」
「「「はやっ!!」」」
香里奈や龍次だけでなく、大人しい真沙斗と楽しいことが好きな幸宏でさえも叫んでるけど、気にしないでおこう。
私は目の前にいる奈都希にむかって上目遣いで首を傾げながら言った。
「奈都希兄、行っても良いよね?」
「それだったら、俺も」
「(ボソッ)鬱陶しい奈都希兄嫌い」
「いや、僕は家で留守番してるよ。皆、愛留奈をよろしく」
一人称が変わり、皆にお辞儀をする奈都希に、本日三度目となるが呆然としていた。
そんなこんなで私達は全員参加で行う『高得点おめでとう会』をすることになった。
まさかこの会で、物語が確実にゲームと違ってきていると言うことを突きつけられるとも知らずに――――。